第3話

その後、突然現れた私に驚く、彼の言う数少ない友人である祐輔の誤解を軽く解く。

私も彼も口が詐欺師並みにうまいから、何も核心に触れずに、祐輔君を言いくるめることは、さほど難しくなかった。祐輔君はよくも悪くも純朴で、罪悪感がわかないでもないが。

午後一の授業中、みんなも騒がしいか寝ているし、先生も何も気にしない人なのをいいことに私と彼は話し込んでいた。

「いや、こないだのことがあるから何を望んでるかも、わかってるっちゃわかってるし、お前がちゃんと礼をしてくれるのもわかってる。だけど、お前の思うほど効果があるか?退部してすぐに男と付き合ったって評判になったら、お前が色ボケだって悪評が立つだけじゃないのか?」

「お前顔だけはいいもんなー。むかつくことに。でも、それでいいんだ。」

私の言葉に行野は怪訝な顔をする。

「は?」

「私が色ボケだと思われたら、少なくともうるさく退部理由は聞かれなくなるでしょ。それだけでいいの。」

「それなんだけどさ。言うまでも思うけど、お前がちゃんと退部理由話せばいいんじゃねえの?」

「それが嫌だから逃げ回ってるんでしょうが。わかってるくせに。」

「それに、お前のことを俺よりよく知るあの部のやつらは信じないんじゃないのか?」

行野の言うことは正論だ。だが、私が求めているのは正義ではない。

「信じるんじゃない?この時期に私が辞める理由なんて思いつかないから、無理やりに。」

「俺は可哀想な子羊かよ。」

「まあ、言っちゃえばそうね。でも、あんたおとなしく生贄になってくれるの?」

「そこ!行野、南!いつまでも話してないの!」

「ういっす…。」

「ほーい。」

先生から軽く叱られる。そうでした。日本史の授業中でした。

「前々から気になってたんだけど、行野とつぐなってできてんの?」

斜め二つ後ろに座っていた西から、叱られたばかりなのに声が飛んでくる。西の性格上少し控えめだが、何人かの耳がダンボになっている。

「ふふ、そう見える?」

「わりとね。」

「だってよ、どう思う?」

西の雑な質問をパスに仕立てて行野に投げる。この答えは面倒だし、委ねる。

「見た通りだな。」

そういって私の頭を軽くはたく。こいつやっぱうまい。西がしかめっ面をしながらも、先生がそちらに行ったため、口を閉ざす。

「南。放課後空いてるか?」

「いつだって空いてるわよ、だって部活辞めたから!」

私は歌うように告げる。

「だったらちょっと付き合え。お前がその理由とやらを俺に話す気があるなら、話に乗ってやらんこともない。」

「仕方がないかな。背に腹は代えられないし。ただ、あんた別に聞きたがってないでしょ?」

「うん。俺が欲しいのは礼だけ。南のおかげで最近授業がラク。ただ、聞いとかないと話合わせにくいでしょ?」

「ほんと、あんたなんで私に本性見せてんの?あんた、もてないけどイケメン枠に入ってんのが解せないわ。」

「女って簡単だよな…。」

「なんでそれを私に言うの?」

なんで私もこんな男に惚れたんだろ。

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