第67話 大ピンチじゃん
突然の呼び出しに不安を感じながらも、それを押し殺して、エルソルの住む塔に固有能力で移動した。
そして、彼女が暮らす白い部屋に移動した途端、少しばかり焦りを感じた。
そこは、これまでと違って、本当に唯の白い部屋となっていたからだ。
大きなソファーも、アニメやエロ動画を映し出していた大型テレビも、ポテチやコーラが置かれたテーブルも、何もかもがなくなり、完全なる無の空間となっている。
ああ、エロ動画の配役は、悲しいことに俺や嫁達だ……この
だが、それも過去のことだ。いまでは夜の営みで欲求不満を解消しているはずだ。もしかしたら、ローテーションの間隔が長いので、鑑賞しているかもしれんが……ほんと、エッチ好きな神様だよな……
まあエルソルがヘンタイなのは良いとして、そんな唯の白い世界に、彼女はぽつんと立っていた。いや、ぽつんとではない、猫まねきのごとく
ぐあっ、やべっ、身体がいうことを利かない。くそっ、こいつ、俺を嵌めやがったな……
必死に抵抗を試みるが、全く以て自由が利かない。
為すがままに、というか、強引に引き寄せられると、熱烈なキスが襲い掛かってきた。
まあ、嫁からの口付けだ。甘んじて受け入れるべきだろう。
ただ、強引にというのが気に入らない。どこか犯されているような気分になってくる。
それ故に、少しばかり不満な表情を見せてやる。
「行き成りとは、どういうつもりだ?」
「あら、妻とキスで挨拶するくらい良いじゃない」
まあ、その通りなので反論できなかったりする。
というか、どさくさに紛れて、マナをごっそりと持っていかれた。
「それよりも、これはどうしたんだ?」
何もない白い部屋を見回しつつ、直ぐに話題に切り替えた。
「今、それを説明している時間がないの。直ぐに天空城へ行くわよ」
ん? 珍しく焦ってるみたいだが、いったい何があったんだ? こんなエルソルを見るのも初めてだが……いや、例のアイテム以来か……
「その件は、もう忘れなさいって言ったでしょ?」
「分かった分かった」
「それよりも、時間がないの。急いでワープを出して」
「うむ」
彼女の言動が少しばかり強引だと思いつつも、天空城に舞い戻ると、リビングのソファーにサクラが座っていた。
「お帰りなさいませ。エルソル様もようこそ」
サクラは驚くことなくゆっくりと立ち上がると、丁寧に頭を下げた。
その立ち振る舞いは美しく、気品を感じさせられずにはいられない。
「久しぶりね。元気にしてた? ゆっくりお話しでもしたいところなのだけど、ごめんなさい、呑気にしている時間がないの。ユウスケ、直ぐにみんなを集めて」
笑顔を向けてくるサクラに頷きを返すが、彼女は直ぐに要求を出した。
彼女がここまで焦るのも初めてだ。それもあって、その理由を知りたいと思う気持ちが
急いで天空城に居る面子に伝心で集合をかけつつ、エルソルを連れて会議室に向かう。
ああ、クルシュは例外として、みんなを帰すと、俺のことを忘れる可能性があるので、綾香のアイテムができるまでは、天空城に留まってもらっている。
会議室に全員が集まったところで、サクラやマルセルがお茶を配って回っている。
長女のルルラはラティの膝の上、次女の美麗は俺の膝の上だ。
そう、ルルラはラティのことが大好きで、彼女をラティママと呼んでいたりする。
今もラティから頭を撫でられて、気持ち良さそうにしている。
全員が椅子に座って落ち着いたところで、なにが大ピンチなのか聞かせてもらうことにする。
「エルソル、いったい何があったんだ?」
全員の視線が集中する中、珍しく真面目な表情をしているエルソルが話を始めた。
「何から話せばいいかな。ん~、まずは、マナの話からしましょうか」
そう前置きをした後に、彼女は一口お茶を飲んでから話を続ける。
その行動は、自分を無理やり落ち着かせているようにも思える。
「みんなが使っている魔法だけど、マナを消費しているのは知ってるわね」
