第5話 初めてのダンジョン


 視線の先では、下着がプラプラと揺れている。

 左から、エルザのちぃかっぷブラ。必要なのかが疑問だ。

 次に、やはりエルザの白いパンティー。小さなリボンとか付いていて可愛らしい。

 一番右がミレアのトランクス。色気も糞もないが、奴が穿いた途端、スーパーサイヤ人さながら、攻撃力が桁違いになる。

 外では干せないと言うことで、室内にロープを張って干しているのだが、俺の目は良いのかという疑問に狩られる。

 ああ、ロープはミレアが夜な夜な縛られていた物であり、少しばかり怪しい匂いが漂っていなくもない。


 現在はというと、必要な買い物も終え、宿屋でのんびりとしている。

 ギルドを後にして、武器屋と防具屋を経由し、洋服屋で買い物を済ませて戻ってきた。

 それぞれの買い物では、特に特筆するような出来事もなく、無事に帰路に就いたのだが、実は武器屋に向かう途中で感動することがあった。


 それは……猫耳だ~~~~! フニャーーーーー!


 チュートリアルの説明で、この世界に獣人族が存在することは知っていた。ここに来て初めて実物を目撃して、思わずガン見してしまった。

 本物の猫耳ですよ? 作り物じゃないですよ? 現代日本からきた者なら、誰でも絶対にガン見するはずだ。

 そう思わないのなら、病院での診察をお勧めする。興味があろうとなかろうと、必ず見入ってしまう代物だ。


 その猫耳の女性は、時折ピクピクと耳を動かし、スカートのお尻の丸みが始まる辺りから外に出した尻尾をクネクネさせていた。

 ただ、運が悪かったのは、その猫耳女性の胸が大きかったことだ。

 ガン見のために足が止まったのを不審に思ったのだろう。エルザが前を行く猫耳女性の胸を見た途端、即座に俺の大切なお尻に蹴りをお見舞いしてきた。

 やはり、エルザに豊乳ネタは禁忌らしい。つ~か、何度も何度も蹴りやがって、その薄い乳を揉むぞ。こんにゃろ!


 そんなサイドストーリーは置いておくとして、現時点で大切なのはスキルだ。

 俺としては、攻撃魔法を使ってみたい。これは魔法の存在する世界にくれば、誰でも考えるはずだ。

 木刀のもっくんは、確かに神器だけあって、攻撃力はマジパない。しかし、多勢に無勢となった時を考えると、範囲魔法は欲しい。

 そういった理由から、まずは魔法を取得し、戦闘でもバンバン使おうと考えた。


 スキルについてだが、取得するスキルによっては前提条件がある。

 魔法スキルを取得するためには、先に生活魔法を取得する必要がある。

 それについては、少しばかり意味不明だが、それがルールだというなら従うしかない。

 生活魔法は必要なスキルポイントが十ポイントであり、属性魔法Lv1が二十ポイントだ。その結果、魔法を使うためには、最低でも三十ポイントを消費することになる。

 現在の保持スキルポイントは、盗賊との戦闘で基本レベルが上がったこともあって、ギリギリの三十ポイントだ。


 ●=新規/▲=上昇

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 名前:ユウスケ

 種族:人間族

 年齢:十五歳

 階級:冒険者

 -------------------

 Lv:3▲

 HP:140▲

 MP:280▲

 SP:30▲

 -------------------

 <固有能力>

 空間制御:G [アイテムボックス]

 伝達制御:- 

 状況把握:G [マップ]

 取得経験値増加:G

 補助機能:MAX [ヘルプ機能]

 言語習得:MAX

 

 <スキル>

 -

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 盗賊との戦いでは、最終的に合計十六人を倒している。それによって、基本レベルが二つも上がっていることに驚いた。

 まあ、そのお陰で属性魔法を取得できるので、とても有り難いと言える。


 盗賊の皆様、ご協力、ありがとうございました。お礼に、必ずこの世から葬って差し上げます。


 なんていうか、正義とか悪とか関係なく、弱い者を虐げることや、食い物にする人種が許せない。だから、意地でも奴らを根絶してやりたいと考えていた。

 後々に思うことだが、この辺りから俺の狂気が始まっているようだ。


 俺の信念は良いとして、属性魔法を取得するとなれば、何属性を選ぶかが悩みどころだ。

 なにしろ、スキルの数が多すぎて、全てのスキルを取得するのは不可能なのだ。

 実際、判明している全スキルを取得するのに10000ポイント以上が必要となるのだが、基本レベル1~100で得られる総スキルポイントは2000弱だ。

 そういった理由で、取得するスキルを厳選する必要がある。


 やっぱりメテオだろ。超過激に格好良く大魔法をぶち込みたいよな。これこそ男のロマンだ。

 よし、火属性を取得するぞ。ということで、ステータス一覧のスキルをオープン、そして、生活魔法を選択して『取得』と念じる。そして、続けざまに火属性魔法を同じ手順で取得する。


 ステータスこうし~~~~~~~~ん!


