第55話

「ん。つぐ。」

「ありがと。」

翌日の昼休み、学校で拓真にノートを渡される。さほど重要ではなかったけど、ないとそれなりに困るものだ。

「ほんっとに疑問なんだけど、お前ら何なの?」

隣にいた美湖が呆れたように声をかける。

「何って…。見たまんまだけど。」

いつものようにはぐらかすと、美湖はやれやれと首を振って、やってられないという顔をして席を立つ。空いた席に拓真が座る。奇しくも美湖は私の前に座っていたので、去年同じくらいだった時のようだ。

「昨日は、亜哉が余計なことを…。」

私が謝罪とも怒りとも言えない声を出すと、拓真がクスクスと笑って

「お前の弟面白いな。」

「…亜哉でもアヤでも好きなように呼んでやって。ケーキおいしかったわ。お礼言っておいて。」

「はいよ。みんな喜ぶ。」

「拓真ん家大好きよ。すごく心地いい。うちとは全然違う。」

「俺はつぐん家好きだよ。」

「あったことないじゃない。」

「昨日、アヤくんあったし。アヤくんとつぐ見てれば、お前たちの育てられ方もわかるよ。これでも客商売やってる家の息子だからね。」

「人嫌いのくせに…。」

チャイムが鳴る。

「あ、じゃあ俺行くわ。帰り迎えに来るから待っててな。」

「私図書室行きたいんだけど。」

「じゃあ、図書室に迎えに行くわ。」

なぜか、前よりだいぶ拓真は私に甘くなった。

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