彼女の話に全員が頷く。いや、ルルラと美麗は周りの真似をして頷いているだけだ。全く解ってないだろう。
「そのマナだけど、何から生まれていると思う? 知らないわよね? まあ、知ってたら驚きなんだけど……」
まどろっこしいな。さっさと話しを進めろよ。
「ブー! ユウスケのバカっ! まあいいわ、マナは世界樹が生み出しているの。そして、この世界にある殆どのモノが、その恩恵を受けているわ」
俺の武器である『もっくん』が世界樹で造られているから、その存在は知っていたが、マナについては初耳だ。
周りの者達も声こそ出さないものの、初めて聞いた事実に、誰もが驚きを露わにしている。
エルソルは驚く者達を他所に、一つ頷くと、そのまま話を続ける。
「その恩恵の話をすると、わたしも例外ではないの。いえ、間違いなく、わたしが一番恩恵を受けているはずよ。何と言っても、わたしのマナ量はユウスケの五十倍はあるからね」
「五十倍かニャ」
「さすがは、女神様です」
「オレに少し分けてくれないか?」
ロココが驚きを露わにし、マルセルが尊敬の眼差しを向ける。最後はアンジェが残念な台詞で締め括った。
そのほかの面子も、途方もないマナ量にどよめいている。
というのも、俺のマナ量ですら、既に在り得ない領域であるのに、その五十倍となると、想像すらできない。
「まあ、いいや、それで、そのマナがどうしたんだ?」
喉を湿らせるために、お茶を飲んでいるエルソルを急かすと、もう、急かさないでよ。とでも言いたげに顔を顰めるが、彼女は続きを始めた。
「そのマナが供給されなくなっているのよ。わたしも気付いたのは今日だけど、おそらく、数日前から供給されていないと思うわ。マナ量が回復しないから、変だと思って気付いたの」
彼女の言葉が本当なら、それは大ピンチだと言えなくもない。だが、そこで違和感を持つ。
なぜなら、俺のマナは回復しているからだ。
「俺は回復してるぞ?」
思ったことを率直に言い放つと、エルソルは頷きながらその説明を始めた。
「それはね。あなたのマナ量が少ないから気付かないのよ。というか、殆ど使っていないでしょ?」
エルソルの言う通り、ここ最近は殆どマナを消費していない。
もっぱら使うのは、固有能力ばかりなのだ。
「ユウスケのマナ量が少ない……」
エルソルの言葉に頷いていると、麗華が溜息を漏らした。多分、彼女の感想は違ったようだ。
まあ、俺と比べれば、彼女のマナは、微々たるものだ。
「わたしは別だけど、人間は世界樹から直接マナを分けてもらっている訳ではないの。世界にある草木、水、大地が世界樹からマナを受け、それを間接的に分けてもらっているのよ。だから、自然からマナが無くならない限り、あなた達のマナが回復しないという事象は起きないでしょうね。でも、世界樹からのマナ供給が無くなった現在だと、自然の回復量はかなり減っているはずよ。それが徐々に回復速度に影響してくると思うわ。今後、もっと顕著になると思うわよ」
う~ん、マナ供給が減ることは解ったが、それがどんな影響を及ぼすのだろうか。魔法が使えなくなるだけか? それなら、それほど影響がないんじゃないか? まあ、エルザやエミリアには申し訳ないけど、魔法が使えないのは、地球人である俺からすれば、当たり前のことだからな。
話を聞いた限りでは、それほどピンチだと思えない。そんな俺の思考を勝手に読み取ったエルソルが、「頭が悪いんじゃない?」と言わんばかりの視線を向けてきた。
なんか、異様にムカつく。
「世界樹からマナの供給が無くなると、直ぐではないけど、この星が滅びるわよ。長い年月をかけて、水は消滅し、草木が生えなくなり、大地が砂漠化するでしょうね。なにしろ、生あるものは全てマナの恩恵を受けているんだから」
おいおい、それって、大ピンチじゃんか! こんなところで呑気にしてる場合じゃないぞ。
「そう。大ピンチよ。でも、十年や二十年の話ではないわ。だから、その原因を見付けて取り除けば、自ずと元通りになるわ。ただ、問題はわたしの方よ。わたしの力は全てが魔力なの。それは、わたしが神獣と融合してしまった所為なのだけど。このままだと、わたしは死んでしまうわ」
