そして天にも昇る耳かき
水池亘
そして天にも昇る耳かき
これから、僕の幼なじみが耳かきでこの国を救った話をしようと思う。
これは比喩でもたとえ話でもない。彼女は己の技術と耳かき道具のみを用いて、この国に平和をもたらした。その瞬間を、僕だけが間近に見ていた。
*
彼女はいつも感情豊かな人間だった。僕よりたった二ヶ月早く産まれたことを根拠に、ことさらお姉さんぶるのが好きだった。
「もー、マナ君はほんとに歩くの遅いんだから」
そんな風に呆れながら、僕の手を取って歩いた。小学二年生の僕たちは、隣どうしの家に住んでいた。毎日一緒に帰るのを当然のことだと思っていた。
「やめてよ、マナって呼ぶの」
僕が何回そう要求しても、彼女は改めようとしなかった。
「だって、響きがカッコイイじゃない」
「女の子みたいな名前で嫌だよ」
「大人になったらわかるわよ。ね、マナ君」
パチリと彼女はウインクする。その言葉が真実だったのか、確かめる術はない。
やがて五年生に進学し、男女の違いもそれなりにわかるようになってきた年頃。僕の部屋でごろごろ少女漫画を読んでいた彼女は、不意に「ねえ、私、やってみたいわ」と口にした。
「何をさ」
「耳かき」
僕は怪訝な顔をしながら「すればいいじゃないか」と答えた。
「あ、綿棒なら、うちにもあったと思うよ」
「そうじゃないのよ」
彼女はすくっと立ち上がって机の前の僕に近寄る。耳元に唇を近づけて、何だろうと思う間もなく、ふうーっと吐息を吹きかけた。
「ひゃっ!」
甲高い声をあげ、僕はバランスを崩して床に倒れた。椅子が派手な音を立てて床に激突する。
「何するんだよ!」
「自分にじゃなくて、マナ君に耳かきしたいの、私」
彼女はすました顔でこちらを見つめている。
「僕に?」
「ええ。この間、ネットの動画で見たの。知ってる? 最近の耳かき棒ってすごいのよ」
彼女はポケットから茶色の細長い棒を取り出した。少し湾曲した先端が、平たく窪んでいる。反対側にはたんぽぽの綿毛のようなものが取り付けられていた。
「これ、いくらだと思う?」
「二百円くらいかな」
「その十倍」
その言葉に、僕は眉をひそめて彼女の顔色をうかがう。熱があるのかと思ったのだ。二千円といえば、彼女のひと月の小遣いと同額のはずだ。お菓子もゲームも諦めて、彼女は一本の耳かき棒を手に入れたことになる。
「さて、と」
僕のベッドに腰掛け、スカートの上からぽんぽんと太ももを叩く。
「さあ、どうぞ」
「お断りします」
「何でよ」
拗ねたように頬を膨らませる。
「私、耳かき上手いのよ。すっごく気持ちよくできるのよ」
「やったことあるの?」
「ないわ」
「お断りします」
「もう、いいじゃないのー」
彼女は細い足をバタバタと動かす。そして、ハッと気がついたように「ああ、なるほどね」と頷くと、スカートの裾をぴらりとめくった。
「マナ君は本当にエッチね」
「むしろ引くよ……」
「どうして。乙女の柔肌よ。普通はタダじゃ触れないのよ」
「お金出す人なんていないよ」
「あら、そうでもないのよ。知らないの?」
いやまあ、知ってるけども。
そんなすったもんだのあげく、折れたのは結局僕だった。
「痛くしたら怒るからね」
「大丈夫よ、大丈夫」
屈託なく微笑う彼女を見ると不安がどんどん増していく。しかし結論から言えば、彼女の発言はまったくもって正しかった。
細い竹の棒がそろりと穴に差し入れられたその瞬間、今まで感じたことのない快感が耳の奥で弾けた。コリコリとくすぐったい感触が、敏感な皮膚を責め立てる。信じられないほどの快楽に、僕はただ恍惚とする他なかった。
事実、それは文字通りの極楽だった。僕はそのまま昏倒して病院に運ばれ、次の朝まで目覚めなかった。もう少し搬送が遅れていたら命の危険すらあっただろうと老齢の医者が告げた。彼は豊かな髭を撫でながら、しきりに首をひねっていた。僕の体のどこにも異常はなく、脳波も至って正常なのだった。こんな症状は見たことがないと彼は呻き、あげくには後学のためにもう少し入院してくれないかと頼まれたので丁重に断った。
原因なんて、調べなくてもわかっている。
それは彼女にとっても同じだったようで、少なくとも卒業するまでは彼女は誰にも耳かきをしなかった。代わりに自分の耳を実験台にした。桜が舞う中、「三回くらい死んだかと思ったわ」と笑う彼女に、僕は何も言えなかった。それはきっと、自らの不可思議な能力と折り合いをつけるため、どうしても必要なことだったのだ。
その甲斐は充分にあった。彼女は、命の危機なく快楽を与えられる耳かきの技術を完璧に身につけていた。そして中学校に進学するなり、妙な戯言を言い出した。
「私、耳かき部を作りたいわ」
「はあ?」
残念ながら聞き間違いではなかった。彼女は至って真剣に、この世のどこにもない部活を設立しようと目論んでいた。
「せっかくこんな能力があるんだもの、使わない手はないじゃない」
「まあ、願うのは自由だけどさ」
「あなたも入部するのよ」
「嫌だよ!」
「あら、どうして?」
