ソウとタツヤとリアのチームは本当にカレーしか作っていなかった。私は、買い置きのレタスときゅうりでサラダを作った。半熟にした卵と、二日前に作ったランチドレッシングをかける。手作りのドレッシングはジャーに詰めて冷蔵庫に入れておけば一週間くらい新鮮に保てた。

「このドレッシングうめぇね」

 タツヤがサラダにがっついている。

「バターミルクで作ったんだ」

「え。これマイラさんが作ったの? マジやべぇ」

「混ぜただけだよ。めちゃくちゃ簡単だし。カレーも美味しいじゃん」

「リーちゃんがきったから、いつもよりおいしいでしょ?」

 カレーにまみれた唇で、リアがニコッと笑った。濡らして置いたあったハンドタオルでリアの口許を拭いながら笑顔で首肯いた。


 バイクで来ているから飲めないタツヤに焼酎のペットボトルまで買わせて、飲んでいるソウ。顎関節症を引き合いにして小銭を吐かせるなんて。私も飲んでいるからソウの事ばかり悪く言えないけれど……。このアパートは言わば会社の寮だった。会社が初期費用を出してくれて会社名義で賃貸しているアパートに住んでいた。家賃は全額給料から天引きされていた。タツヤも同じように会社名義の1Kのアパートで一人暮らしをしていた。

「タツヤも風呂入ってく?」

 飲み過ぎる前にソウがリアとバスルームに向かった。外はまだ少し明るかった。

「そうしようかな」

 雨が降って来ないか、窓を開けて確かめた。夏の匂いと雨の匂い。夜、雨が降るかもね、タツヤに言うと「また家でシャワー浴びればいいべ」と外を眺めに来た。

「田舎で良かった。東京とかに住んでたらキツかった。育児とか無理だし。東京にはたまにしか行かないけど、こっちの方がずっといいって言うかこっちじゃないと無理」

「突然だね。オレは地元が一番好きだけど、生まれて育ってきたからじゃねぇ? 東京で生まれて育った人には東京の方がいいんだって、思うけど」

 分からない。田舎じゃないと息が出来ない気がする。たまに、この町には無いファストフード店に行きたくなる。その店のスープが飲みたくなる。リアもソウもそのファストフード店のコーンスープとクラムチャウダーが好きだけれど、車で二十分走って行かなければ食べられない。いつもリアが観るDVDをレンタルしに行くのには二十五分もかかった。でもこの海沿いの田舎の町が好きだ。リアが先にバスルームから出てきた。長くなったリアの髪をバスタオルで拭いた。

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