さらりと告げられた言葉に、この場に居る誰もが絶句する。
なにしろ、神が死ぬというのだ。マルセルなんて顔面蒼白だった。
そんな俺達を他所に、少し表情を強張らせたエルソルは、これからについて淡々と話を続けた。
この星の生きとし生けるものは、全てマナの恩恵を受けているという。
人間に関しては、マナにより魔法が使えるというだけで、たいしたことではないように思えるが、草木はマナが無くなるといきていけなくなるという。
まるで、二酸化炭素や陽光が無くなった草木のように、命を枯らしてしまうらしい。
そうなると、当然ながら、酸素が供給されなくなるのは当然ながら、草食動物が死滅する。すると、エサの無くなった肉食動物が息絶え、人間も食べるものがなくなるという負の連鎖が起こる。
行き着くところは、マナが無くなると、この星が死の星になるという訳だ。
それ故に、原因を突き止めて回復させて欲しいと言われたのだが、それについては、急いでいないという。
ただ、そうは言っても、五年くらいでエルソルが死んでしまう。
彼女は命を長らえさせるために、自分は冷凍冬眠するから、天空城を貸せと言ってきた。
そう、彼女は天空城に結界を張って、そこで暫く冬眠するというのだ。
まあ、別に天空城を貸すのは構わないのだが、冷凍冬眠をする場所を天空城に決めた理由が気になるところだ。
冷凍冬眠の話は急いでいないので置いておくとして、その次に聞かされた話にも驚かされることになる。
何を隠そう、固有能力に使うエネルギーはマナではなく、異次元から掻き集められているので問題ないという話だった。
なんとも、ご都合主義的な発想なのだが、敢えてツッコまなかった。
ただ、地球を故郷に持つ者は、誰もが苦笑いを浮かべていた。
その固有能力についてだが、そもそも、ヘルプにある魔法体系は、エルソルの思念体が造ったもので、本物のエルソルが言うには、実はそれ以外にも沢山の魔法があるらしい。
固有能力とは、エルソルの思念体がそれを応用して造ったもので、そのエネルギーをマナではなく、異次元から引っ張ってくる仕組みとなっているとのことだった。
もしかしたら、違う次元の世界樹からマナを供給されているのかもしれない。
そうなると、ジャンジャン固有能力を使っている裏では、どこかの世界でマナ枯渇が起きているかもしれない。なんて考えると、少しばかり申し訳ないような気がしてくる。
ここまでの話が終わったところで、エルソルは恰も
「おそらく、世界樹と記憶喪失の件は、同一犯の仕業でしょうね。そして、その犯人は、間違いなく精神生命体だわ」
うむ、こいつは、いつもいつも、どうして大切なことを最後にポツリと付け加えるのだろうか……
俺の眉毛がピクピクするのを眺めて、彼女はとても楽しそうにしている。
「それで、ごめんね。ユウスケ。実は、わたしが悪いの……」
行き成り謝られても、何が悪いのかさっぱり解らんが、謝ってもらうことは沢山あるような気がする。だいたい、お前の表情は悪いと思っている者の顔じゃないよな。悪いと感じているんなら、もう少し神妙な顔をしろっての。
「そんなことないわよ。本当に申し訳ないと思ってるのよ?」
「いや、それはいい。それよりも、何がのところを先に言え。いや、やっぱり聞きたくない。喋らなくてもいいぞ。もう話は終わりにしよう」
楽しそうに両手を合わせて拝んでいるエルソルに、冷たい眼差しを向けながら本題に入れと口にしたものの、それを聞くと泥沼に嵌りそうな気がして、直ぐに話を止めさせる。
だが、奴は待ってましたと言わんばかりに、ニコリと笑みを向けてくると、制止を無視して話を続けた。
「えっとね。精神生命体だけど、わたしが大昔に封印したのだけど、復活しちゃったみたいなのよね」
だから、言わなくていいって……てか、なんで、お前の後始末を俺がやんなきゃなんね~んだ!