そう首を傾げる彼女の姿には有無を言わせぬ迫力があった。
「普通、嫌でしょ、そんな得体の知れない部活」
「じゃあ何部に入るのよ」
「それは……」迂闊にも言い淀んでしまった。「決めてないけどさ」
「ならいいじゃない」
すました顔でこちらを見る。僕はこれ見よがしにため息をついた。
「わかったよ。でも、本当に設立できたらね」
後から考えるとこれは致命的な失言で、彼女はそれからあっという間に認め印付きの許可書を手に入れて嬉しそうに僕に見せつけた。
「……どんな手を使ったのさ」
「あら、熱心に頼み込んだだけよ? まあ、ちょっと耳かきもしてあげたけど」
うふふと笑う彼女はまるで魔女のようだった。あのいかつい担任やダンディな校長が耳かきひとつで言いなりになってしまう現実。僕は無言で頭を振った。
そうして発足した耳かき部の最初の活動は、校内へのビラ配りだった。彼女がデザインしたその紙の束を、僕は全生徒に配布して回った。騒がしい上級生の教室に単身乗り込んでいくあの恐怖は、経験した者にしかわからないだろう。僕の人生最大級のトラウマだ。
ビラの中には「あなたの耳をまっさらに!」とか「昇天するほどの快感!」とか「(注)あなたの健康を保証するものではありません」とか、あからさまにヤバい文句が並んでいて、こんなものを見ていったい誰が来るのだろうと思ったのだけれど、何処にもマニアは居るものだ。「俺、耳かきにはちょっとうるさいよ?」などと上から目線で乗り込んできたその男子は、一時間もすると「あああ……」とだらしなく崩れた顔でに退室していった。
それからは怒濤の日々だった。
どうやら彼はほうぼうに彼女の耳かきのすさまじさを広めて回ったらしく、評判を聞きつけた生徒たちがやってきては「あああ……」と呻いてまた評判を高めた。予約はあっという間に一ヶ月先まで埋まった。それは誰にも止められぬ濁流のような運命の流れだった。
いつしかその評判は学外にまで届いていた。それが判明したのは秋の文化祭だった。
「どう、マナ君。似合ってるでしょう」
二人きりの部室で、メイド服を着た彼女が踊るようにくるくる回る。その姿に、僕はしばし言葉を失った。
「顔が真っ赤よ、マナ君」
彼女はおかしそうにくすくす笑う。
「いいだろ、別に」
「もしかして、かわいい私に惚れちゃったのかしら」
「自分で言うかな、普通」
そんな風に僕たちがはしゃぐ間にも、扉の外では長蛇の列が形成されていた。気づいたときにはもう収集がつかなかった。矢継ぎ早に押し寄せてくる人の群れを、僕たちは食事もしないでさばき続けた。
耳かきにおける僕の仕事は、さながら外科手術の助手に似ていた。竹の耳かき棒を柔らかい布で磨く。ピンセットを熱殺菌する。専用の洗浄液を綿棒に染み込ませる。耳介用のソープをハケで泡立てる。そして、耳かきする彼女の額に浮かぶ汗をハンカチで拭う。それが僕の存在理由だった。
「駄目よ、マナ君。泡はもっときめ細やかに作らないと」
「どうやるのさ」
「うつわの底に、ぐっと泡を押しつけるのよ。そうやって、余分な空気を抜いていくの」
彼女の教えは厳しく、そして的確だった。そんな耳かきのやり方を、いったいどこで覚えたのか疑問だった。一度、直接尋ねたけれど、「夢で見たのよ」とはぐらかされた。いや、案外本当に夢の世界で神様にでも教えてもらったのかもしれない。
一年もすれば僕はいっぱしの耳かきサポーターになっていた。作業中の彼女を観察する余裕も生まれた。惚れ惚れするほど美しい所作だった。あるいは人間すら越えていた。耳かきを司る女神だと言われても信じたかもしれない。
やがて僕たちが二年生になり、三年生になっても新入部員は現れなかった。耳かきされたい人は大勢いても、耳かきしたい人はほとんどいないのだと僕たちは知った。彼女の落胆は激しかった。実に熱心に勧誘活動を行って、それが無駄足に終わると僕に長々と愚痴を吐いた。
「どうして誰も入ってくれないのよ」
「普通は入らないと思うよ」
「絶望よ、絶望! こんな世の中、お先真っ暗だわ!」
オレンジ色の液体を飲み干して、彼女はわんわん言葉をわめく。今考えると、あれはオレンジジュースじゃなくてファジーネーブルだったのかもしれない。酔っぱらっていたのだと考えなければ説明がつかないような乱れっぷりだった。
「じゃあ、じゃあさ」
何とか場を納めるべく、僕は咄嗟の台詞を口にした。
「耳かき屋を開くってのはどうかな」
「へっ?」
唐突なその言葉に、彼女はぽかんと口を開ける。
「どういうことよ?」
「だ、だからさ、マッサージ屋みたいに、耳かきしてお金をもらうんだよ。設備もそんなにいらないし、僕たちなら何とかなると思うんだ。いや当然、ずっと先の話だけど」
それは完全に勢いで出た言葉だった。自分の中にそんな考えがあることすら知らなかった。
「……それって、つまり」
真顔になった彼女の視線が、鋭く僕の瞳を射抜く。
「あなたと二人でお店をやらないかってこと?」
「そ、」
そうだよ、と言いかけて突如僕は気づいた。
それって。
それって、完全にプロポーズじゃないか!
