「お悩み! 急降下爆撃」のコーナー

「ネネ!」

「フミ!」

「「の!」」

「絨毯!」

「爆撃!」



「お悩み! 急降下爆撃!」


 実在した爆撃機の飛行音とジングルが流れたところで、日野さんのコーナー紹介。


「このコーナーは、あたしたちに真剣に考えて欲しい悩みや、一刀両断してほしい悩みをリスナーさんから募集しているコーナーです」

「採用率の低いコーナーなので、あまり送らないでくださいね」


 いつものように望月さんが、台本にないことを言ったところでお便りを渡す。


「ラジオネーム『見難いオタクの子』さんから頂きました。

『ネネフミさんこんばんは。僕はおたくっぽい見た目をどうにかしようと、まずは髪を整えるべく床屋ではなく美容院へ行くことを決意。

 初めての美容院で驚いたことがありました。美容師さんは施術中に話しかけてくるではないですか。床屋さんではただ黙々と髪を切られ、有線の音楽を聞いていましたが、ここではそうはいきません。

 見た目をどうにかしてもコミュ症オタクなのには変わりないのです。

 その時はどうにか切り抜けたものの、次回はどうすればよいでしょうか。

 おふたりは美容師さんとどのようなお話をしていますか?

 ぜひアドバイスやエピソードなどをお聞かせください』」


「あたしは、髪のお手入れとかファッションの話をするわね。仕事でもいろいろな衣装着るからたくさん情報を仕入れておきたいし……。あとバイクの話題とか?」

「バイク? 音々の乗ってる?」

「そうそう。美容師さんが『あのバイク、お客さんのですか?』って聞いてきて、それからバイクのエピソードを喋ったりしたの」

「音々とバイクの話ができるなんて、さっきコミュニティ能力が低いかもって言ってたの嘘じゃん」


 日野さんのバイクのお話はこのラジオ関係者の誰もついていけません。そもそも、男女問わず声優さんでバイクに乗っている方は珍しいのです。


「文は美容師さんとどういう話してるの?」

「仲の良い美容師さんはこの仕事をしているの知ってるから、問題にならない程度にお仕事の話かな? 近々イベントでどこに行きますよとか、今度放送されるこのアニメに出るんですよとか」

「美容師さんってアニメとか見ないんじゃ?」

「そんなことないわよ。秋葉原にオタク専用の美容院があるくらいだし、わたしの友達は美容師さんとロボットアニメの話で盛り上がったとか言ってたし、隠れオタクとか結構いるんじゃない?」

「隠れオタクは隠れてるから隠れオタクなんじゃ……」


 でも意外とバレているのが隠れオタクです。


「最近はパチンコとかでいろんなアニメが有名になったり、テレビにアイドルアニメが特集されたりしたから、それで知ってる人も意外と多いかもしれないよ」

「そう言われればそうね」


「それにね、『人間は生まれながらにして知ることを欲する』って言葉があるように、知らないことを楽しそうに喋ってくれるのは、聞いてて楽しいものなのよ。誰が言ったのか忘れたけど」

「ドヤ顔で言っても、そこが分からないとカッコつかないわよ」


 哲学者『アリストテレス』ですね。某ムダ知識番組でも使われていたので、望月さんはそこで覚えていたのでしょう。


「じゃあ、美容師さんがあまり話に食いついてこない時はどうする?」

「そうしたら……いっそ寝ちゃうとか」

「美容院で寝逃げって」

「この番組聞いてるくらいだし、みんな慢性的に寝不足でしょう? 髪切られてる時って思った以上にリラックスできるから、たまに寝ちゃうのよね」

「あたしは美容院で寝たことはないわ」

「じゃあ、相方は話が合わない美容師さんにあたった時どうする?」

「美容師さんを指名してるからそれはないわね。美容師さんの予定が合わない時は日付を変えたりして調整するし、毎回同じ人だわ」


「じゃあ、会話で困ることはないんだ」

「そうね。意外とおしゃべりなのかも」

「意外と?」

「なによ、文だけじゃなくてマーズまでそんな顔をして」

「意外って言葉を使ったのが意外で」

「おしゃべりといえばあんたも負けてないわよ、文」

「わたしそんなにおしゃべり?」

「意外と」


『意外』という言葉が意外とゲシュタルト崩壊を起こしそうなので、そろそろまとめるように合図を出します。


「じゃあそろそろまとめよう! まず望月からアドバイスを……雑誌を読む!」

「あー、置いてあるものね」

「そうそう、気になる記事を読んでれば美容師さんがその話題を振ってくれることもあるし、雑誌を読んでるんだなと思えば話しかけてこないこともあるし、どっちにしても過ごしやすい時間になるんじゃない?」


