第54話 無人島


 何もかもを小麦色に焼いてしまうような灼熱の陽。

 青色と呼ぶよりも、エメラルドグリーンと表現した方がしっくりとくる海。

 右も左も、どこまでも続くかのような白い砂浜。

 まさに、南国の島と呼ぶに相応しき島。

 そう、俺達がやってきた島は、リゾートを作るのに最適な場所だった。

 ここに来たのは、ジパング国の現殿様である、転生した俺の爺ちゃんからの言葉だった。


「ちょっと南の島に行ってこぬか」


 それは、呆気に取られるほど軽い一言だった。

 その理由を尋ねてみたのだが、「偶には嫁たちと楽しく過ごす保養地を作るのもよかろう」と言われ、現状を顧みるとそんな場合ではないとも思ったが、何もかもを見透かしたような爺ちゃんの言うことだ。きっと、何かがあるのだろう。

 そう感じて反論することなく、この南の島にやってきたのだ。

 少しばかり面倒だと感じたのだが、今は心から感謝している。


「本当に綺麗なところね。海を見たのは今回が初めてだったのだけど、こんなに綺麗なものなのね」


 エルザは焼き付けるような陽の光を傘で遮りながらも、とても嬉しそうな顔で感想を述べた。

 海を知らなかったこともあり、彼女は宝物でも見るかのように、この美しい砂浜と翡翠のような色合いの海を眺めている。


「夏のバカンスを楽しむには、最適ですわね」


 この燦々さんさんと輝く陽の光になんて負けないとばかりに、その綺麗な瞳を輝かせているのは麗華だ。

 きっと、彼女の脳内では、輝くような砂浜でいちゃつくカップルが、夕暮れになると一つの影を作る。そんな全てを溶かすかのような熱い愛を奏でる妄想に浸っているのだろう。

 その証拠に、その綺麗な双眸は何も捉えておらず、白い肌は紅潮し、言葉を発した形の良い口は思いっきり緩んでいる。


 まあ、この島は年中夏なんだけどな……


「ハネムーンニャ」


 正式な妻となったばかりの磯崎、もとい、ロココが砂浜を駆け回りながら燥いでる。

 その行動は、どう見ても猫には見えない。


 普通、猫って暑いのも寒いのも嫌がると思うのだが……


「ハネムーンって、何なんちゃ?」


 俺にとっての美しき女神――ラティがその言葉の意味を尋ねながら、浅瀬でぴちゃぴちゃと足を遊ばせている。

 麦わら帽子を頭に乗せたこの美少女がそれをやると、もう写真か絵にするしかないと感じさせられる。もう、一生残しておきたい光景だ。


「ハネムーンは、愛し合ったものが結婚して交わる儀式ニャ」


 ロココ、嘘を言うな! 嘘を! そんな儀式じゃね~。唯の親睦を深める旅行だ!


「じゃ、ユウスケ。その儀式をするんちゃ」


 ほら見ろ、ラティがその気になっちまった……


「ラティ。それ暗くなってからですわ。やはり、ムードが大切ですわ」


「おいおい、麗華まで何言ってんだ? 新婚旅行なんて、ただの親睦だろ?」


 その気になっている麗華にツッコミを入れたのだが、ロココから逆襲される。


「何言ってるニャ。初夜を迎えるための旅ニャ!」


「そうですわよ。別名、蜜月ともいいますから、子作り強化期間で間違ってないですわ」


 そ、そうだったのか……だが、確かに、初夜と言うくらいだから、夜だよな?


 今更ながらに、ハネムーンの意味を知るのだが、今度は背後から少し呆けた声が聞こえてくる。


「初夜……こんな場所でユウスケ様と……」


 おいおい、まだ真っ昼間だからな……それと、ムードなんて期待しないでくれ……


 振り向くと、麗華の念が乗り移ったかのようなマルセルが、うっとりと何を見るでもなく視線を泳がせている。

 二人きりの一夜を想像しているのか、その白人種特有の白い頬は朱に染めている。


 ダメだ。完全にトリップしてやがる……今夜はヤバいことになりそうだな……


 夜のことを考えて顔を引き攣らせるのだが、完全に我が道を行く者も居る。


「暑いぞ。暑すぎる。これは泳ぐしかなだろ」


 アンジェは相変わらずの直情的な思考で、この暑さを緩和させるために泳ぐことを宣言してきた。


 いや、水着が無いし……そもそも、遊びにきた訳じゃないからな。


 完全にバカンスと勘違いしている輩に呆れるのだが、恰も心の内を盗み見たかの如く、創造主、もとい、パクラー綾香が声を上げた。


「南の島と聞いて、こうなると思ってました。そう、これが最新水着……」


 お前はド○えもんか! お前のアイテム袋には、何でも入っとるんかい!