途端、顔が燃えるように熱くなった。きっと耳の奥まで真っ赤に染まっているだろう。あまりに恥ずかしくて僕は何も言えなくなる。彼女の顔すら見られなかった。
「ふーん。マナ君、そんな風に思ってたのね」
「違うよ、違う!」
「本当に違うの?」
その台詞に、僕の体は完全に固まった。
彼女は笑ってもいなかったし、怒ってもいなかった。
すました顔で、僕をじっと見つめていた。
そして一言、とても簡単なことのようにさらっと言った。
「わかったわ。でも、高校を出てからね」
「へっ?」
今度は僕が、ぽかんと口を開ける番だった。
結論から言えば、その約束は叶った。
全く想像もできなかった運命の、その果てに。
*
転機は、卒業式の前日に訪れた。
夜の八時を過ぎたころ、部屋でのんびり漫画を読む僕のスマートフォンがぶるぶる震え出した。見ると、めずらしく彼女からの着信だった。
「どうしたの?」
「ちょっと、来てくれないかしら」
「来てくれって、部屋に?」
「そう」
彼女の口調には、電話口でもわかるほど深刻な響きがあった。「すぐ行くよ」と通信を切り、立ち上がる。用事の見当はつかなかった。愛の告白? 2%くらいはあるかもしれない。
玄関を出て、隣の家の呼び鈴を鳴らす。現れた彼女の母親への挨拶もそこそこに、僕は急ぎ足で二階へと直行する。何回登ったかわからない、通い慣れた階段だ。足音を聞きつけたのか、扉をノックする前に「入っていいわ」と彼女の声がかかった。
ノブを捻り、扉を開ける。
そこには、二つの人影があった。
彼女に対面するように、スーツ姿の老人が座っていた。背筋をピンと延ばし、顎に蓄えられた髭を撫でている。その顔に、僕はどこか見覚えがあるような気がした。
「相川学くんだね」
老人の口が開く。
「わしのことを、覚えているかな」
「い、いえ」
「五年前。きみは原因不明の昏倒により病院に運ばれた。間違いないね?」
「あっ」
僕の脳裏に、診察室の光景がフラッシュバックする。
「そう。わしはあの時きみを診察した医者だよ」
その正体に、困惑はむしろ深まった。何の理由があって、あの医者が今さら会いに来るというのだ。しかも僕ではなく、彼女に。
「不思議そうな顔をしておるね」
「……説明してくれませんか」
「ああ、もちろん。彼女もそれを望んでおる」
その言葉に、彼女は黙って頷いた。その顔から、不安の色が見て取れた。
「では、話そう。わしはある頼みごとをするため、ここに来たのだ」
「頼みごと?」
「ああ。単刀直入に言おう」
老人の表情が、ぐっと険しさを増した。
「この国の副大統領を、君の耳かきで暗殺してもらいたい」
*
当時、僕のあの症状がどうしても気になった老人は、ひそかに僕について調べることにしたのだという。
「初めは純粋な医学的興味からであったよ」
彼は秘密組織・レジスタンスに所属していて、その諜報部員に依頼して僕と僕に関わる者たちの行動を監視させた。
「それって、まさか盗聴とか」
「流石にそこまではしておらん。普通の探偵と同じ範囲の、簡単な調査だったよ」
「とはいえ尾行くらいはしたわけでしょう」
「……本当に申し訳なく思っておる」
調査に進展はなく、ほどなく打ち切りとなったのだが、続報は全く意外なところから訪れた。
「君らの中学校の校長、あれは我々の仲間でな。あるとき、飲みの席で『気を失うほど心地良い耳かきをされた』と話し始めた。半信半疑で聞いておったのだが、君たちの名前が出てきて驚いたよ」
校長の言葉を聞いて、老人はあることを直感した。
少年が昏倒したのは、おそらく彼女の耳かきが原因ではないか。
彼女の耳かきには、人を殺めてしまうほどの力が秘められているのではない。
その考えを確信へと変えるため、老人は仕事を休んで文化祭へと赴いたという。
「覚えておらぬか? サングラスをかけた老人がおったろう」
「あっ!」
「あの耳かきは本当に極楽だった。礼を言おう」
自ら彼女の魔力を体感した老人の胸には、既にひとつの計画があった。それはあまりに突拍子もなく、笑い話にすらなりそうなものだった。それでも、いやだからこそ、成功する可能性が高いのではないかと、そう思えてならなかった。
「さて、ここからの内容は機密情報だ。たとえ親族であろうと、一切話さぬようにしてほしい」
「話すとどうなるんですか?」
「七割以上の確率で死ぬことになる」
「まさか」
