第8話

放課後。

「拓真。」

「ん?」

「今日は…。」

「逃げ切れる気がしない?」

拓真が私の言葉尻から何かを悟ったようで顔を覗き込んでくる。

「うん…やっぱり拓真先帰る?」

「何言ってんだ、そういうときのためにこのカップルまがいなことしてるんだろ?」

拓真は、いいお兄さんという顔で私に向きなおる。

「そうだけど、あんた面倒きらいでしょ?」

「大嫌い。」

間髪入れずに拓真から返事が返ってくる。

「だから。」

「妹みたいな女の困ってるとこ見捨てるのは良心がとがめるんだよ。」

また妹。うれしいような、寂しいような。

「お前に良心なんてあるのね。このシスコン。」

「シスコンじゃねえし…。シスコンじゃねえけど、弟と妹だったら妹守るのは当然だし、それが男ってもんだろ。」

彼には弟と妹がいる。二人は、双子でない同級生でややこしいんだ、と前に笑っていた。

「まあ、こんな話乗ってくれるくらいにはね。じゃあ、もう一芝居打ってくれる?」

「もう毒を食らえば皿まで。なんでもやってやるよ。こんな漫画みたいな経験できるのもお前とだからだろうしな。」

こいつにオタク気質があってよかった。こんなわけのわからない頼み事を面倒くさがりながらも面白がって引き受けてくれるんだから。

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