 思わずツッコミを入れたくなるのだが、なぜか、綾香の叫びが止まる。それを不思議に感じて視線を巡らしてみると、そこには……


「誰も居ないんだ。何を気にする必要がある。アハハハハハハハハ!」


 そそくさと、いや、豪快に服を脱ぎ捨てるアンジェの姿があった。


 いやいや、俺が居るし……まあ、風呂とかで見てるから、今更だけど……でも、こういった野外で見ると、風呂とは違ってドキドキしてくるな。


「そうね。異性はユウスケだけだし、女性陣も家族だけだし」


 アンジェに続いて服を脱ぎ出したのは、一番脱ぎそうにないエルザだった。

 もしかしたら、巨大とは言えないが、形良くたわわに実った自分の胸を見せつけたいのかも……


「だ、だ、だったら、私も……」


 妄想の世界から戻ってきた麗華が、恥ずかしそうにしながらも服を脱ぎ始める。


「ユウスケも脱ぐんちゃ」


 白銀の女神が、傍に降臨したかと思うと、俺の服を脱がそうとする。


 うううっ、俺も男だ。ここで怯む訳にはいかん。


 決意して服を脱ぎ捨てた。だが、綾香の視線が気になる。


 こらこら、そんなに下半身を凝視するもんじゃない! だって、仕方ないだろう。この状況で立ち上がらない男なんて、男じゃないだろ? てか、そろそろ大人の階段を上らないと、こんな状況が続いていると、俺の精神と身体がもたんな。


 こうして南の島は、あっという間にヌーディスト島となってしまった。









 エメラルドグリーンの水辺で水を掛け合ったり、綾香がアイテム袋から取り出したビーチボールで遊んだりと、一頻りはしゃいだ俺達は、やはり綾香が取り出したハーフキャノピーと呼ばれる屋根だけテントの下で寛いでいる。

 全員が素っ裸で横たわっているのだが、そんなタイミングで、マルセルが申し訳なさそうに言葉を漏らした。


「残っている人達には、ちょっと申し訳ないですね。私達だけがこんな素敵な海で、ユウスケとの一時を過ごすなんて、とても罪悪感を持ってしまいます」


 う~む、確かに、そうだよな。


 ここ最近大きくなってきたマルセルの胸をチラリと眺めつつ、同感だと頷く。


「そうだな。次は、みんなでこよう」


 マルセルは嬉しそうに「そうですね」と返してきた。


 初めのうちは、みんなの裸にドギマギしたが、暫くすると風呂と然して変わらない気分になってきた。

 ただ、抑圧された精力は健在なようで、いつまでも元気なままだ。


「こんなの日本じゃ考えられないです」


 小さくとも形の良い胸を露わにしている綾香が、恥ずかしそうに心境を語るのだが、続けて悩ましげな視線を向けてきた。


「私の小さな胸をその目に焼き付けたからには、当然ながら責任を取ってもらえるのですよね?」


 うぐっ、脱いだのはお前じゃんか……俺が脱がせた訳じゃないぞ? でもまあ、このパクラーを放置もできんよな……神の如き力を持ってるからな。発狂したらこの世界を崩壊させるなんて、簡単にやっちまいそうだ。


 頬を紅潮させた綾香の責任を取れ発言を真剣に考えるのだが、なぜか麗華が否定してくる。


「綾香、それは違いますわ。責任を取ってもらうのではなくて、きちんと自分の気持ちを伝えないと駄目ですわ」


 白く柔らかい足の上に、俺の頭を乗せた麗華が、綾香にダメ出しする。

 正論を口にする麗華を見上げるのだが、膝枕をしてもらっている所為で、二つの大きな胸の下側しか見えない。

 なんとも、日本人離れした大きく形の良い胸だ。


「ユウスケ、わたくしは日本でチンピラに絡まれた時、あなたに助けてもらいましたわ。あの時は、素直になれなくて酷いことを言ったと思うの。本当にごめんなさい。でも、実を言うと、あれからというもの、ずっと気になってましたの。今考えると、それが恋だと解りますわ。いいえ、恋だと認めることができるのです。わたくしは良家のお嬢様育ちですから、我儘で、傲慢でした。でも、この世界で知りましたの。そんな見た目の力や権力なんて、何の意味も無いことを。それを振りかざすことが、とても恥ずかしい行為であることを。ミストニアに追われて絶体絶命だったあの時、心底からあなたに助けを願ったのです。そして、自分の気持ちを認めたのです。あなたを好きで好きで大好きで堪らないことを。どうか、こんなわたくしですが、あなたの妻にしてください」


