第47話

「そうだ、つぐ。勉強に余裕はある?」

「まあ、それなりには。それほどの高望みじゃないし。」

自慢ではないが、頭の出来は悪くない。なまけない程度に普通に勉強すれば志望校はまず受かる。裏を返せば、もっとまじめに勉強すればもっと上に行けるが、それほどの上昇志向もない。先生方には残念がられるけれど、猫被りの拓真と違って、強情なことは知れている。

「じゃあ、つぐ。バイトしない?」

「バイト?拓真ん家?」

怪訝に思いながら拓真に問い返す。私の拓真の家へのスタンスはバイトではなく、あくまで待ち時間の手伝いの域を出ない。

拓真は首を振る。

「うちの手伝いとは別で、巧さんのとこ。若い女の子のバイトが欲しいんだって。」

「巧さんのとこかあ。…私でいいのかな?」

「俺んとこ手伝ってたって言ったら是非にって。…無理にとは言わないけれど、つぐがやってみたいと思ったなら、今度行ったときに話してみて。」

「…考えておくわ。」

あの店にはいろんな人がいる。勉強に余裕があるなら、あそこで働くことはいい勉強になるだろう。

ただ知っている人のもとで働くのは少し怖い。

私はまだ責任を負える年ではないし、嫌われたらあの居心地の良い場所を失うのは怖い。自分でも異常な慎重家だと思う。

そんな私の様子を理解したか、拓真は軽く笑って

「帰ろうか。」

「うん。…拓真ん家行ってもいい?甘いもの食べたいんだ。」

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