第31話
「つぐっ…。」
小さな声で彼が私の名を呼んだ気がしたのは、きっと私の願望だろう。
また明日学校で顔を合わせても、私たちはもう、もとには戻れないのだろう。
友人たちには心配されたり笑われたりして。そうしてまたしばらくするとみんな忘れてしまう。ただそれだけのことだ。他の多くの同世代の恋と何も変わらない。
それなのに、なんで涙が止まらないんだろう。
「こんな顔じゃ家帰れないや…。」
亜哉にこんな顔見せたらしばらくネタにされる。
そうして足が向いたのは、彼と何度も訪れた思い出のようなカフェ。
「いらっしゃい。つぐなさん。」
何も言わずに微笑む彼は、私の顔には何も言わず席に誘ってくれた。
「お好きな席にどうぞ。…ご注文は?」
いつもの日常の流れの非日常に引きずられ、私もリクエストする。
「甘い紅茶と、若者の青臭い恋をまともに聞いてくれる彼のことをよく知るお姉さんかお兄さん。」
この注文でも、巧さんは理解して微笑んでくれた。
「ナツミ。」
「何?」
「ご注文。」
「その注文なら澪は?」
注文の聞こえていたらしいナツミさんが、こちらを振り向く。
「その辺はお前の判断で。何なら修も呼んでくれて構わない。なんたって、常連さんたちだからね。」
「サトリ君呼ぶと、澪が荒れるから嫌よ。状況によってはあんたら呼ぶからね…じゃ、話聞かせてくれる?つぐなちゃん。」
「つぐなでいいです…すみません。」
「いいのよ。若い子の恋愛ほど甘いものはないわ。そしてユキはイズミはよく似てる。私でよければ話を聞かせてもらうわ。状況によっては澪とか呼ぶけど、いい?」
「もちろんです…。澪さん見たら照れちゃいますけど。」
「可愛いこと言うじゃない。」
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