「嘘ではない。敵はどこに潜んでおるのかわからんのだからな」
「敵?」
「副大統領の家臣たちだ。奴らの辞書に容赦という文字はない。たとえ生まれたばかりの赤子であろうと。必要あらば四肢をもぐ。そういう連中なのだ」
「ちょ、ちょっと、わけがわかりません。副大統領がどうしたっていうんですか」
「ああ、すまぬ。説明が前後した。あの男はな、裏で国家転覆を企てておるのだ」
「クーデター!」
「そのとおり。軍のトップも既に奴の仲間だ。奴にとはある野望がある。全権を掌握した暁には、即座にそれを実行するだろう」
「野望……?」
「戦争だよ」
老人は至ってシンプルに答えた。
「奴は真性のサイコパスだ。国民が血を流して次々倒れていく様を、見たくて見たくてたまらないのだよ」
そこで老人は話を切った。
それは唐突な静寂だった。数分が経過して、口を開いたのはそれまで黙って話を聞き続けていた彼女だった。
「そんな話を、信じろっていうの?」
彼女は敬語を使わなかった。あえてそうしているのだろうと、僕は思った。おそらくは、気を確かに保つために。
「無理もない。だが証拠はある」
彼は胸のポケットに手を入れる。そして小さめのスマートフォンを取り出した。
「この中に保存された映像を見れば、わしの言うことが真実だとわかってもらえるだろう」
「なら、見せて」
「覚悟が必要だぞ」
「どうして?」
「間違いなくトラウマになるからだ。気を失ってもおかしくはない」
「かまわないわ」
即答だった。
「……良い心がけだ。学くん、君はどうする?」
「えっ」
正直、気は進まなかった。だが彼女が見たいのであれば仕方がない。それに、単純な好奇心も少なからず存在した。
「見ます」
「うむ。では流すぞ。一度しか見られぬから、そのつもりでな」
老人は四角いアイコンをタップする。そして、目にも留まらぬ早さで数字を打ち込みはじめた。少なくとも三十桁は越えていた。ピッと小さな音がして、何の前触れもなく動画が流れ始めた。
その内容を、僕はとても話す気になれない。一言で言えば、それはこの世の地獄だった。老人の言葉に誇張はなく、僕は死ぬまでその映像を忘れることはできないだろう。
三分ほどで動画は終わった。彼女は死んだように虚ろな目をしていた。
「大丈夫かね」
老人は少し申し訳なさそうな顔をしていた。本当は、こんな代物を中学生に見せたくなどなかったのだと思う。
「……ええ」
彼女が呻くように言う。声を出せるだけでも驚きだった。
「信じるわ。あなたの話」
「ありがとう。奴の企てを止めるため、我々はあらゆる手段を試みた。しかしその全てが失敗に終わった。残る道は、もはやひとつしかない」
「それが暗殺なのね」
「そうだ。奴は恐怖で部下を操っておる。同じ志を持つ人物など誰もおらん。よって、奴を亡き者にすれば、必ずやクーデターは止まる」
老人は徐々に語気を強めた。
「まっとうな手段では奴は殺せん。同士の大半が返り討ちにあって死んだ。だからこそ、きみの力が必要なのだ。耳かきの快楽のみで人を殺められる、その力が」
「できるわけない!」
叫んだのは、僕だった。考えるより先に口が動いていた。
「ミキは普通の人間なんだ! ただ耳かきが好きなだけなのに、その耳かきで人を殺せって、あんた頭がおかしいよ!」
自分でも不思議なほどの激昂だった。わけのわからない怒りに突き動かされ、僕は老人の胸ぐらを掴んで揺すった。
「マナ君! 止めて、マナ君!」
彼女の鋭い声がして、僕は我に返る。手を離し、呆然とその場に立ち尽くした。彼女は立ち上がって老人を強く睨んでいた。その瞳には、明らかな決意の光が宿っていた。
「ねえ、おじいさん。副大統領を殺さなければ、この国に戦争が起こるのね」
「ああ」
「それができるのは、私だけなのね」
「ああ」
今思えば。
僕は彼女を全力で止めるべきだったかもしれない。
そうすれば、あんなにも早く別れを迎えることなんて、きっとなかったはずだだから。
「わかった。やるわ、私」
*
卒業式が終わって、すぐさま僕たちはレジスタンスのアジトで暮らすことになった。生活は快適だった。欲しいものは何でも手に入り、外に出るのも自由だった。逃げ出そうと思えば簡単に逃げ出せたけれど、実際は気づかれないように監視がついていたのだと思う。