 綾香をたしなめた麗華は、自分の本心を吐露すると共に、妻となることを望んだ。

 麗華の真摯な想いを受け、身体を起して彼女と向き合う。そして、本心を告げる。


「麗華、日本にいる時に、お前の心根が今のものだったら、間違いなくお前に惚れいたと思う。それほどに、お前は良い女だ。俺はお前に惚れている。俺は沢山の女を連れた軽い男かもしれない。でも、正直に言おう。お前のことが好きだ。俺の嫁になってくれ」


 麗華の本気に、俺も本気で答えた。すると、麗華の日本人特有の黒い双眸から、宝石のような涙が零れる。

 ポロポロと嬉し涙を零す麗華を前にして、両手を左右に広げる。彼女はそこが自分の場所だと言わんばかりに、俺の胸に飛び込んできた。


 めっちゃ可愛いな……なんか、心底、愛おしい……胸の高鳴りが止まらん……麗華、絶対に幸せにしてみせるからな。


 胸の中に納まる麗華を見やり、この美しく可愛いらしい女を必ず幸せにすることを固く誓う。

 ただ、麗華のプロポーズでタイミングを逃した綾香とマルセルは、自分達の告白タイムが無くなったことを感じ取ったのだろう、ションボリとしていた。


 うわっ、やばい、地縛霊モードに突入しそうだ。ん?


 落ち込み始めた二人に焦りを感じた時だった。背中を突く者がいた。

 それは、その面差しに花咲くような微笑みを湛えたアンジェだった。


「ユウスケ、感じ入っているとこに悪いが、二人にもチャンスを与えてやれよな」


 この直情的で実直剛健な金髪美人は、時折、こうやって人の心を察したかのような言動を執る。

 普段は脳筋発言ばかりなのに、とても不思議な女だ。

 そんな彼女の要望とも優しさとも感じる言葉を受け入れ、寂しそうにしているマルセルと残念そうにしている綾香に向き直る。


「マルセル。お前のことも愛しているぞ。初めて出会った時から、これまでのお前を見てきて、素晴らしい女だと思っている。その人を包む優しさで俺を癒してくれるか? 綾香! 時々、暴走したり、失敗したりもするが、いつも俺のために惜しまぬ努力をしているのを知っているぞ。そんなお前のことを可愛いと思ってる。これからも俺の支えになってくれるか?」


 俺の告白が終わると、マルセルは両手で口元を隠して涙を零し、綾香は呆気に取られたような表情だったが、直ぐに満面の笑みを浮かべ、涙で頬を濡らした。


 溢れんばかりに零れる二人の涙を拭ってやると、マルセルが満面の笑みを向けてきた。


「助けてもらったあの時から、強く、強く、本当に強く願ってました。あなたの妻になることを。私の想いであなたを癒すことができるのなら、私の全てを懸けてあなたを癒すと誓います。どうか、私をあなたの妻にしてください」


「もちろんだ。マルセル、これからもずっと一緒だぞ」


 最高の幸せを掴んだかのような表情を見せるマルセルは、再び滂沱の涙を流して縋り付いてくる。

 それを見た綾香が、もじもじしながらも視線を合わせてきた。


「私は……心の弱い人間でした。長い物に巻かれ、弱きものに目を瞑る。そんな最低の人種でした。でも、ユウスケと、あなたと出会って変われた。今は自分のことが大好きです。こんな私に変えてくれたあなたを心から尊敬しています。崇拝しています。愛しています。こんな弱い私だけど、必ずあなたを支える妻となってみせます」


