第9話

「つぐな。」

「ほら来た。私悪い勘は当たるのよ。」

「本当にな。」

小さい声で私と拓真はやりあう。近づいてきたのを察して、躱す態勢に入る。

「何?私今から病院なんだけど。」

「あんた週に何回病院行く気よ?」

「月曜は歯医者で、火曜は内科、水曜が皮膚科で木曜が耳鼻科。金曜の今日は…精神科かしら。」

「ふざけないで。」

ふざけるな、と言われても困る。

「ふざけてるのはそっち。私が放課後に何をしていようと私の勝手。」

「あんたは、うちの部員。うちの部に果たす義務がある。」

それは詭弁ですらないことを理解してはいないのだろうか。

「だから、退部届出してるってば…。リンにもなんの迷惑もかかりません。だから放っておけばいいじゃない。さっさと練習に戻れば?」

そのとき、もう一人の存在に気づいた。同期だけだと思っていたら体の小さい後輩。舌打ちしたくなった。私が同期の話を聞かないから後輩を召喚か。私に言われたくないだろうけれど、姑息だ。

「つぐな先輩…。」

「あら、タキ。いたのね。ごめんなさいね、先輩たちのみっともないとこ見せちゃって。もうおばさんは退散するから先輩たち連れて帰りなさい?私のことなんて放っておいて。」

「つぐな先輩、本気ですか…?」

大きな瞳をうるうるさせて私をのぞき込んでくる。男だったら効果抜群だろうに、生憎私は女だ。

「本気も本気、大真面目。でも安心して、私はもうあんたの部の先輩ではないけど、学校としては先輩だから、いつだって話は聞いてあげるから。それくらいはちゃんとしているつもりよ。」

「そうじゃないです!先輩…。」

「こいつらに何を吹き込まれたかは知らないけど…。」

同期を順々に睨み付ける。みんな目をそらしやがる。

「私は誰を連れてこようと、何を言われようと何も話さないし、揺らがない。」

「つぐな。あんたがその調子なら今度は綾乃さんたち連れてくるよ。」

「…脅してるつもり?頼むから先輩方を巻き込むなんて情けない真似はしないでよね、かっこ悪いから。今、私は言ったばかりでしょ?誰を連れてこようと、何を言われようと私は一ミリたりとも揺らがないわよ。あんたらとも話すことはない。」

「つぐな。いい加減にして。私たちだってそんな情けない真似はしたくないわ。」

「いい加減にしてほしいのはこっちだっての…。」

他の誰も口を開こうとはしない。言葉はリンが担当することにしたのだろう。

「いいの。あんたが色ボケで部活辞めたんだって私たちは思わざるを得なくなるのよ!?」

私はもう一度彼女たちをにらみつける。

「そう見えるなら、それが事実よ。そうだって、私は何度も言ったじゃない。…拓真、いこ。」

演技じゃなくふらつく足元を拓真が支えてくれる。ほんとできた男。

「俺はさあ…。お前らの間に何があったのか知らないよ。でも、つぐが、君たちとのことを大切に思ってることは知ってる。だから苦しめないでやってくれないか。」

「でも…。」

「これでも、結構悩んでるんだよ、こいつ。」

「拓真、余計なこと言わないで。」

私は初めて、拓真に薄い怒りの感情を向けた。できた男だけど、余計なことを言う。

「ハイハイ。」

「じゃ、悪いけど、つぐは連れて帰るから…つぐ、悪いが、俺にお前を抱き上げることはできないぞ。」

「そんなもん求めてないわ…。」

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