ひとつ残念なことに、高校には行かせてもらえなかった。授業は専属の講師によって行われた。僕と彼女、二人だけの教室。彼女は僕より成績が良く、そして授業のレベルは彼女に合わせられていた。僕は多くの時間を勉強に費やさなければならなかった。
拍子抜けするほど、穏やかな日々。
それが上辺だけのものだと思い知らされるのは、決まって週末の日曜日だった。
その日、僕たちには特別授業が課せられる。太陽が高く登った午前十時、僕たちは横たわる死刑囚と向かい合っていた。
彼らは間違いなく正常の裁判の元に死刑判決を受けた犯罪者であって、君たちは特別に認められた死刑執行人として登録されている。安心して行為に及んでもらいたい。担当者の説明はまるで台本のト書きのようだった。それが都合の良いごまかしだと、彼女も僕もよくわかっていた。
死刑囚は皆、おとなしかった。単なる耳掃除としか、知らされていないのだろう。
耳かきは実に淡々と行われた。相手とコミュニケーションを取ることもなく、全くの無言で彼女は手を動かした。間違いなく意図的に彼女はそうしていた。心を殺して、思考を止めて、ただ相手に快楽を与える機械となっていた。そんな彼女なんて、僕は見たくなかった。だがパートナーは僕なのだ。彼女の額の汗を拭う役目を、誰かに代わられるのは許せなかった。
うっとりとした表情の囚人は、やがて眠るように動かなくなる。
それで授業は終わりだった。
こんな残酷な行為を、彼女は毎週行わなければならなかった。暗殺は、万が一にでも失敗してはいけない。こちらの意図を悟られたら、もう次の機会は訪れないだろう。最初の一回が、そのままラストチャンスなのだ。
彼女は、能力を極限まで高める必要があった。間違いなく、確実に、副大統領を極楽の彼方へと飛ばし切るために。
だからって、こんな修行方法はあまりにも酷すぎやしないか。
週末になるたび、死体がひとつ増えていく。半年もすれば彼女は立派な大量殺人者だった。いや、違う。死刑執行人は殺人者ではない。それがレジスタンスの理屈だったのだろうが、人は理屈のみで生きられるものではないのだ。
そのころの彼女は、とても生きているとは思えない有様だった。
僕が話しかけても、ろくな会話にならない。授業にも出られなくなった。食事すらほとんど口をつけなかった。健康状態を心配すると、「点滴を打つから」と小さな声で答えた。
こんな日々には、もう耐えられなかった。
いや、耐えようとすること自体が既におかしいのだ。
土曜の夜は、雨音が部屋にも聞こえてくるほどの土砂降りだった。僕は彼女の部屋をノックする。トントン、トントン、トントン、トントン、トントン。五回も繰り返して、ようやくそろりと扉が開いた。現れた彼女の痩せた腕を。僕はむりやり掴んで引っ張った。つんのめるように、彼女は部屋の外に出た。青い縞模様のパジャマを着ていた。濡れたままの髪が照明を反射してきらめいた。
「逃げよう。今すぐ逃げるんだ」
僕は彼女にしか聞こえない声でそう言った。今考えれば、僕も相当精神が参っていたのだろう。そうでなければ、少なくとも逃げる時に豪雨の夜は選ばない。
「どこに?」
「どこでもいい。とにかくここから逃げるんだよ!」
僕の提案に、しばし彼女は何も言わなかった。じっと僕のことを見つめ、やがて、はあーっと長く細い息を吐いた。
「マナ君。私ね、逃げる気なんてこれっぽっちもないのよ」
それは信じられない返事だった。
「どうして!」
「だって、覚悟の上なのよ。つらい日々になるってことくらい、来る前からわかってた。それでも、これが私にしかできないことだったら、我慢しよう。自分を殺してでも、目的を達成しようって、そう決めたのよ。それが、マナ君にはわからないの?」
「わかるわけないだろ!」
僕は声を荒げた。
「暗殺だとか戦争だとか、そんなことより君のほうが何倍も大事だ!」
結局、それが僕の本心だった。それだけが僕の本心だった。
長い長い時間、僕たちはふたり見つめあっていた。
「……そっか」
やがて、彼女はぽつりとつぶやいた。
その瞳に、生気が宿り始めていた。
「ありがとう、マナ君。でも、その気持ちは、私も一緒なのよ。もし戦争が起こったら、あなたが死んでしまうかもしれないじゃない。それは嫌。どうしても嫌なの」
彼女は僕から目を逸らさなかった。僕も逸らそうとはしなかった。逸らしてしまうわけには絶対に行かなかった。
「私、この国を守りたいんじゃない。私の大切な人を守りたいだけなのよ」