「なるほど。 続けて日野からアドバイス、この機会にコミュニティ能力を磨け!」

「ピンチはチャンスってこと?」

「そうそう。コミュニティ能力だって誰かと話をしたりしないと手に入らないものだし、美容師さんは話し上手なんだから胸を借りるつもりで挑め。

 それにラジオにお便りを出している次点でそれなりの伸びしろがあるんだし、それでいて見た目を磨こうと美容院に行くなんていい心がけよ。

 美容師さんの会話も含めて、リア充を目指す訓練だと思いなさい!」

「わたしの時みたいに美容師さんが意外とアニメとかの話についてくる可能性もあるし、知らなくても雑に扱ったりされないから安心して話をしてもいいと思うよ」


「というわけで、参考になったでしょうか。お便りをくれた『見難いオタクの子』さんだけではなく、みんなでリア充を目指しましょう」



 僕も美容院行ってみましょうか。外見とコミュ力を磨くために。

 続けて、日野さんにメールを渡します。


「ラジオネーム『孤独なピエロ』さんから頂きました。

『望月さん、日野さんこんばんは。僕は独り言が多いです。

 家にいる時もそうですし、車を運転している時もひとりでカーナビごっこをしていたり、ラジオにつっこみを入れたりしています。

 あまり良くない癖だと思うのですが、どうしたら治るのでしょうか?』」


「別にいいんじゃない?」

「えっ、独り言が多いと寂しい人って言うじゃない? この人はそういうのがイヤなんじゃないの?」

「わたしも独り言が多いわよ」

「寂しいの?」

「そんなことないわよ! わたしには音々がいるもの!」

「唐突な百合営業やめなさい」


 百合営業なんですかねこれ?


「わたしたちはしゃべる仕事をしているからいいんだけど、人間喋らないとダメな生き物なの」

「どうして? 声を出さなくたって死なないでしょ?」

「しゃべるのって結構なストレス解消にもなるし、頭の回転がよくなるの。それに人と話をしないのは鬱になる可能性もあるわ」

「あれ、このラジオこんなに真面目なことしゃべるラジオだっけ?」

「わたしはいつも真面目にしゃべってるよ! 作家さんも目をそらさない」


 だって……ねぇ?


「つまり! 普段しゃべらないから、その埋め合わせをするために独り言が癖になっちゃった可能性があるってこと」

「そういうもんなのかしらねぇ」

「相方はリア充寄りの人間だから、人としゃべらない日はないと思う。

 さっきの美容院の話題もそうだったけど、人によっては分かりづらい悩みかもしれないわねぇ」


「じゃあこの悩みが分からない日野からアドバイス……、人としゃべれ!」

「誰かと日常的に話をしていれば、独り言も自然と減るってこと?」

「そう。電話でもSNSの通話でもよし。仲の良い人と飲みに行ったり、オタクバーでバーテンダーと絡んだり、とにかく自分の好きなことを話せる相手と気が済むまでしゃべる!」

「わたしたちもこれだけ喋っても、一緒に飲みに行ってラジオで放送できない会話を四時間位するからね。お仕事以外の会話をするって結構重要だよね」

「独り言が多いってことは、もしかしたら仕事であまり人と会話しないのかもしれないから、とにかく人と喋る機会を作ることが重要だわ」


「それじゃ望月からのアドバイスは……別に治す必要はなし! だけど人前では減らしたほうがいい!」

「あ、人前では気をつけたほうがいいのね、やっぱり」

「そりゃそうよ、電波受信してるように周りからは見えると思うよ」

「確かに」


「なので『孤独なピエロ』や自分独り言が多いという方参考になったかな?」



(これラストです)