「俺のお陰じゃないさ。お前が一人で強くなったんだ。でも、一人の力は知れている。これからも、力となって、支えとなって寄り添ってくれ」


 返事を聞いた綾香は、嗚咽を漏らしながら俺の胸をと飛び込んできた。二人を抱き締めた手で彼女達の頭を撫でる。

 すると、それまで彼女達へチャンスを与えるかのように、少し距離を置いていた嫁たちが近付いたかと思うと、その一人であるエルザが口を開いた。


「お姉様は宜しいのですか?」


 そう、ここで妻となっていないのはアンジェだけだ。しかし、アンジェは穏やかな表情でエルザに告げた。


「オレは妻とか嫁とか関係ないぞ。ずっと、ユウスケの傍に居るし、勝手に愛し合うからな」


 アンジェは、まさに彼女らしい答えをするが、エルザはそれに異議を申し立てた。


「そろそろ、本性を現してはどうですか?」


 エルザのその言葉に、それまで嬉しそうにしていたアンジェの笑顔が凍り付く。

 氷の笑顔となったアンジェが懸命に止めようとするが、エルザは被せるように話を続けた。


「お、おいっ、エルザ、なにを――」


「実は……お姉様のこの態度や物言いは、偽装なので」


「こらっ! エルザリーナ!」


 エルザの暴露にアンジェが割って入るのだが――エルザの本当の名前ってエルザリーナだったんだな……確かに姉妹の中で一人だけ名前が短いと思ってたんだ――なんて、そっちに驚いてしまう。


 てか、偽装ってなんだ?


 アンジェが割り込むが、エルザは話を続ける。


「お姉様の本性は、内気で夢見がちな性格なのです。それこそ、男の人と目を合わすことすら憚られるほどに……」


 なんだってーーーーーーーーーーーーーー!


 今度は、アンジェとエルザ以外の全員が凍り付いた。そう真夏の雪祭りとなったのだ。

 状況を横目に、エルザは尚も続ける。


「それを矯正するために、幼い頃の私が助言したのです。強い女になるように努力すれば、その内気な性格が直ると。それからのお姉様は、無理をして強い女を演じるようになったのです」


 エルザの暴露話を聞き終え、視線をアンジェに向けると、そこに、俺の知るアンジェは存在しなかった。

 両腕で胸を隠し、モジモジと恥じらい、その美しい顔をこれ以上ないほどに紅潮させたアンジェの姿があった。

 その姿は、見知ったアンジェとは正反対で、慎ましく奥ゆかしい女に変貌していた。

 というか、その恥じらうアンジェの姿を見ていると、恐ろしくムラムラとしてくる。


 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、欲しい、欲しい、欲しい、この女が欲しい。いや、絶対に俺の女にする……


「アンジェ、好きだ。嫁になってくれ。いや、もう俺の嫁だ! 誰にも渡さねーーー!」


 頬を染めて恥じらいを見せるアンジェの姿を目にして、思わず略奪と言えるほどの強引な求婚をしてしまった。

 すると、アンジェは恥ずかしそうにしつつも、笑顔でコクリと頷く。


「はい。とても嬉しいです。私もあなたを愛しています。きゃっ!」


 その姿があまりにもそそり、俺は彼女に抱き着くと、思わず押し倒してしまった。

 そう、アンジェの魅力を目の当たりにして、完全にタガが外れてしまったのだ。


「さあ、俺の女になれ!」


「はい!」


 アンジェは驚きつつも瞼を閉じた。

 彼女の同意を得たことで、獣のように彼女の胸に顔を埋める。

 ところが、次の瞬間には、俺はぶっ飛ばされていた。


「時と場所を選びなさい!」


 砂浜を転がりながらも、慌てて視線を上げると、そこにはハリセンを持ったエルザが仁王立ちしていた。

 おまけに、他の面々が冷たい視線を浴びせかけていた。


「ん? お、俺は、いったい、何をやってたんだ? てか、エルザ、そのハリセンは?」


「ダメニャ。これは欲求不満が溜まり過ぎて、完全に意識がぶっ飛んでるニャ」


 絶え間なく押し寄せる波の音が聞こえてくる中、灼熱の砂浜にロココの呆れた声が響き渡るのだった。










 結局、俺の記憶は戻らないままだったが、直ぐに気を取り直した嫁達と幸せな時を過ごした。

 ただ、エルザが持っていたハリセンのことが気になる。

 まさかと思うが、将来は母親――カトリーヌのようになるんじゃなかろうかと、肝を冷やしていたりもした。


 少しばかり将来に不安を感じたりもしたが、現在は全員が服や装備を身に着けて、この島の探索に乗り出している。

 ただ、その服というのが綾香製で、今更説明の必要もないと思うが、思いっきり特殊な仕様だ。いや、この世界では特殊だが、日本では普通に居るだろう。様々な色合いを持つ衣裳であり、全員がスカーフを結び付けた状態だ。