どこかの時計がボーンと音を鳴らした。雨はまだ降り続けていた。途切れることのないざあざあという音が僕たちを包みこんでいた。
暗殺日が五日後に決まったと伝えられたのは、その翌日だった。
*
和服にしてはきらびやかな模様だった。赤く染められた全体のあちこちを、緑色の線が流れ星のように彩っている。顔には薄く化粧をしていた。自然で落ち着いたその色味は、彼女の素の美しさを抜群に引き立たせていた。
その姿を見て、僕は何も言えなくなる。「綺麗だね」と軽口を叩くには、この後の予定が重すぎた。
僕には仕立ての良いスーツが用意されていた。体に合わせたオーダーメードのそれは見るからに高級品で、十六歳の男子が着て良いものとは到底思えなかった。
出発の朝だった。空は眩しいほどに快晴だった。揃って車を待つ僕たちの元に、豊かな髭の老人が現れた。
「お久しぶりね、おじいさん」
「わしはいつも見守っておったよ」
「盗聴はしないんじゃなかったかしら」
「しておらんよ。今回は嘘ではない」
老人はふっと安心したように笑った。
「本当に、護衛はつけなくて良いのだな」
「ええ。二人で決めたことです」
彼女の言葉に僕も頷く。耳かきで暗殺するその瞬間は、自分とパートナーの二人だけにしてほしい。それが彼女の強い希望だった。
「殺されるかもしれんぞ。少なく見積もっても三割はその可能性がある」
「今更でしょう、そんなこと」
「ほう。ますます精神がタフになったようだな」
「マナ君のおかげです」
「学くんの?」
二人は同時にこちらを見る。僕は目をぱちぱちさせていた。彼女の成長に、自分が貢献したようには全く思えなかった。
黒塗りの高級車がキュっと目の前に止まった。扉が自動的に開いて、まずは彼女が乗り込んだ。次は僕だ。内部に足をかけた瞬間、呼びかけられたような気がして後ろを振り返った。老人が手を掲げていた。僕に聞こえるか聞こえないかくらいの大きさで、何事かを口にした。「彼女をしっかり守るのだぞ」と、そう言っているように聞こえた。
やがて長い時間の果てに車はぴたりと動くのを止めた。
そこは立派な民宿だった。庭の意匠や調度品ひとつ見ても、長い歴史のある場所と思われた。
女将に案内されたのは、この民宿でもっとも位の高い部屋だった。大きな引き戸に、毛筆で「我龍」と書かれた札が掲げられている。「では」と女将は下がり、後には僕と彼女だけが残された。
戸を二度、拳で叩く。中から「入ってください」と声がした。テレビやネットで、何度も聞いたことのある声だった。
この扉の向こうに、成すべきことが待っている。
僕たちは自然に顔を見合わせていた。何も言わず、ただ一度だけ頷いた。彼女はもう、考えぬ機械ではなかった。自らの意志の元に動く人間だった。
そして二人で、取っ手のくぼみを横に引いた。
ここから先、部屋の中で何が起こったのかを話すことはできない。
僕と彼女、ふたりだけの秘密だ。
どうだ。うらやましいだろう。へへ。
*
副大統領の急死に、世の中は大騒ぎだった。テレビでは緊急特番が組まれ、その何十年もの功績を讃えていた。実際のところ、国の役に立つ法案を数多く打ち立てた人物ではあった。裏の顔を知るものは、一般には誰もいない。
騒がしいのは裏の世界でも同じだった。トップのいなくなった相手方一派は、むしろ皆で祝杯をあげたらしい。クーデター計画は瞬時のうちに掻き消えて、戦争の危機も過ぎ去った。
副大統領の死体は解剖に回された。もちろん異常は発見されず、原因不明の心停止と結論づけられた。他殺の可能性すらほとんど議論されなかった。それは彼の死に顔のせいでもあった。そこには苦悶の色は全くなかった。穏やかで落ち着いた、幸せそうな表情のまま、彼は息を引き取っていた。
彼女と僕には一度だけ尋問の機会があった。追求は全く甘かった。「実を言うとね」と担当官は言った。「君たちが暗殺者だったら、お礼を言おうかと思ってたんだ」
仲間にすらそんな台詞を言われる副大統領。耳かきの時間の彼との会話を思い出して、僕は何だか切ない気持ちになった。彼は確かにサイコパスだったけれど、それでもひとりの人間だった。誰からも、家族からすら嫌われる覚悟で、自分とこの国のために戦争が必要なのだと本気で考えている人間だった。