 ●=新規/▲=上昇

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 名前:ユウスケ

 種族:人間族

 年齢:十五歳

 階級:冒険者

 -------------------

 Lv:3

 HP:140

 MP:280

 SP:0

 -------------------

 <固有能力>

 空間制御:G [アイテムボックス]

 伝達制御:- 

 状況把握:G [マップ]

 取得経験値増加:G

 補助機能:MAX [ヘルプ機能]

 言語習得:MAX

 

 <スキル>

 生活魔法 ●

 火属性魔法Lv1●

  [ファイアーボール]●


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 キターーーー! 魔法キターーーー! これで俺も魔法使いだ。ふっふっふっ……


「なに一人でニヤニヤしてるのよ。気持ち悪い……って、まさか、私達の下着を見て興奮してるんじゃないでしょうね」


「ちゃうわ~~~。お前の下着でイケるか!」


「はぁ~~~! 殺すわよ!? 私の下着なんかじゃイケないとでもいうのかしら!? あっ、いえ、そういう意味じゃ……それよりも、下着で興奮してるんじゃないのなら、いったい何があったのよ」


 何を血迷ったのか、エルザが意味不明な怒りを見せるが、なぜか、しどろもどろになった。しかし、直ぐに平静を装うと、俺の態度についてしつこく問い質してくる。

 つ~か、こいつは人の命を何だと思ってるんだ。


「だから、簡単に殺すなって! なんでもいいじゃんか」


 ベッドに転がっていたことが災いした。自分にしか見えないステータス画面を確認する視線の先には、室内で干してある下着が、風もないのに揺れている。

 まあ、それはいい。それよりも、スキル取得とか、エルザに教える訳にはいかない。そうなると、適当に誤魔化すしかない。


「怪しいわね~、何か隠してるでしょ」


「な~んにも?」


「嘘おっしゃい」


「ホント、ホント」


「挙動だけじゃなくて、言葉遣いもいつもと違うし、何か隠してるのはバレバレよ」


 今日に限ってやたらとしつこい。何時もなら、「ふ~~ん」って感じで終了なんだが、もしかして、こいつは俺の心の中を読めるんじゃないか?


「そのうち、話してもらうわよ。今まで見た信じられない内容も全てね」


 これまで、あまり追及されなかったから安心していたが、実はずっと観察されていたのではなかろうか。これは、かなりヤバいかもしれない。いやいや、ここは悪代官の如く、白を切り通すしかない。


「はい、はい。でも、本当に何でもないんだ」


 取り敢えず、この場はなんとか逃げ切ったが、どうしたものだろうか。いや、こいつらをロマールへ送り届けりゃ時効と同じだ。よし、そうしよう。

 因みにパーティを組んでいるので、俺からはエルザ達のステータスが丸見えだ。このステータス表示はヘルプ機能のオマケだから、なんちゃら王国に召喚されたクラスの奴等では不可能だろう。


 そのエルザ達のステータスはというと――


 ●=新規/▲=上昇

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 名前:エルザ=マルブラン

 種族:人間族

 年齢:十三歳

 階級:マルブラン伯爵家三女

 -------------------

 Lv:4▲

 HP:80▲

 MP:120▲

 SP:10▲

 -------------------

 <スキル>

 生活魔法

 風属性魔法Lv1

  [エアーアタック]


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 名前:ミレア

 種族:人間族

 年齢:二十歳

 階級:マルブラン伯爵家メイド

 -------------------

 Lv:5▲

 HP:120▲

 MP:160▲

 SP:20▲

 -------------------

 <スキル>

 生活魔法

 神聖魔法Lv1

  [スモールヒール]


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 エルザ、ミレア共に、まだ基本レベルが低く、ステータスの内容は似たり寄ったりだ。

 実はパーティを組んだ時に、こっそり確認していたのだが、エルザはその時よりも基本レベルが一つ上がっている。

 二人ともスキルポイントが残っているので、エルザだと知覚系スキル(Lv1=5ポイント消費)が二つとれるし、ミレアだと20ポイントも残っているので、前提条件なしのLv1スキルならなんでも取得可能だ。しかし、この世界の人々はステータスを確認することができない。それどころか、スキルポイントの存在すら知らない。