 そう、なぜか、全員がセーラー戦士となっていた。


 可愛い。確かに可愛いのだけど……それは夜に取っておいてくれ。


 思わず不埒な感想を口に出してしまったのだが、彼女達は軽蔑することなく受け入れてくれた。


 そんな話は良いとして、実はこの島に上陸してから、ずっと気になっていたことがある。

 それはマップの調子がおかしい。俺達の表示はされているのだが、他の生物が全くいないというか、一匹もいない。

 本当にそんなことがあるのだろうか。幾らなんでも一匹くらいは居ても良さそうだ。

 それと、砂浜では必要な物を全て綾香が出したから気にならなかったが、探索の準備を始める時に、アイテムボックスが使えないことに気付いた。

 そう、中を確認することはできるが、何も取り出せないのだ。さすがに、これは異常だ。この原因が島にあるのか、単に能力の問題なのか、現時点では解らない。

 そんな状況なだけに、色々と考えさせらえた。

 というのも、天空城は俺のアイテムボックスの中だし、ワープも瞬間移動も使えないのだ。

 途方に暮れつつも、これからどうするかをみんなと話し合ったのだが、当初の考えを実行することにした。

 そう、爺ちゃんからはバカンスであるかのように告げられたのだが、俺達はこの島を探索することにしていたのだ。

 まあ、いざとなれば、綾香がアイテム袋に収めてある小型飛空艇で、問題なく帰れると考えて、特に気にすることなく探索を始めた。


 小型飛空艇があるのに、なんで天空城なのだろうか……


 素朴な疑問を持ちつつも、八人の陣形を組みながら島の奥へと進む。

 マップ的には敵が存在しないことになっているが、そのマップ自体が正常に動作してない可能性もある。そういった理由で、陣形を組んだまま油断なく進んでいく。

 すると、突如として、森が騒がしくなった。


「敵ニャ!」


 ロココが察知して、みんなに伝える。

 その警告で戦闘態勢を取った途端、森の中から二メートルサイズの人型ゴーレムが姿を現した。その数は五体、それぞれが剣やハンマーなどの武器を持っている。


「エアープレス! えっ!?」


 敵が姿を現した途端、エルザが即座に魔法を放つが、直ぐに驚きを露わにした。

 というのも、これまで何もかもを押しつぶしてきたエルザの魔法を食らっているはずなのに、そのゴーレム達は足取りを少し鈍らせただけで、動きを止めることなく襲い掛かってきたのだ。


「こりゃ、強敵だぞ。油断するなよ」


 彼女達は頷くだけで、ゴーレムから視線を外さない。


「食らうんちゃ!」


 成長したラティが弓で攻撃する。

 彼女が放つ矢は、綾香特製であり、何でも貫くはずだ。

 予想通り、ラティの矢はゴーレムの腹を貫いた。だが、そのダメージが異常だった。ゴーレムは射貫かれた左胸に直径三十センチくらいの穴をぽっかりと空けていたのだ。


 マジかよ……これが、成長したラティの力なのか?