僕たちはレジスタンスから解放された。彼らから感謝の言葉と共に巨額の金を渡された。それを元手として、僕たちは小さな土地を購入した。そこはある地方の森の一角で、最寄り駅から三十分以上も離れている不毛の地だった。不動産業者すら、買い手が付いたことに驚いたくらいだ。
「こんな場所を購入して、いったい何をされるのですか?」
「お店を始めるんです」
「店?」
「ええ。オープンしたら、ぜひあなたも来てくださいね」
僕たちはそこに些細なコテージを建てた。外装は二人で相談して決めた。木漏れ日を浴びるその緑色の小屋は、何だか少し幻想的に見えた。
扉の上には横幅一メートルくらいの看板を取り付けた。流線型の洒落たフォルム。その中央に、丸い文字で「森の耳かき屋さん」と書かれていた。彼女の決めた店名だった。
「意外とかわいい趣味してるよね」
「う、うるさいわね」
そうむくれる彼女の顔は、素直にかわいかった。
宣伝はほとんどしなかった。簡素なホームページだけをウェブに乗せた。客足は遠く、一日に一人でも来れば良いほうだった。かつて思い描いたような繁盛店とはほど遠かったけれど、僕たちは満足していた。しばらくはこのまま穏やかにやっていくつもりだった。
「ねえ、マナ君」
「何?」
「私、今とっても楽しいのよ」
飲み干したコーヒーカップをかたんと置いて、彼女はふふっと微笑んだ。
*
その日は天候に恵まれていた。まっさらな空から、燦々と日光が降り注いでいた。
朝食のスクランブルエッグを食べ終え、僕は皿を洗っていた。彼女は木製のチェアに腰掛け、のんびりと本を読んでいる。
ピンポンと軽快な呼び鈴が鳴った。彼女は本を置き、足早に玄関へと向かった。客が来たのだ。僕は水道の蛇口を閉めた。耳かきの準備をしなければならない。
数分かけてなめらかな泡を立てた。戻りが遅いな、と思ったその瞬間にパァンと乾いた破裂音が外から聞こえた。
嫌な予感がした。
僕は弾けるように立ち上がった。玄関へ走ると扉が開け放たれていた。その外で、彼女が呆然と尻餅をついていた。
僕は叫び声を上げ、裸足もかまわず飛び出した。彼女の前に、背の低い少年が立ちはだかっていた。震える両手に、小さな黒い銃を構えていた。
「大丈夫!?」
「え、ええ」
どうやら銃弾は体を逸れたようだった。彼女の無事を確認し、僕は少年へと向きなおる。彼は見るからに普通の精神状態ではなかった。泣きそうな顔で、噛みつくように僕たちに叫んだ。
「よ、よくも、よくも父さんを殺したな!」
父さん?
その言葉に思い出したのは、テレビのニュース番組だった。急死した副大統領の葬式で、気丈な振る舞いを見せる十歳の息子。あの顔が、いま僕の目の前にある。
「待て、待ってくれ、話をしよう」
「うるさいっ!」
銃口を僕へ向けてわめく。おそらく、彼は気づいたのだ。彼女の耳かきこそが、父の死の要因だと。そしてそれは、完膚なきまでの事実だった。
話し合いでは、解決しない。
そう思った瞬間、体が動いた。
少年に向かって矢の如く疾走する。驚いた相手は「ひゃっ」と声をしゃくりながら引き金を引いた。左の胸の付近に、感じたことのない衝撃が襲う。それでも僕は止まらなかった。渾身の勢いで少年にぶちあたり、もみくちゃに転がるどさくさの中、彼の手から銃を奪い取った。僕は重い体を引きずるように立ち上がった。倒れたまま、半分体を起こした彼の瞳は澄んだ透明の色をしていた。きっと彼は狂人ではなかった。左胸の痛みは全身にまで広がっていた。僕は彼女のことを考えた。一人になった彼女が安全に耳かきのできる世界のことを考えた。
僕は彼の頭に向けて発砲した。鋭い音が鼓膜をつんざいた。二度、三度と引き金を引いた。そのたびに少年の体が大きく痙攣し、やがてその動きも止まった。
僕はその場に崩れ落ちた。体から急速に力が抜けていった。声をあげて彼女がこちらに駆け寄ってくる。
「今すぐ救急車呼ぶから!」
そう告げて部屋に戻ろうとする彼女の裾を掴んだ。「待って」とか細い声で言った。
「どうして!」
「きっと、もう、間に合わない」
救急車がここに到着するまで、少なくとも二十分はかかるだろう。それまで僕の命が持つとは到底思えなかった。
「そんなことわからないじゃない!」
「いいんだ。それより、頼みたいことがある」
不思議と僕に絶望感はなかった。むしろ、喜びのようなものすら感じていた。
もうすぐ死んでしまう今この瞬間にしか、彼女に頼めないことがあったから。