 俺の場合、ステータス画面からスキル選択に移動して簡単に取得できるのだが、それができないこの世界のスキル取得は、神賜石しんしせきと呼ばれる水晶球のような石を使っている。

 但し、神賜石は数が少ないこともあって、決められた施設にしか置かれておらず、おまけに有料とのことだ。

 おまけに、保持しているスキルポイントを確認できず、取得可能なスキルだけが映し出されるというデメリットもある。

 従って、前提条件も分からなければ、複数取得できることも分からない。恐ろしく不便な方法だ。

 例を挙げると、次のような感じだ。


 ----------------------------------

 スキルポイント→100――本人には不明。

 属性魔法であれば、属性魔法Lv1とLv2を両方とも取得可能。

 しかし、属性魔法Lv2は、前提条件が属性魔法Lv1なので、神賜石で表示されるのは属性魔法Lv1だけとなる。

 よって、属性魔法Lv1を取得して満足する訳だ。


 ※属性魔法Lv1=20ポイント、Lv2=40ポイント

 ※属性魔法以外の必要ポイント100以下のスキルも表示される。

 -----------------------------------


 実際、スキル取得の必要ポイントや前提条件すら解明できていないのだから、上手に取得できるはずもない。当然ながら、そんな苦労など、俺の知ったことではない。

 という訳で、そろそろ眠くなってきたので、本日の営業は終了とすることにする。

 ん? ミレア、くるならこい! どんと受けてやる。いや、俺は受ける方じゃないか……









 さ~て、いよいよ待ちに待ったダンジョンだ。

 そんな訳で、朝早くからアイテムボックスの整理をしている。

 取り敢えず、ダンジョンで必要のない物は、宿屋に置いていくことにしたのだ。

 ほんとに、大人買いの結果とは悲惨なものだ。まとめ買いの結果、直ぐに使わない物が山積みだ。


「ユウスケ様、これの素材は、なんなのでしょうか?」


 アイテムボックスからアイテムを大きめのリュックサックに詰め込んでいると、ミレアが俺のボクサーパンツを伸ばしたりしている。


 いや~ん、俺のパンツ~~~! エッチ~~~!


「こらこら、俺の下着で遊ぶんじゃない」


「ミレア、臭いし汚いから止めなさい。不潔よ」


「カッチ~~ン! まだ一回も履いてね~し。だいたい、必要もない下着つける奴に言われたくね~~~~!」


「な、な、な、なにが必要ないのよ!」


「言わないと理解できんか? それは、あれだ!」


 遠慮なくエルザのちぃかっぷブラを指差す。

 途端に、エルザが怒髪天となった。

 そして、世界を制する左ジャブで俺の人差し指を掴むと、すかさず神速の右フックを左頬に叩き込んできやがった。


「ぐぼっ!」


 避けることも叶わず、ベッドに転がって呻き声をもらす。

 俺、一応は空手の有段者なんだけど……恐ろしい娘だ。


「今度同じこと言ってみなさい。そのピーを一生使えなくしてあげるから!」


 くっ、腹立たしいけど、俺は女を殴らね~。仕方ない、ここは捨て台詞で対応するしかない。


 もうちょっと、大きくしてからホザケ。貧乳! ん? 声になってなかった?


