第29話

「久しぶりね。みんな。」

私は称賛も慰みも言う気はなかった。言うなら皮肉。嫌われるなら最後まで。それが私の矜持だ。

「久しぶり、つぐな。見に来てくれてたのね。」

リンが涙に濡れながら、それでもキャプテンの彼女らしい、その名の通り凛として私に声をかける。

「ええ、拓真と綾乃サンの策略に乗せられてね…。お疲れ様。」

笑う気もなかった。この子たちに真剣に向き合うこと、それが二人が願ったことだろうから。

「ありがとう。」

リンと優里はともかく、しかめっ面を隠しきれていないほかのメンバーに視線を流してから、

「そんな怖い顔しなさんな…。宅配便しに来ただけだから。綾乃サンから拓真ん家に注文があったんでね。」

私は持っていたクーラーボックスをタキに押し付ける。逸らしたくはなかったけれど、同期の目は見ていられなかった。私の逃げた場所。私のいた場所。私の過去。私の過去を返して。

「タキ。そのボックスは、返却不要。そのまま何かに使いなさい。いらなかったら拓真んとこに返してくれればいいから。面倒だったら亜哉に渡してくれればいい。」

「つぐな先輩…。」

まくし立てる私に、呆然とする後輩。これは昔からだ。

「一応元在籍者として、同期の引退とともに、後輩に言葉を贈らせてもらってもいいか?」

誰も止めやしない。気圧されているのか、泣き疲れているのか。

「否定は出ないようだな。一言だけ…。”私みたいになるな”…肝に銘じろよ。可愛い後輩ちゃんたち。それさえ守っていれば、君たちは平和に終わりを迎えられるだろう。」

ああ、またやってしまった。

「待って!つぐな!」

「先輩!」

私を呼ぶ声は聞こえたけれど、こんな涙をこらえた顔を見せられるわけもなく、ただただ平静を装って、ひらひらと立ち去ることしか出来なかった。


「つぐ。」

校門で待っていてくれた拓真が見えたとたん、歯止めがきかなくて、衝突しそうな勢いで走っていく。顔を見られたくなくて、背の高い拓真の胸元に衝突しながら、私は小さな声で叫ぶ。

「拓真…。私後輩に呪いを残しちゃった。本当は、前にかけちゃった呪いを解くつもりだったんだけど…。無理ね。私が人のために、好かれようと動こうとすると、呪っちゃう。だから自分本位で、嫌われるしかないんだ。」

私は笑いたかった。でも、残念ながら私はそこまで強くはなかった。

「つぐ、お前さ…。中見た?」

拓真はあやすように私の背中をリズムよく叩く。

「見てないよ…。」

「綾乃サンから頼まれて…手紙が入ってたんだ。内容は、俺も知らない。でも、きっとあの人ならお前のかけてしまった呪いを解けるんじゃないか?」

「綾乃サン頼みでいいわけ?」

私は少し不安で、でも、ほんの少しだけ笑えた。拓真らしい丸投げ。

「後輩の不始末を処理するのは、先輩の仕事だろ。…お前だって後輩に呪いをかけないために向かったんだろ。」

「結局呪っちゃったかもしれないけどね。」

こればっかりは苦笑するしかない。

「気にするな。それはお前の周りの甲斐性だ。お前の示した友情に気づいたなら、解くのは、お前の同期の仕事だ。…お前は人が世話を焼かずにはいられない。俺にまで世話を焼かせたくらいだからな。しっかりしてるのに、どこか危なっかしくて。」

「どういう意味よ?」

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