「もう一度、僕に耳かきをしてほしいんだ」
小学五年生の、あの極楽の時間から。
きっと僕は、それを追い求め続けてここまで生きてきたのだ。
*
木漏れ日がきらきらと降り注いでいる。微かな風に木々が揺れる音。どこかでさえずる鳥の鳴き声。空気の冷たさが。妙に肌に心地良かった。
耳かき道具一式を抱え、彼女が駆け足で戻ってくる。それらは銀色の受け皿に並べられていた。僕の脇にそれを置き、彼女は地面に正座する。薄手のスカートの裾を摘み、ぴらりとめくってその素肌に僕の頭を乗せた。
「始めるわよ」
「うん」
最初は、泡洗浄。それが彼女のやり方だった。やわらかな刷毛で、耳介に泡を塗り付けていく。しゅわしゅわと泡の弾ける音に僕の脳がくすぐられる。音によるマッサージだった。
耳全体が泡で埋まったら、次は綿棒を使って耳会の溝をなぞる。そうしてこびりついた垢を少しずつ泡に溶かしていくのだ。それが終わると、ぬるま湯に浸した布で全ての泡を丹念に拭き取った。
「短いね。まだ二分も経ってないよ」
「短縮コースよ。きちんと最後まで味わってもらうわ」
そう言って、いきなりふうっと耳に息を吹きかけた。反則技だ。僕の全身が総毛立ち、くたびれた体がびくんと跳ねる。吐息の中にほんの小さく彼女の声が混じるところが、たまらなく愛おしかった。
「ふふ、耳が真っ赤」
耳元でささやくその声は、少しだけ震えていた。申し訳ないなと僕は思う。きっとこの耳かきは、彼女の人生でもっともつらい耳かきだ。
泡洗浄の次は、ピンセットで固まった耳垢を剥がす作業だ。
「ちょっと痛いわよ」
言うや否や、耳奥でペリペリと音がした。ピリッとした刺激を皮膚に感じる。けれど、それがまた心地良さにつながっていた。何とも独特の感触だ。
いくつかの塊を剥がし終え、ピンセットがコトリと受け皿に置かれる。
ここまでが、前座。
すごく気持ちが良いけれど、でも、彼女の魔力はこんなものではない。それは小五の僕が、とても良く知っている。
不意に、目の前に細長い竹の棒が掲げられた。
「これ、いくらだと思う?」
彼女の台詞に、僕は何度か瞬きをする。
「二百円くらいかな」
「その十倍」
彼女が笑う。僕もつられて笑おうとしたけれど、上手く頬が動かなかった。会話するだけで、もう精一杯だった。
本当は十倍どころではないことを、彼女も僕も良く知っていた。
まずは穴の入り口から、だんだん奥へと潜るように掃除していくのが彼女ならではのコツだった。そのとおりに、穴のフチがまず擦られた。途端、体を電気が走り抜ける。思わず「う、ふ、あ」と喘ぎ声が口から漏れた。
「気持ちいい?」
「もちろん」
全くもってとんでもない陶酔だった。彼女は手を休めなかった。胸の痛みも死の恐怖も、とっくの昔になくなっていた。
「かなり汚れてるわよ。自分で耳かきしてなかったの?」
「したことなんて、ないよ」
当然のように僕は言う。
「だって、僕にとって、耳かきはミキにしてもらうためのものだから」
その言葉に、一瞬だけ耳かき棒の動きが止まった。
「もしかして、あれから一度もしてないの?」
「うん」
「呆れた……」
彼女は力の抜けたように笑った。
「あなた、どれだけ私のこと好きなのよ」
「考えたこともないよ、そんなの」
いよいよ棒は穴の奥に進入を始めていた。ひとかきごとに僕の体は宙に浮いた。コリコリと敏感な皮膚をいじめるその快感が、脳髄を直接かき回していた。
「私、時々思うのよ」
「なに?」
「初めてマナ君にしたあの耳かきが、いちばん上手くできた耳かきじゃないかって」
「もしそうなら、天才だね」
「あら、私、天才なのよ。知らなかった?」
知ってるよ。
きっと、君よりずっと良く知ってる。
いつしか視界には光しか映らなくなっていた。真っ白な世界の中、大好きな女の子の太ももに頭を預けて耳かきしてもらっている僕は、この世でいちばん幸せなんじゃないかと思った。
ぽた、ぽたと頬に水滴の落ちる感触がした。雨が降ってきたのかな。雲はひとつもなかったはずだけれど、それでもきっと、これは雨だ。そう思うことにした。
コリコリと心地の良い感触が耳の奥で弾けている。
コリコリと心地の良い感触が耳の奥で弾けている。
そして天にも昇る耳かき 水池亘 @mizuikewataru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます