第48話
「久しぶり!つぐちゃん!」
「久しぶり。あゆちゃん。」
私が勝手に抱いた気まずさを吹き飛ばすような華やかな笑顔を向けてくれる。客商売で育った娘だけあって、笑顔は天下一品だ。
「あゆ。早いな。」
「私は兄ちゃんたちと違って何も部活してないからね。店の手伝いが生きがいみたいなもんだから。この間はごめんね。話中なのに兄貴とっちゃって。」
この間は、階下から呼ぶあゆちゃんの声によってお開きになったのだ。
「別に話は終わってたし問題ないわ。こちらこそ忙しい日に拓真借りちゃってごめんね。」
「いいのいいの!」
あゆちゃんは話が上手だ。とても心地いい。尊敬に値する。
「あゆー。つぐー。もういいか?」
拓真が呆れたようにお盆をもってこっちに声をかける。
「はいはい。ゴメンね。兄ちゃん。つぐちゃんまたよかったら手伝ってね。あ、でもつぐちゃんも受験生か…。今日も勉強しに来たんでしょ?兄貴は専門一本みたいだから気に障ることしたらゴメンね。あの人デリカシーないから。」
私は笑って
「大丈夫よ。私でよければ手伝うわ。」
「何なら今度勉強教えて?兄貴の教え方へたくそなんだよね。天才型、っていうか。」
「わからなくもないわ。了解よ。」
「つぐー。」
「ゴメンって!今行く!」
拓真が焦れたようにおそらく階段から声をかけてくる。本当は裏から入れる家に、表から入るのはあゆちゃんとのおしゃべりが楽しみだったりするからだ。あと、少し気がとがめるのもあるけれど…。
「じゃあ、お邪魔します。そういえば…あゆちゃん、おばさまは?」
「家のほうにいるよ~。よかったら声かけてやって。つぐちゃん来たら多分喜んで調子に乗るから。」
二人で笑いあって
「そうする。」
「遅い!」
いい加減に焦れたらしく、荷物を置いた拓真が戻ってくる。
「わっ…。びっくりしたなあ…。拓真。」
「待たせすぎ。行くぞ。」
らちが明かないと思ったのだろう。私の背をぐいぐい押す。お盆はおいてきたらしく手が空いてるからかなうわけもない。私は笑いながら
「そんな押さなくても動くってば…。じゃあね!あゆちゃん!」
「動かねーじゃん。お前母さんともう一回似たような件やるんだもん…。勉強するんだろ?」
「だっておばさま楽しいんだもん…。」
「長い!さっさと上行くぞ!あゆ!適当に借りるぞ!」
「勝手にどうぞー。」
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