第30話
帰り道、初めて拓真と手をつないだ。
今日が彼との終わりの日だったから。勇気を出して。
「拓真、長い間ありがとう。」
駅について、拓真の手を放して、私は10センチ高い拓真の顔を見上げる。相変わらず綺麗な顔。こんなにまじまじと本物を見るのも最後だろう。もう少し見ていたくて、一瞬にして冷え切った手を彼の頬にあてる。
「あなたのおかげで、こんな時間を作れた。あなたがいなければ、この終わりは迎えられなかった。もっと悲しくて、無意味だったはずの時間に意味をくれた。」
「どういたしまして。」
言いたくない。でも言わなくちゃ。拓真の顔からそっと手を離す。
「目をそらしてたけれど…。今日、あなたがここに私を連れてきたってことは、今日で終わりってこと。あなたの選んだ終わりはこれなのよね。」
その私の言葉に、拓真は少しどこか傷ついたような顔をする。
「最後だから言わせて。」
「つぐ…?」
これを口にしてしまったら、もう戻れないのかもしれない。それでも、私はこれ以上彼に対する誠実さを失いたくはなかった。
「あなたのことが好きです。それでも、あなたが一番冷たいと思ったから、情なくこれを受け入れてくれると、押し付けたのに。こうしてこんな役割を押し付けたら、予想外の優しさを発揮してくれて…。あなたと恋人ごっこをしている間、だんだん自分で頼んだ負い目も忘れてしまうくらい楽しかった…。本当にありがとう。行野。」
もう、私は彼のことを拓真とは呼べない。それが私の罪に対する罰だ。好きな人にまだ少しの嘘を混ぜたまま、こんなことを頼んで。そのまま去ろうとしている、怖がりな私の。
「さようなら。…まだ会うのにこんなことを言うのは変かもしれないけれど…。それでもお別れね。」
彼は私を見つめたまま一言も発さなかった。
「じゃあね…。」
泣くな。涙がこぼれても、もう拭ってくれる人はいない。その優しさにすがってはいけない。
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