不満が爆発しそうになるが、それを必死に堪えて淡々と告げる。
まあ、俺の思考は全て読まれているので、堪えても意味がないんだけどな。
「だったら、もう一回封印してくれ。それで大団円だ」
そう、自分の
「それがね……戒めの所為で、もう戦えないのよ……だから、謝ってるでしょ。イケズ!」
イケズって……俺は仏さまではないので、両手を合わせて拝む仕草は、今直ぐ止めてもらえませんか? 拝んでもらっても、何もできんぞ。だいたい、なんで神様に拝まれなきゃなんね~んだ?
「そこを何とか……妻の失敗を夫がカバーするのも助け合いというものでしょ」
もう、好き勝手に言ってやがる。はぁ~、なんか俺の周りってトラブルが絶えないんだが……
「その代わり、ヒントは出せるから」
ほ~~~、ヒント……いや、騙されるな! それを聞いたら、全てを引き受けたことになるぞ。
「ヒントって、何ニャ?」
こら! ロココ! なに勝手に質問してるニャ!
「エルソル、答えなくていい。聞きたくない。俺は絶対に聞かんぞ!」
すぐさま不要だと告げるのだが、両手で耳を塞ぐ俺に、ニヤニヤとした視線を向けてきたエルソルは、即座にロココの問いに答える。
「奴等の手法なんだけど、多分、地脈を利用してるわ。そうでないと、これだけの広範囲に渡って、ユウスケのことを忘れさせるなんて無理よ」
その言葉に食い付いたのは、真剣な表情をした麗華ママだった。
「その地脈は、どこにあるんでしょうか」
おいっ! お前等、やる気か? 俺が必死に抵抗しているのに! お前等、俺の嫁だよな?
「ユウスケ、諦めてください。いえ、どうせ解決に乗り出すのですから、素直に聞きましょう」
そう言って、止めを刺したのはマルセルだった。
結局、溜息を吐きつつも、エルソルからヒントを聞くことになった。
それによると、どうやら、奴等は地脈を使って波動を飛ばしているようで、地脈の所在地は、エルソルの力でマップに反映される。いや、初めから表示されているんだけどな。
そう、地脈とはダンジョンの最下層だった。
それを実証するために、ある実験を行うことにした。
その実験とは、ラウラル王国に連絡することだ。
この大陸の国でダンジョンを持っていない国が二つある。その二国の内の一方がラウラル王国なのだ。
地脈――ダンジョンが影響しているのなら、ダンジョンの無い国では洗脳が起きにくいだろうと考えたのだ。
サクラから、ラウラル王国王妃であり、ジパング国王の娘――爺ちゃんの娘であるミヤビに連絡を取ってもらったのだ。
「あら、サクラ、久しぶりね。元気にしてたの? いえ、それよりも子供はまだかしら? あっ、もしかして、その報告?」
ブッブーーー! 外れだ。全然違うし……やることはやってるが、指輪をしてるからな。
弾丸のように言葉を浴びせてくるミヤビに、サクラが困った表情でしどろもどろしていたので、横からデコ電を
「お久しぶりです。そちらは問題ないですか?」
自分の名前すら口にせずに尋ねると、デコ電の向こうでミヤビが沈黙する。
もしかして、俺のことが解らないんじゃないのか? そんな風に考えていると、突然、デコ電の向こうで彼女が声を張り上げた。
「そ、そうよ、ユウスケじゃない。どうして、直ぐに思い出せなかったのかしら」
なるほど、どうやら忘れていたけど思い出したみたいだ。ということは、完全に汚染されている訳ではないようだ。
この後、デコ電をサクラに返し、思考タイムに移った。
だが、いち早く結論に達した綾香が、自分の考えを口にする。
「アルベルツ州とデトニス共和国の影響はあるようですが、距離があるので洗脳が弱いようですね」
その考えに同意だと頷いていると、突如として叫び声を上げた。
「解りました! これです! よしっ! ユウスケ、私はこれから作業に取り掛かります」
立ち上がって叫び声を上げる綾香に、誰もが首を傾げて目を向ける。
しかし、彼女は何を考えたのか、その理由も告げずにすぐさま会議室から出て行こうとする。
「ちょ、ちょっとまて! 何が解ったんだ?」
勝手に自己解決している綾香にストップをかけると、彼女は振り向いたものの、とても面倒くさそうにした。
