第49話
拓真の部屋で二人きり。仮にも恋人のように振舞っている二人がいながらも、基本色っぽい雰囲気になることはない。
「拓真。ホッチキスとテープ借りていい?」
「あいよ。」
引き戸を開けて、コタ君の部屋、続いてあゆちゃんの部屋に突入していく。
本人曰く、拓真とコタ君は一応あゆちゃんの部屋はむやみに開けることはないらしいが、綺麗好きなあゆちゃんだ、見られて困るものが表に出ていることはまずない。
要するに三兄弟の部屋は区切られているようで区切られていない。ギリでプライバシーが守られているとあゆちゃんは笑っていた。そんなレベルの部屋でエロティックな気分にはならない。私たちがエロティックなことにならないのはそういう事情もある。
「拓真。これ、おいしい。」
「だろうな。つぐの好みはわかりやすい。」
「そう?」
一つのケーキと、紅茶と、お菓子。
拓真はお菓子に合わせた紅茶を淹れるのが上手だ。才能があるんだと思う。あゆちゃんとはまた違った。
私は普通に試験があるし、拓真も座学がないわけではないらしい。正直詳しい話は聞いてないからわからないけれど。もしかしたら私に付き合っているとも取れるけれど、私は拓真がそういう意味で優しいやつだとは思っていない。
しばらくは私と拓真のシャーペンがたてる音だけが響く。
拓真も私もマイペースだから、黙りたかったら黙るけれど、沈黙は重くない。お互い慣れてもいる。
中途半端で…たとえるならば、幼馴染のような、兄弟のような距離感を、出逢って1年程度の異性間で発生しているのは不思議だ。
だけれど、古今東西恋愛モノで幼馴染というものは当て馬にされやすいものでもある。とすれば、この恋はやはり成立せずに、いい友達でしかいられないのだろうか。
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