第4話
「はい、拓真。」
行野に連れられて訪れた店…。そこには学年じゃ有名人、変わり者の情報通、井岡航太がいた。
「ありがと。」
「ねえ、行野この店って…?」
「コータの実家だよ。」
「拓真、違う。ここ俺の実家じゃない。姉貴の店。嘘つかないで。ここのマスター巧さんだから。俺ここの息子じゃないから。」
「イズミ、俺の息子になるか?」
ふざけた様子で、カウンターにいる男性が素敵に笑う。
「なりません。」
同じようにふざけたまま井岡が返す。
「なんで、井岡君のいる店?イズミ?」
「前にたまたま来た店がコータのいる店だっただけ。あいつ情報通だからお前の嘘見抜くには万全だろ。イズミはこの店でのコータの愛称だから気にしなくていい。」
「知らなかったわ。行野が井岡君に下の名前で呼ばれるほどの親交があったなんて。」
私は皮肉を込めて言葉を返す。
「同じ中学なんだよ。コータとはいろいろ縁があってな。…何より、この状況にコータ以上のプロフェッショナルはいない。」
「そーそー。つぐなも俺のこと井岡君じゃなくてコータでいいから。」
軽薄な様子ですっと椅子を私たちのいる机につける。
「なんであんたもナチュラルに席に入ってくるのよ?あとファーストネームで呼ばれる覚えはないわ。」
「南ちゃんのほうがいい?拓真に頼まれたから。」
変なあだ名を提案してくる。こいつはなんか分厚い仮面をかぶってる気がする。子供っぽい。
「頼んでねえ。聞いただけだ。」
「まあ、そういわずに。」
「普通に南でいいんだけど。」
「俺女の子は基本的に下の名前か、苗字にちゃん付けって決めてるんで。…で?最近何かと話題の南つぐなさん?困った顧問が俺に聞きに来たよ。」
こいつんとこ教師まで行くのか。人タラシ。それとも彼の姉の過去のせいか。
「あんたなんか余計なこと言ってないでしょうね…?」
こいつの情報網と心理を見抜く力はへらへらに隠されているけれど伊達じゃない。おそらくここ数か月のうちの部に起きたこともすべて知ってる。
私がにらみつけると途端に真面目な顔になって
「なにも言ってないよ。部内でトラブルがあったのか、って聞かれたから、”仲が良くて、大切だからじゃないですか?”って言っただけ。俺が知ってても言いたくなかったから言わないことも理解されたから、ため息一つでいなくなったし。」
「言ってるじゃない…。
私は小さく頭を抱える。
「あっちが気づいてなかったら言ってないも同じ。」
そのことは彼もわかっているようで、口笛でも吹きそうな顔をしている。
「ほんと、食えないやつ。」
「そういうことだ。つぐな。お前が言わないならコータに聞くまで。協力を頼むなら俺にも話せ。」
「キョーミない癖に…。」
「興味はなくても、一方的に利用されるのは気に食わないんだよ。」
「…拓真も素直じゃない…。」
「何か言ったか、コータ。」
「べっつにー?興味はないけど心配ならそう言えよ、とか思ったりはしてませーん。」
「黙っとけ。」
こいつが人のことを心配するようなやつじゃないのはよく知ってる。
「わかったわよ。話す。話すけど、井岡君。知ってるなら席をはずして。どーせ、この後に私が頼んだこともわかってるんでしょ?」
「残念だが、それは俺が断る。」
「行野…。」
「お前の言いづらいことはこいつに言わせればいい。」
「それにつぐな、君の気持ちは知ってるんだ。僕にも経験があるからね。」
小声で私にささやかれた言葉に何も言えなくなる。
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