 あまりの威力に、思わず唾をのむ。

 ところが、胸に大きな穴を穿かれたはずなのに、ゴーレムは動きを止めることなく襲い掛かってくる。


「どこかに、どこかにコアがあると思います」


 ダメージを受けても動きを止めない敵を見て、機関銃の弾をバラ撒いていた綾香が、解析結果を伝えてくる。


「どこにあるのかしら」


 神技が発動しないことから、綾香から剣を借りている麗華が、直接攻撃でゴーレムを切り裂きながら尋ねる。


 機関銃を仕舞い、今度はアイテム袋からロケットランチャーを取り出した綾香が、ゴーレムの胸に照準を合わせながら答える。


「多分、心臓の位置だと思うんですが……いっけ~~~!」


 麗華に答えつつも、綾香は即座にロケットランチャーの引き金を引く。


 強靭で強力なゴーレムだが、その動きは少しばかり遅い。それが功を奏して、打ち出されたロケット弾は、見事にその厚い胸を貫く。

 すると、これまで幾ら攻撃されても微動だにしなかったゴーレムが、ボロボロと崩れ始める。


「よし、心臓だ! 心臓を狙え!」


 合点承知の助とばかりに頷いたラティが、次々とゴーレムの心臓を打ち抜く。

 この攻撃が効いたのだろう。残り四体のゴーレムは一体目と同様にボロボロと崩れていき、やがて土に還った。


「さすがは、ラティね」


 自分の魔法が効かなかった相手を易々と倒すラティに感服したのだろう。エルザが笑顔で賞賛を送る。

 それは仕方ないことだ。エルザの取得魔法は、範囲に対する攻撃力はあっても、ピンポイントに強い攻撃力を与えることに向いていない。

 現状の彼女が取得している魔法は、広範囲に大打撃を与えるものばかりとなっているのだ。


「オレもこの武器じゃ辛いな。綾香、なにかないか?」


 んなの子に戻っているアンジェが、自分の攻撃オプショションに幅が無いことを嘆き始める。

 まあ、鉄パイプとバールだし、それも仕方ないだろう。

 バールと鉄パイプを眺めながら寂しそうにするアンジェの言葉を耳にし、綾香が嬉しそうに異次元ポケットを探る。


 綾香。お前、マジでドラ○もんみたいになってきたぞ!


「これなんかどうですか?」


 彼女が自慢げに取り出したのは、長さ二メートルくらいある巨大なバズーカ砲のようなものだった。

 その武器を目にした途端、アンジェがその美しい双眸を輝かせながら綾香に尋ねる。


「なんか、めっちゃ格好いいんだが、これはなんだ?」


「大型パイルバンカーです」


「パイルバンカー? なんだそれ」


 その武器は、銃ではなく、杭打ち機だった。

 首を傾げるアンジェに、綾香が説明を始める。


「これはですね。魔力を注入して、相手に接触するくらいに詰め寄って、引き金を引く。すると、この先が飛び出して相手を貫くんです」


「き、きたぜ! これだ! 綾香、お前は最高だ!」


 どこが、きたんだ? めちゃめちゃ突貫用じゃね~か……


 呆れる俺を他所に、説明を聞いたアンジェが、綾香を抱き締める。


 まあ~、いいんだが、それよりも、他にも要るだろ。


 どうみても筋力勝負の漢が使う武器に喜ぶアンジェを目にして、溜息を吐きつつも、綾香に追加注文を入れる。


「ロココにも、何かないか?」


「磯崎さんですか~~~」


 そう、固有能力が使えないこともあって、ロココはダガーを使用できないのだ。

 ドラ○もん、もとい、綾香は悩んだ末に二つのアイテムを出した。

 というのも、ロココにはあまりマナがないことをで悩んだみたいだ。

 そんなパクラードラ○もんが出したのは、スリングショットとクロスボウだった。


「この二つはマナを使いませんから、磯崎さんにも使えると思います。でも、スリングショットは向いてないかもしれません。というもの、これはゴムを引くための力が要りますから」


 確かにそうだな。スリングショットのゴムが何でできているのか気になるが、それは置いておくとして、その反発力が攻撃力だから、ロココには辛いかもしれない。


「じゃ、ロココ。ボーガンでいいか?」


「うん。いいニャ。ありがとうニャ、綾香」


 綾香とロココが共に嬉しそうにしていたのだが、ロココがボーガンを持った途端に、そのボーガンが変異した。


「お、おいっ、それ!」


 思わず声を上げると、みんなもロココの持つボーガンに視線を向ける。


「あ、ダガーの呪いが伝染したみたいニャ」


 ロココは事も無げにその状況を教えてくれるのだが、大丈夫なのだろうか。フレンドリーファイアーなんて頂けないんだが……


 そう、綾香が作ったボーガンがロココの手の中で歪に変形し、怪しい気配を漂わせている。


「ちょっと打ってみろ」


 少しばかり心配になって、ロココに試し撃ちを勧める。

 彼女はコクリと頷くと、俺達とは反対方向に打ち出した。

 撃ち出された矢は、太さが三十センチくらいある幹を弾け飛ばして、その後ろの木々も破裂させ、どこまでも続く長い空間を作り出した。


 これは強過ぎないか? ちょっと異常だぞ?


「ロココ、それって攻撃力を調整できるか?」


「うん」


 ロココが頷く。


 結局、そこで暫くの間、アンジェとロココに新しい武器の使用感を確認させたあと、俺達は探索を再開することにした。

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