第68話

「…もうチャイム鳴ってる。」

情けないながらも聞こえた予鈴の音を言い訳にしようとする。

「関係ないね。」

つんとした拓真はそうはさせてくれない。

「つぐが、次にそういう泣きそうな顔をしたときは、絶対に一人にしないって。君のナイトに誓ったんだよ。」

「私の騎士さまは、あんたじゃねえのかよ…。」

恨み言を投げつけて、私の両手首をつかむ、拓真を恨めし気に睨み付ける。

「お前はそういう顔していたほうがいいよ。泣きそうな顔は似合わない。」

「余計なお世話よ。」

私が落ち着いたのが分かったのだろう。拓真は笑って階段に膝をつく。

「どう考えてもその態勢つらいでしょ?」

別にもう茶々を入れる気はなかったのだが、拓真のあまりの態勢につい突っ込みを入れてしまった。

「…つらい。でも、つぐの顔ちゃんと見て話したいんだ。いつも俺は、大切な話の時、つぐを見ずにいたから。」

「拓真…。」

今日の拓真は、初めて見る表情ばかり。根負けして、手首をつかまれたまま、ずるりと後ろに下がる。

「こっち来なよ。」

見ようによってはいろいろと危うい角度。まあ、誰も見ていないしいいだろう。拓真は体を引き上げて、同じ段に上がってくる。

「でも、本当に授業大丈夫?」

拓真は無言で、ポケットからスマホを取り出し、通知画面を見せる。

>お前荷物を置いたままバックレるんじゃねえ!

>具合悪くて、保健室行ってる、っていう女みたいな理由でごまかしておいたからな、ザマーミロ!

「祐輔君。」

「俺も今気づいたけど、これでいいだろ。授業長谷部だし。」

本当に逃げ道はないらしい。

神様、今日私早起きしたのに。

ちゃんと拓真と向き合えってことですか?

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