ふつおたのコーナー
「「ネネフミの絨毯爆撃!!」」
「改めまして望月文です」
「日野音々です」
「相方よ。このラジオ局ってさ、秋葉原駅の真ん前にあるじゃん」
「台本には『ゴールデンウィークも終わり、秋葉原はそろそろ神田明神のお祭。
駅から徒歩3分以内なんて『B放送』くらいよね」
台本スルーはよくあることなので、気にしてないです。
「だからさ! 出待ちってされないかな?」
机に身を乗り出すように言う望月さん。
「バンドとかがライブ終わった後裏口から出てくるのを待ち伏せするやつ?」
「そう! 出待ちなんてされたら芸能人みたいだなぁって思って」
「芸能人よ! 声優っていう俳優! だから芸・能・人」
日野さんの言うとおりですよ。
最近は声優がテレビ番組持ってたり、音楽番組に出演したりするのが当たり前になってきたんですから、そういう意味でも芸能人ですよ。
「だって、声優なんて派遣社員みたいなものでしょ。
それも派遣されるにも毎回履歴書出して面接してそれでもコネで決まったり、
今話題だからって採用されたり……。
仕事自体は楽しいけどホントそこらへんのシステムクソよね」
「多方面に喧嘩売るなー! あと花も恥らう女性声優がクソとか言うな!」
望月さんのマネージャーさんが頭を抱えそうな発言。
事務所チェックも入るけど、その時に苦い顔をしているのが目に浮かびます。
「相方はそう思わないの!」
「思うに決まってるでしょ!」
続いて日野さんのマネージャーさんも胃の痛みを感じそうな発言がでましたね。
「そもそも! 声優なんて俳優とナレーターと歌手のパクリなんですよ!」
「おい、全国の声優に謝れ。そして一番あたしに謝れ」
「いやだって、そうじゃん。
芝居しつつ、ナレーション録りつつ、ダンスの練習しながら歌うんだよ。
こんな仕事してるの日本だけだよ」
「文、それだけじゃなくて、ゲームのシナリオ書いたり企画したり、
小説書いたり、モデルやったりしてる人もいるんだよ」
望月さんの言うとおり、今声優はマルチタレントのようなものです。
キャラクターソングという歌のカテゴリが出来上がり、声優さんがキャラクターの歌声を作るようになり、声優だけを紹介する雑誌が出来上がりモデルやアイドルのような仕事ができいます。
それに加えて本来の仕事であるナレーションやアニメへの出演もこなし、キャラクターとしてライブに出演し、人によってはアーティストデビューまでしてライブまでやったり……。
テレビに出ているような芸能人だってもうちょっと仕事は少ないでしょう。
にもかかわらず日野さんの言うとおり、役者とは違う分野の仕事を企画したり、やってみたり、同人誌即売会に出てみたり、多分野で活躍を魅せている方もいらっしゃいます。
「あと会社の社長ね」
「あ、それうちの事務所ね」
「知ってる」
日野さんが付け加えたのは、望月さんの所属する事務所の社長さんですね。
ひとりひとりが事務所の顔なのですが、望月さんはやりたい放題……。
本当にいいのでしょうか?
「というわけでお便りコーナーです~」
「は~い」
何事もなかったかのように始めやがりましたね、この方々。
「今の会話? 全部台本に決まってるじゃない」
何を見えすぎた嘘を言い出しやがりますかこの望月って人。
「そうそう、愛らしく可愛らしいキャラクターをたくさん演じている『望月文』がそんな長い時間をかけて作られた芸能界のシステムに喧嘩を売るわけないなじゃない」
「「ね~」」
「はい、構成作家さん首振ってないでお便りよこしなさい」
僕のせいにされましたよ……。とりあえず、日野さんにお便りを渡す。
「爆撃機ネーム『メエエエエ』さんから頂きました」
「ありがとうございます」
ラジオ番組によってラジオネームと言うところを○○ネームと番組にあやかってよく変えてますが、うちの番組ではタイトルにあやかって『爆撃機ネーム』というのを採用しています
「『アルパカが欲しい。
ってとあるアニメを見て思ったんですが、あの子たち一頭二五〇万円するらしいじゃないですか。
おふたりは欲しいと思ったけど無茶苦茶高くてあきらめた物ってありますか?』とのことです」
「そんなにするの?」
「あたしもメール読んで驚いたわー。まあ、大きさ的に一般家庭じゃ飼えないけど」
「音々は飼ってみたいって思ったことある?」
「モフモフしたいとは思ったことあるけど、世話が大変そう」
「剃った毛とかどうしたらいいのかしら? 売るの?」
「羊みたいに?」
「あ、作家さんがタブレットで調べてくれてますね」
「さすが、マーズくん!」
いや、日野さんに褒められても嬉しくないです。
口に出すと怒られるので言いませんが。
どうやら、地方によっては衣類の素材に使われてるらしいですね。調べたタブレットをおふたりに見せると、
「「売れるんだ!」」
まるで新しい商売のアイディアを見つけたように声を揃えましたね。
「わたし将来的に買おうかな、アルパカ」
「あ、あたしも資本金出す……じゃなくて手伝う」
日野さん今『資本金』って言いましたよね?
