第51話
「降りてきたのね、お兄ちゃん、つぐちゃん。」
「うっす。つぐサン。」
下の食卓で、あゆちゃんと一心不乱に食べているコタ君、それと私がほどんと会ったことのないおじさまが立ち去るところだった。
「タク、あゆ。あとよろしく。じゃあ、父さん店に戻るから。食べ終わったら誰か店に交代しに来てくれ。店も閉めたいしな。」
コタ君に頼まないのは、目の前の食べ物に夢中だからだろう。
「はーい。」
「ゆっくりしていってね。つぐちゃん。帰るときはタクかコタに送ってもらってね。」
拓真のお父さんはダンディーで、拓真よりずっと紳士的だ。
「ありがとうございます。」
二人が、指し示す椅子に座らせてもらう。一式の食器を貸してくれた。
「勉強はかどった?」
「まあそこそこ。」
食事しながら、あゆちゃんの質問に苦笑しながら答える。
「つぐもともと勉強できるしな。そもそもまだ推薦とるか悩んでるんだろう?」
「…知ってたのね。」
思わずバツの悪い顔をする。
「先生から聞いた、というか話された。」
「つぐサン優秀なんすね。」
やっとコタくんが食事の手を止めて声を出す。おなかが落ち着いたのだろう。
「それなら拓真のほうが優秀よ。先生たちはやたら上を目指させようとしているんだから。」
つい言ってしまったが、ちょっとまずったかな、と心配になる。あゆちゃんは笑って食器を片付けながら
「小さいころからの約束だもんね。3人でこの店をってね。」
「その夢は今までで一度も忘れたことはないよ…ご馳走様。」
コタくんは食器をあゆちゃんに預けて店のほうに向かっていく。
「両親は私たちにそんなことは望んだことはないけれど…。それが、私たちにとって自然なことだから。兄ちゃん、食器よろしく。終わったら店来なくていいからつぐちゃん送ってあげて。」
拓真は軽く手を挙げて、あゆちゃんに返す。
「愛されてるのね。」
店という意味と、家族という意味に、少し照れたように拓真は
「俺達兄弟は、みんな好きなことは違うし、猫かぶりの俺としっかり者のあゆに一匹狼のコタで全然違うけど…。」
「自分が猫かぶってること認めるのね。それに拓真、あんたも一匹狼みたいなもんよ。」
拓真は私の嫌味を無視する。
「それでもこの店が好き、っていう気持ちだけはずっと同じなんだ。もしかしたらいつかこの先の未来で違うやりたいことが見つかるのかもしれない。でも、俺の場合は今のところあってるから、それに従いたいんだ。」
拓真は食べ終わった食器を受け取ってシンクに向かう。私も拓真も食べるのは割と早い。
「少し、待っていてくれ。終わったら送る。」
「ん。ありがと。でも大丈夫よ?」
「いいから。」
少し強めの語気で拓真は私に言う。私は少し諦めて
「…荷物まとめさせてもらうわ。あと、お手洗い借りる。」
「はいよ。」
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