第6話 間者?

「どうですか? 悟性様」

「騎士団としての練度はかなりあるね」 


 悟性はユラと一緒に中庭を歩きながら、中庭で訓練している人々を見てそう言う。

 組織形態の大改革に関しては、メイとジョンに代替案を考えてもらっている。

 と言ってもその代替案を実行するのは、当分先の話になるだろう。

 だから悟性は、近々起こるであろう戦いに備えて、先に自国の軍事力を確認しておくことにしたのである。


「そういえば騎士団長って誰なの?」

「……賊との戦いで亡くなられました。ですので今現在は空席となっております」


 ユラは少し悲しそうにそう言った。

 騎士団長の任命権は、国王が持っている。

 つい最近まで国王が不在だったのだから、騎士団長を任命できる人間はいなかった。


「そうだったんだ……でも団長がいないわりにはしっかりと訓練してるんだね」

「かなり慕われてましたからね。恐らく自分達の手で、仇を討ちたいのでしょう」

「なるほど……」


 そんな会話をしながら歩いていると、中庭の端で日陰に寝転がっている人物を見つけた。

 悟性はその人物に、躊躇うことなく近づき声をかける。


「日陰で休憩ですか? ホール・ワードさん」

「これはこれは、国王陛下ではありませんか。話し合いはもうまとまったのですか」


 ホールは、立ち上がって軽く頭を下げてから、そう言った。


「なんの話かな?」

「前王の忘れ形見についての話をしていると思ったんだけど……勘違いでしたか?」


 ホールのその言葉を聞いて、ユラが悟性より一歩前に出て、いつでも守れる態勢をとる。

 ユラのそんな行動を見て、ホールは確信を持ったのだろう。

 一瞬ではあるが、笑っていた。

 悟性はそんな2人を見て、ため息をつく。


「ダメだよユラさん。こういう駆け引きでは、顔に出したり行動に移した時点で、そうであると認めてるようなもんなんだから。こういう時は顔色ひとつ変えずに、何のことですか? って返さないと」


 悟性の言葉を聞いて、ユラはハッとした表情を浮かべた。


「申し訳ございません。私のせいで……」

「謝るほどのことじゃないよ、今後同じ事がないように気をつけれくれればね。

……それよりも、なんでそう思ったのかの方が気になるな。教えてくれない、ホール?」


 悟性は無表情のままそう言った。


「陛下のお望みとあらば。俺はある筋から、前王の忘れ形見が何やらきな臭い動きをしている、との情報を手に入れました。ですので、その話をしているのではないかと予想したのです。逆にそうでなければ、国の存亡に関わりますからね」

「なるほど」


 確かに俺もそんな情報を手に入れたら、同じことを考えるな。

 悟性は共感して、頻りに頷く。


「俺のいってることを信じるんですか?」


 ホールはそんな疑問を、どこか少し嬉しそうに聞いてきた。


「共感できるからね。それに、態々警戒されるかもしれない危険を冒してまで、手に入れるべき情報でもないからね。国の動きをしっかりと見れてばわかることだし。でももし、俺がそう考える事を計算していたのなら、俺もお手上げ」

「……やはり陛下は、情報の重要性と活用方法を理解されているようだ」


 ホールは何かが吹っ切れたような、そんな表情で言う。


「悟性でいいよ。陛下って呼ばれるのは、慣れなくてね」

「わかりました。そういえばなにか用事があったのでは?」

「これから武器や装備を確認しに行くところだったんだ、ホールも一緒に来る?」

「いや、俺は遠慮させてもらいます」

「そっか。まー、また何かあったらよろしく」


 悟性はそう言いて歩き出す。

 それに続くように、ユラもついていく。


「よろしいのですか? それにあんな口のきき方」

「口のきき方に関しては、別になんでもいいよ。なんならユラさんもあんな感じで喋ってくれてもいいだよ?」

「いえ、そんな恐れ多いことできません」


 ユラは声を荒げることなく、冷静に答える。

 悟性は、少しぐらい慌ててくれたほうが面白かったのにと思いながらも、口には出さない。


「そう? 俺は本当に気にしないんだけどなー。でもそれは一先ず置いておいて、よろしいのですかってのは、ほっといて大丈夫なのかってこと?」

「はい」


「大丈夫だよ。さっきも言ったけど、危険を冒してまで手に入れる情報でもないんだよ。戦の準備ってのは、隠そうとして簡単に隠せるものじゃないからね。それとももしかして、国境が接してる2つの国のどちらかか、前国王の息子の手の者だと思った?」

「はい」


 ユラはそう言いながら頷く。

 だが悟性はすぐにそれを否定する。


「それは絶対にないよ」

「どうしてそう言い切れるのですか? 買収されている可能性は、十分にあると思うのですが」

「もちろん買収されている可能性はあるよ。でも考えてもみなよ、敵の中枢であり国王がいる城で働く人間だよ? 敵からしたらこんなに貴重な手駒はないよ。そんな貴重な人間を、たかが前国王の息子の話をしてたかの確認のために、捨て駒として使うわけがない」

「確かに、よく考えればそうですね」

「でしょ? だから最初からそんなに疑ってなかったんだよ。あれは俺の腹を探りに来ただけだよ。話の内容だって、どっちに転んでも俺の動揺は誘えたからね」


 ユラは一瞬でそんなことまで考えていたのかと、驚く。

 そして同時に、尊敬の眼差しで前を歩く悟性を見つめる。

 だが実際悟性は、一瞬でそれだけの事を考えた訳ではない。


 事前にどこかしらから、何らかの接触があるだろうと予測して、いくつかの可能性を考えていたのだ。

 その内の一つが見事に的中した、それだけの話なのだ。

 そしてそんな2人の後姿を見つめながら、ホールは呟く。


「ルシオ……あんたが選んだ男……俺も気に入っちまった」


 ホールはそう言いながら、空を見た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る