 じゃ~勇気を振り絞って一度だ。なんて思ったが、怒り心頭のエルザは、既に部屋を後にしていた。

 周囲に視線をやると、ミレアがボクサーパンツを嗅ぎながら、「ざ、残念です。青い果実の香りがしない……」と落ち込む姿だけが残されていた。










 朝から酷い目にあったが、命尽きることなく、なんとかダンジョンの前に辿り着いた。

 なんかこの世界に来てから、踏んだり蹴ったりのような気がする。これが力ある者が受けしごうという奴か。


『いえ、それは違います。ユウスケの行いの結末だと思われます』


 脳内では、ヘルプ機能が勝手に回答を導き出す。余計なお世話というものだ。

 憤りを感じながら背後に視線を向けると、なんとか怒りを収めたエルザ、そんな彼女のご機嫌をとるミレアの姿がある。

 二人はダンジョンで戦闘を行うために、いつもと違って動き易い服装にシンプルな防具を装備しているはずなのだが、何を血迷ったのか、その様相は普段のままだった。

 エルザはミニのワンピースで、剣帯を装備している。

 一応は、革の胸当てを装着し、左手に盾を持っている。武器は剣帯にぶら下げたナイフと右手に持つ短杖だ。

 短杖は魔法の威力増強と発動補助の役目、それと純粋に敵を殴ることが出来る逸品だ。

 ミレアはというと、短剣とオーソドックスな長槍を装備しているのは良いのだが、服装はなぜかメイド服だ。

 荷物に関しては、初日ということで、長居をするつもりがないことから、ミレアが背負った小さめのリュックだけだ。

 こいつら、ダンジョンを完全に舐めてるだろ……


 ダンジョンの入口に辿り着いたところで、準備に不備がないことを再確認する。

 まあ、思考からして不備の塊だが、それに触れると、やっと収まったエルザ怒りが再発しそうなので、敢えて触れるつもりはない。


「それじゃ、ダンジョンに入るが、二人とも準備は問題ないか?」


「大丈夫よ。さっさと入りましょ。楽しみだわ」


「はい。問題ありません」


 初ダンジョンに胸を膨らませたエルザは、機嫌を急上昇させているようだ。しかし、肉体的には全く膨らんでいない。

 もちろん、ニュータイプである奴が、その思考を読み取らないはずがない。即座に俺の尻に蹴りを叩き込んできやがった。くそっ、いつか泣かしてやる。


 入場料を払って中に入ると、ヘルプ機能で確認していたものの、ダンジョン内部の明るさに驚いた。

 外ほど明るいわけではないが、灯りを必要としない明るさだ。そして、その光源となっているのが、発光石という存在だ。

 これは盗賊のアジトに設置されていた物と同じだが、その数が桁違いで十メートルくらいは楽々と見通せる。


 俺のみならず二人も、周囲にキョロキョロと視線を向けながら足を進める。

 なにしろ、初めてのダンジョンだ。落ち着かなくても当然だろう。


「地下一階は、確か……プルルンがメインで、稀にキャタピとビッグマウスが出るらしい」


「分かったわ。スライム、芋虫、ネズミね。なんでもかかってきなさい」


「毛虫でなくて良かったです……」


 陣形は、俺が先頭で、右後方がミレア、左後方がエルザだ。特に意味はないが、俺が敵を引き付けて、後ろの二人が援護という形にした。

 しかし、そこまで気合いを入れる必要はないと、直ぐに知ることになる。


 少し進んだところで、プルルンと呼ばれるスライムが、ぽよんぽよんとやってきた。その数は三匹で、緑、ピンク、青の三色である。

 思ったより容姿が可愛いこともあって、倒すことを躊躇ちゅうちょしてしまいそうだが、それだと何しに来たか分からない。ここでは、割り切ることにする。


「先頭は俺が倒すから、フォローを頼む」


「了解!」


「はい!」


 木刀のもっくんを右手に持ち、素早く駆けだす。

 エルザの詠唱が聞こえる。つ~か、詠唱が必要なのか?


「うりゃ!」


 もっくんで上から叩き斬る。木刀だけど切れるのだ。

 神器でLv1のモンスターを始末するって、過剰攻撃なんじゃないのか? どう考えても弱い者いじめだろ?


 あっさりと一匹を倒して即座に下がる。ヒットアンドウェイだ。

 ただ、あまりの装備の違いに、これでいいのかという疑問が脳裏をよぎる。

 相手がボスモンスターなら分かるが、神器を使うレベルではない。

 少しばかり躊躇ちゅうちょしていると、残りの二匹がエルザの『エアーアタック』で粉々になった。

 偶々、当たり所が良かったようで、二匹を一度で倒せたようだ。

 本来、彼女のエアーアタックの範囲はとても小さい。それでも運よく二匹同時にやっつけて、恐ろしくドヤ顔になっている。

 ミレアはといえば、俺の右側に回り込んでいたが、敵が全滅したので戻ってくる。


「まずまずだな。つ~か、これって弱い者いじめかな?」


「まあ、相手がプルルンだし……確かにそうかも」


「お二人とも、凄いです」


 最低レベルのモンスターだが、少しばかり緊張したのは内緒だ。

 初の戦闘に対する感想を口にしつつ、倒したモンスターに視線を向けると、亡骸が黒い霧となって地面に消えていく。そして、亡骸があった場所には、白っぽいビー玉くらいの石が残っていた。

