一番近いパチンコ屋。そこまで行くのにも車で二十分以上かかった。ソウがどこの店に行っているのかなんて知らない。リアが生まれる前。私たちが一緒に行っていたのは、もう少し離れた店だった。その頃は「出かける」と言えばパチンコ屋だった。ドライブが好きな私はたまには遠出もしたかった。そんな時はソウが選んだ遠くのパチンコ屋までCー1500を走らせた。二人ともサーファーのように、明け方のまだ暗い時間から起きだしてパチンコの旅に出かけた。

 会社の寮に引越したのは出産予定日の三週間前だった。籍を入れてからは、ソウの祖父母の家に世話になっていたけれど、家に一円も入れずにパチンコばかりしている私たちは良く思われる訳がなかった。そして、ついに「その大きな腹なんて見たくもない、うちで産んでくれるな」と追い出された。リアが産まれてから、少しは関係が緩和したものの、私が仕事を辞めたと知ればまた何を言われるか分からなかった。私の両親は隣の町に住んでいた。両親は籍を入れる事と出産する事に猛反対していた。そして、最終的には「絶対産む」と言う私の気持ちを尊重してくれた。だからと言って未だに良い関係を築いているとは言えない。たまにリアを連れて行くと、一応は歓迎してくれる。でも、世に聞く「初孫にメロメロなじーじとばーば」の絵とはかけ離れていた。偉そうに「じーじとばーばは冷たい」などとは言えない。でも祖父母たちからの寵愛を受けていないリアには本当に申し訳ないと思う。

 私たちには戻れる場所なんかない。帰るべき場所は、リアが産まれて来てくれた、この町。この家に帰る事がいつまでも幸せであるように祈っていた。


 梅雨が明ける今週末、ソウはタツヤとタツヤの彼女を海に誘っていた。激しい太陽の下で過ごすと顎関節が暴れる事を学んだ私は、海に行くのを躊躇っていた。当日は、タツヤがテントを持って来てくれた。私はたまにリアと海に入るくらいでほとんどテントの中で過ごさせてもらった。

「違う歯医者にも行ってみたらー? もしかしたらもっと安いところがあるかもしれないじゃん」

 タツヤの彼女と、そう広くはないテントの中でくっ付き合って座っていた。

「歯石を取ってもらったからかな、だいぶ良くなったんだ。歯医者に行く前のままだとキツかったけど。少し様子見てる。前はさー、汚い話だけどめちゃくちゃ吐いたんだよ。次の日まで何も食べれなくて胃液しか出て来ないのに吐いて。家事どころじゃなかったし。家庭崩壊寸前だったかもしれない」

 まだ笑って話すには早いかもしれないけれど。理由も分からずに何度も寝込んでいた頃は、疲れて帰ってきたソウに嫌な顔をされた日もあったのだ。

「マイラちゃんとこは、すごく仲いいから大丈夫だよー。ソウくんもすごくいいパパだしー」

 ニコニコと笑いかけてくれるタツヤの彼女に、何も言わずに笑顔を返した。海の上でイルカの形の浮き輪に跨って、ソウに押してもらっているリアの歓声が響いていた。

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