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頭が痛くなって来てから痛み止めを飲んでもほとんど効かない。気休めに薬を飲んで、ソファに横になる。ローテーブルの向こうにクレオの水槽が見えた。
落ち着いてきたのでお酒を飲む事にした。ソウは今日も帰って来ていない。盆休みの初日。盆や正月はパチンコ屋は締める、と言っていたのはソウなのに。パチンコが出来れば何でもいいのだろうか。クレオの写真を撮った。
「頭痛に悩まされる事が多い私ですが、ベタは痛みを癒してくれるようです」
初めてハッシュタグ以外のコメントを載せて投稿した。変な酔い方をしたのかもしれない。
二十三時頃。ソウが帰って来た。
「前渡した一万、返して」
あの一万円はソウが生活費に返した金のはずだけれど、ソウの頭の中では、私にやった金、に変換されたらしい。
――パチンコは小遣いの範囲でやれよ!
何度も言って、リアの前でも大喧嘩した。もう言わないと決めていた。頭の中で叫んだ言葉を口から出す代わりに、財布を持ってきて一万円札を出した。
「最近また熱くなってて、ごめん。マイラの体調が良くない分、稼ぎたくて行ってるのに、空回りばかりしてる」
あまりにも擦れているソウの考えに、また叫びたくなった。
「連休中にどこか連れてってやりたかったんだけどさ……」
「…………」
「ねぇ」
「…………」
「ごめんって」
「うん」
「…………」
「……三人で楽しめるところに行こうよ。どこでもいいから泊まりたいな」
「行けるの? ……マイラがそう言ってくれるなら、今からでも泊まれるところ探すよ!」
いそいそとスマートフォンを取り出して検索を始めるソウ。ソウの前にも焼酎のグラスを置いた。諦めたり、自棄になったらいけないのは分かっていた。他人を変える事は出来ない、と思っていた私が、リアやソウによって変えられた気がした。煙草もパチンコも辞めた。お酒だけはまだ飲んでいるけれど。いいママや、いい妻になりたくて色いろ努力してきた。でも、間違った努力だったのかもしれない。リアを悲しませたくないと思って我慢をしてきた事で、ソウを甘やかしてしまった。私が我慢をしてきた事で、これから本当にリアを悲しませてしまうかもしれなかった。本当の馬鹿は、私の方なのだろう。
「意外と当日予約出来るホテルってあるんだな。どの辺にする?」
「海とか観光地は一杯そうだから……横浜とか……」
「
楽しそうにスマートフォンを眺めているソウ。ソウには危機感がないのだろうか。盆休みはどこにも行かないほうがいいのだろうか。話し合ったり、喧嘩になったり。そうして少しでもソウに危機感を持ってもらう、生活設計の事を考えてもらう。そういう努力こそが必要なのではないだろうか。いや、必要だった。リアが保育園に入るまで、何度も何度もソウと言い争ってきた。やっとリアが入園出来て、私が働き始めて、解決したように思われていた問題は、振り出しよりも前に戻ってしまった。
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