文字通り商売でも始めるんですかこの人達。
さっきのいろんなことしている声優さんリストに新しく『アルパカの毛を売る声優』として名を連ねるつもりですか!?
本業はどうするつもりなのでしょう?
「リスナーの皆さんも、わたしたちのアルパカ牧場運営にご協力いただけるようでしたら、ぜひ番組にお便りをください」
望月さんなに勝手に募集してるんですか?
(高すぎて買えないものってありました?)
おふたりは最後の質問を忘れているようですので、マイクに乗らないように聞いてみます。
「文が高すぎて買えないもの……家?」
「あたしはマンションとかかな」
「都内は高いんだよねぇ。かと言って地方だとお仕事ができなくなるし」
「もっとお給料よくならないかしら?」
「どこをちら見すれば良くなると思う?」
「事務所? 今日来てないプロデューサー? それとも政治家? お金持ち?」
「あまり深入りすると消されそうね」
「どこに?」
「《カノッサ機関》」
「だからどこなのそれ」
「世界を牛耳る裏の組織。あの戦争もこの《カノッサ機関》が裏から操作したと言われているんだよ」
「あーはいはい、そうですね。次のお便り頂戴」
お便りを選んで望月さんにつきつける。僕も《カノッサ機関》に消されたくはないですからね……。
「次のお便りね。爆撃機ネーム『サルミアッキ』さんから頂きました」
「どうも~」
「『先日某バンドのライブのために埼玉に行ったのですが、最初に間違えて新木場に行ってしまいました。 おふたりはこういう、冷静に考えたらやらねーだろ、みたいな間違いをしたことがありますか?』
とのことですが、音々はある?」
「今回の収録が第一スタジオなのに第十一スタジオ行ったとかそんな感じのなら」
「それは単なる読み間違えじゃない?」
「『木場』って都内の場所と『新木場』なら間違えたことあるわね。あのときは上京したばかりで、東京こえーって思ったわ」
「それも単なる読み間違えじゃない」
地方の方だとそういうことはありそうですね。日暮里と西日暮里くらいは間違えることがあります。
「そういう文はあるの?」
「わたしは、ビックサイトと幕張メッセを間違えたことあるわ」
「なにそれどうしたら間違えるの?」
「でっしょう?
わたしの勝手な自己分析だと、昔やっていた大型同人誌即売会の会場がどっちかだから、間違えたんじゃないかと思ってるわ」
あのイベントが幕張メッセからビックサイトに移動したのって随分前ですよ。
もしそのころからあの場所に通っていたのならかなりのサラブレッドというか、英才教育ですよ。
「あたしは、そんな迷い方したことないわね」
「あら? 女って道に迷いやすいって聞いたことあるわ」
「あくまで一般論っていうか、心理学的に考えて女性のほうが迷いやすいってだけ」
「その理屈でいくと、音々あんた男みたいだわ」
「ボーイッシュって言ってほしいなぁ」
「だって、バイクだって大型のかっこいいのに乗ってるし、家でカクテル作るのが趣味なんでしょ? 女子でなかなかそういう人って居ないんじゃない?」
「いいじゃない。今時趣味において『男らしく』『女らしく』は古いのよ。
男らしくしたり、女らしくいることが重要な場面もあるけど、今はそうじゃないことのほうが多いの!」
「音々の貰い手がなくなったら、わたしが貰ってあげるからね……」
その場合、望月さんも独身であることが条件な気もしますが……。
そう思いながら次のメールを日野さんに渡す。
「爆撃機ネーム『名称しがたい猫のようなもの』さんからありがとうございます。
『ネネフミのおふた方とスタッフの皆様こんばんは。
この番組はSNSなど情報配信のアカウントがないようですが、ツイッターやフェイスブックなどは始めないのでしょうか?』とのことです」
「アカウント作るのはいいけど、スタッフが忙しくて更新しないパターンに入るんじゃない?」
望月さんの言うとおりになりそうですね。
「あるいは、あたしたちが乗っ取るかどっちか」
「某ウェストな番組はパーソナリティに乗っ取られてたよね」
「本人たちは事務所の方向で個人アカとれないから、その分やりたい放題って感じで笑っちゃうよね」