「この攻撃を防ぐアイテムの構想です。直ぐに作業に取り掛かりたいんです」
「さすがだな。早速、思い付いたのか」
「そ、そうですか? ま、まあ、創造神ですし……」
感嘆の声に、細やかな胸を張って自慢げにするかと思いきや、綾香はくねくねと身を捩らせた。まるで軟体動物みたいだ。
ああ、奴の胸は、本人の希望が叶うことなく、大して成長していない。いや、年齢から考えて、もう成長することはないだろう。
そういう意味では、少し残念な創造神だ。様々な神器を作り出すことはできても、己が胸を大きくすることは出来なかったのだから……
誰もが綾香を生温かい眼差しで見守っているのだが、幼少の者達にとっては、ただのクネクネダンスに見えたみたいだ。
「あやかママ、どうちたの?」
「ニャハハハハ。アヤカママがへんなおどりしてるニャ」
「美麗、見ちゃいけませんわ」
「ルルラ、真似をしないニャ」
「うぐっ……直ぐに取り掛かります」
麗華が首を傾げる美麗の両目を塞ぎ、ロココがルルラを抱き上げる。
ただ、幼女達の発言で自分の不可解な態度に気付いたのか、綾香は恥ずかしそうにしながら足早に会議室を出て行った。
クネクネ神が退出したあと、残った全員で今後の行動についての相談をした。
その結果、先ずはアルベルツ州のダンジョンを攻略することにした。
マナの復旧に関しては、エルソルが直ぐに冬眠すると言うし、即座にどうこうなる問題ではないと判断して、先に奴等の行動を妨害する方向でことを進めることにした。
「さ~て、これから反撃の開始だ! まずはダンジョン最下層だ。みんな覚悟はいいか?」
「ああ、オレは構わんぞ。というか、望むところだ。退屈してたし、丁度いいぜ」
「うちも、それで問題ないっちゃ」
「わたくしも、問題ありませんわ」
ダンジョンに向かうことを告げると、アンジェが満面の笑みを浮かべて立ち上がり、ラティと麗華もにこやかに頷いた。
ただ、マルセルが少しばかり暗い表情を見せる。
「回復役のことを考えると、私もアルベルツに戻るよりも、ダンジョンに言った方が良いのではないですか?」
マルセルが居ない場合、回復役は俺しかいない。それを考えると、少しばかり不安になってくる。
俺はミドルヒールまでしか習得していないし、もしものことを考えるなら、マルセルの広範囲回復や完全回復が必要になるかもしれない。
「そうだな。俺を忘れているとはいえ、アルベルツに居るのは、エルザやミレアだし、最悪の事態でも他国に攻め入るようなことはしないだろう」
「分かりました。では、私もダンジョン攻略組に参加します」
一気に笑顔を取り戻したマルセルが、力強く頷く。
その雰囲気からすると、自分も参加したかったようだ。
ただ、他にも表情を曇らせるものが居た。
「あの~、旦那様。わたくしは……」
うぐっ……サクラには残ってもらわないとヤバそうだよな……爺ちゃんが襲われる可能性もあるし……
「すまん。サクラ、今回は爺ちゃんとジパングに居てくれ。ああ、綾香のアイテムが出来上がったらだけどな」
「……うう……いつも、わたくしばかり居残り……」
「悪い。この穴埋めは必ずするからな。な!」
しょんぼりとするサクラを必死に宥めていると、その横からクルシュが割り込んできた。
「ふむ。ならば、今回は妾もダンジョンにいこうかのう」
なにいってんだ? お前は魔国を取り仕切る仕事があるだろ!?
「ダメだ。クルシュは魔国に戻って、もしもに備えてくれ」
「あう……がっかりじゃ」
肩を落としつつも、クルシュは駄々を捏ねたりしなかった。
それを見てホッと胸をなでおろしたのだが、そこで、それまで黙っていたロココが困り顔を見せる。
「ところで、ルルラと美麗はどうするニャ? まさかダンジョンに連れて行くわけにはいかないニャ」
ああ、そうだった……子供達を放置できないんだった……
やっと段取りが終わったかと思いきや、娘二人のことを思い出し、再び作戦会議を始めることになるのだった。
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