 そう日野さんに伝えてからお便りを渡します。


「ラジオネーム『ゆか』さんから頂きました。

『わたしはとても緊張症です。大学の発表でも緊張でカミカミになってしまい、大失態。今も会社のプレゼンなどがうまくいかず、取引先とのプレゼンには連れて行ってもらえません。

 ネネフミさん、この緊張症をどうにかするアドバイスをいただけないでしょうか?』」


「わたし望月も緊張するよ」

「あたしだってそうは見えないかもしれないけど、結構緊張してること多いわよ」


 そう言いますが、このラジオだけ聞いてるとまったく考えられませんね。


「オーディションのときとか実は無茶苦茶緊張してる」

「あたしはライブがやばい。言っていいのか分からないからまずかったカットしてね。ライブ前に胃が痛すぎるから胃を空にして挑んでるの」

「マジで?」

「マジマジ、だからライブ終わった後はめっちゃ食べる。んでスタッフさんから大食らいの称号をもらってる」

「ホントは酒飲みだよね?」


「文は緊張対策とかどうしてる?」

「文は、呪文を唱えてる」

「……みなさん、厨二病になったら上がり症や緊張症が治るみたいです」

「違うの! そんな『ラ・ヨダソウ・スティアーナ』みたいなのは言ってない!

 しかもこの言葉って特に意味は無いの!」


「じゃあなんて唱えてるの?」

「『わたしはかわいい』」

「『ワタシハカワイイ』?」

「自分に過剰とも言える自信を与えるの。もし可愛いキャラじゃなくて綺麗なキャラなら『わたしは綺麗』だし、強いキャラなら『わたしは強い』とか、それを待ち時間にずっと口にしてたり、声が出せない時はケータイに延々と打ってる」

「だから、呪文なのね」


 というより自己暗示ですかね。続けて望月さんは、

「コツは自分は世界で一番だと思うこと。

 自信過剰とか慢心とか伊達や酔狂でもいいから自信を持つこと。

 こういう呪文が必要な人はわたしも含めてあまり自身を持てない人だから、過度なくらいがちょうどよくなると思ってるよ」

「これをお便りをくれた『ゆか』さんに転用するなら『わたしはできる子』とか『わたしはエリート』とか?」

「そうそう。他にも『わたしのプレゼンは世界で一番わかりやすい』とか『わたしのプレゼンで会社は変わる』って感じになるかな?」

「でもこういうのって急には難しいんじゃない。他に実践してることある?」

「練習しまくる。演技なら台本を覚えるほど、プレゼンなら内容を丸暗記するほど」

「それで緊張解けるの?」

「やっぱり自信の話になっちゃうけど、内容を覚えちゃえば緊張して読み間違えることも減るし、いいと思うの」


「じゃあ文は台本丸暗記ってしたことあるの?」

「初めて名前のあるキャラの役をもらって、その台本を貰った日から無茶苦茶練習して、収録前までに全キャラのセリフ覚えて、音響監督さんに驚かれたことがある」

「結構努力家なのね」

「そんなことないわよ。練習してたら覚えただけ」


 覚えるほど練習するのは努力家の証ですよ。


「音々は全部出す以外に実践してることは?」

「女は度胸、喉元過ぎれば熱さを忘れる、案ずるより産むが易し、そんな言葉があるように腹くくるのが一番!」

「相方はそれができるからいいんだけど、多分このお便りの方は難しいと思うわよ」

「最初は難しいかもしれないけど、一度できるようになるとおどおどしなくなると思うわよ」


「では、まとめましょうか。まずは望月からアドバイス……自信を持て! 君ならできる!」

「ものの○姫みたいな言い方ね」

「自己啓発だよ、いい意味で」


「じゃ、日野からのアドバイスは……為せば成る! 為さねば成らぬ!」

「やっぱりそんなやり方なのね」

「文のアドバイスを実践した上で、あたしの言葉を思い出してもらえればいいじゃない?」


 どっちも力技みたいなものですけどね。ネットスラング風に言うと努力をして技術で殴ればいい、みたいな感じです。



「こんな風にちょっと深刻な悩みや、アドバイスの欲しい悩みを引き続き募集。

 以上『お悩み! 急降下爆撃』のコーナーでした」

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