アーティストデビューしてる方はそちらのアカウントを使ってつぶやいてたりすることもあるようですが、おふたりはまだソロで歌ったりはしてませんからね。
「そもそも、わたしたちがツイッター始めたところでつぶやくとは思えないのよね」
「そ・れ」
おふたりともこういうのは苦手そうですね……。ブログも結構放置気味ですし。
「じゃあ、もし個人のアカウント持つとしたら何する?」
「つぶやく」
「それは当たり前でしょう!『何してる?』って聞いて『息してる』って答えるのと同じよ!」
「じゃあ文はなにするの?」
「文ちゃんは、飯テロがしたい」
飯テロ。昼十一時頃や、夕飯時、そして深夜夜食が欲しくなる時間に美味しそうな料理やご飯、デザートの画像をSNSに投稿し他人の食欲を誘う非人道的な行為。
早く法律で取り締まらないと僕のようなデブを生む一方なんですがね。
「いいわねそれ! あたしもやろうかしら」
こういうの好きそうですからね日野さん。ノリノリの日野さんは続けて、
「どんな画像投稿する? ステーキ? パフェ? ラーメン?」
「駄菓子! ブヒ麺とかドーナッツとか絶対やばいと思うの!」
「…………、そうね」
日野さん、放送事故になるギリギリの秒数でなんとか声を絞りだしましたね。
「じゃあ相方は他に何がしたい?」
「んー、ぶっちゃけ、この仕事してると守秘義務もあるし、下手につぶやくと不利益被ることがあるから、結局何も言わないで放置しそう」
「えっ、でもライブの前後に『今日の衣装はこれーウェーイ』ってやりたくない?」
「あたしがそんなに綺羅びやかな衣装着ると思う?」
「この前着てたセーラー服似合ってたわよ」
「マーズ! 次のお便り!」
用意していたお便りを望月さんに渡します。
「はいはい……、爆撃機ネーム『墓場の運動会も見学』さんから。
幽霊になっても体が弱いんですね……。
『夜中になんか車内の電気がついてない不気味なバスが走ってるな。怖い話で聞いたことあるやつかなと思ったら、回送って表示されてました。でもこういうのを見るとドキドキしません?』」
「分かる」「なにそれ」
同時に真逆のリアクション。
「相方! もしかしたら本物の妖怪バスがあるかもしれないじゃないか!」
「なによ妖怪バスって、ネ○バスのような奴?」
両腕を抱えるように組む日野さんが聞きます。
「そうそう! 夜中の学校は妖怪や幽霊たちが授業をしてるんだよ!」
「見たことあるふうな言い方ね」
「わたしの学校はトイレの花子さんや絵から出てきたベートーベンが居たんだから」
どの学校にもあったと言われている七不思議ってやつですね。子供のような目をした望月さんは続けて、
「日本には八百万の神がいると言われるように、たくさんの妖怪がいるんだよ!
だから、妖怪専用のスクールバスがあってもおかしくない!
このメールの話だって、もしかしたらバスの運転手さんは妖怪か幽霊の可能性があるかもしれないよ!」
「あー、はいはいそうですねー」
変なスイッチが入った望月さんを軽くあしらう日野さん。あまりこういうの信じてないって言い方であしらおうとしています。
「そう! 世の中の不思議な事は妖怪の仕業なの!
だから、これからも妖怪を見たって話があったらメールを下さい!
っていうかマーズくん! コーナー作ろう! 妖怪の目撃情報を募るコーナー!」
「いや、このラジオ局の番組にあるからそういうの」
「知ってる! 毎週欠かさず聞いてる!」
「かぶるからボツ! ほらマーズもうなずいてるでしょ」
そもそもこの番組とのコンセプトと合わないのでダメです。
「えー。わたしも妖怪の話したい~」
「ならその番組のゲストに出ればいいじゃない? 無理だと思うけど」
「これ終わったらマネージャーとちょっと話し合ってくる」
「うわ、目がマジだ。あ、あたしは出ないからね」
助けを求めた日野さんがチラッとガラス越しのミキサールームを見ると、水野さんのOKサインが見えます。
「い、以上! ふつおたのコーナーでした」
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