 それは魔石であり、冒険者ギルドで買い取ってもらえる。

 この魔石についてだが、高レベルのモンスターになるほど大きな魔石を保持していて、その魔石の色も、白<青<緑<赤<紫<金の順で品質が上がるらしい。

 あと、黒い霧に関しては『魔素』と呼ばれ、ダンジョンに吸収されることで、新たなモンスターが生まれるとのことだ。


「よし、暫くこの戦闘スタイルで進むぞ」


「了解。でも、やっぱり、この階層だと過剰戦力だわ」


 エルザとしては、この階層が少しばかり不満なようだ。

 しかし、俺達はダンジョン初心者だ。油断したくない。


「でも、マナもそれほど多くないだろ? 使用については任せるけど、マナの管理は頼むぞ。いざという時に使えなくなると困るからな」


 魔法を発動するには、体内のマナを消費する。

 俺のようにMP値として認識できれば問題ないが、そうでないエルザ達は、余裕を持った使用を心掛ける必要がある。

 実際にマナが枯渇すると、肉体的にも精神的にも疲れが現れるらしい。

 それは思考の低下や息切れ、倦怠感として現れるという。願わくば、そんな事態に陥りたくないものだ。


「そんなこと、わかってるわよ」


 腹立たしそうにしているが、付き合っていると話が長くなるので、エルザの捨て台詞は黙殺して先に進む。









 あれから三時間ほど地下一階で戦闘を繰り返したが、モンスターが弱いこともあって、特に問題なく片付けることができた。

 そして、三人で話し合った結果、地下二階に降りることにしたのだが、丁度良い時間なので昼食休憩とした。


「地下一階とはいえ、モンスターが弱過ぎよね」


「気持ちは分からんでもないが、油断すると痛い目に遭うぞ。戦いとは何時でも自分との闘いだからな、油断が一番の大敵だ」


 宿屋で作ってもらったサンドイッチを食べながらエルザをたしなめる。


「分かってるわよ。それにしても、知ったようなことを言うじゃない」


 反発しつつも、俺の話に感銘を受けたのか、エルザは大人しく受け入れたようだ。


「俺は格闘技をやってたからな。そういった経験が沢山あったのさ」


「へ~~~、戦闘時の動きが普通じゃないと思ってたけど、そのお陰なのね」


 藪蛇になりそうなので、エルザの発言には応じず、さっきから全く反応がないミレアに視線を向けた。そして、後悔する。

 彼女と関わるのを止めようと心に誓う。

 ミレアは右手にサンドイッチ、そして、左手には黒い布を持っていたからだ。


 俺のボクサーパンツをくすねやがった。つ~か、持ってくるなよ。今は飯時だろ、握りしめるなよぉ~~~。オカズ違いだぞ!


 正直言って、ダンジョンのモンスターよりも怖い。知れば知るほど、畏怖を抱かざるを得なくなる。


 恐怖や戦慄を覚えつつも食事を終え、さくっと地下二階に降りてきた。

 ダンジョンの雰囲気は、地下一階と殆ど変わっていない。通路も広く、魔法戦闘に支障のないスペースが確保できそうだった。


「地下二階は、ビッグマウス、トレント、ビッグフロッグだ。油断するなよ」


「ネズミに、化け木、それとカエルね」


「はい!」


 エルザとミレアの返事を適当に聞き流して、慎重に脚を進めると、ビッグマウスとトレントが三匹ずつの合計六匹で現れた。

 登場のしかたが、それこそドラ○エみたいだが、それよりも、異なるモンスターが仲良く揃って現れることに疑問を抱く。

 しかし、いまは疑問を解決している場合ではない。直ぐに戦闘態勢を執る。

 ところが、少しばかり肩透かしに遭う。

 ビッグマウスはネズミなのに鈍足だし、トレントもユラユラと身体を揺らしながら、のそりのそりと近寄ってくる。全く以て、やる気があるように見えない。

 まあ、最下級のモンスターなんて、奴等もやってられない気分だろう。


 マッタリしたダンジョンだな……なんか、倒すのが可哀想になってくるぞ。だが、糧になってもらおう。


 数は多いが、まだ距離的には余裕がある。

 エルザは透かさずエアーアタックの詠唱を開始しているし、この距離なら俺も魔法を一発食らわせた方が良さげだ。もし、失敗しても引けば良いだけなのだ。

 さっそくとばかりに、ファイヤーボールをトレントに向けて撃ち出すイメージを思い浮かべる。

 その途端、俺の視界の右上に、ゲームなんかでよくあるキャストタイムを知らせる帯が小さく映る。そして、帯の表示は左から右に向かって緑色で塗り潰されていく。恐らく、右端まで行くと発動できるのだろう。

 視界に色々とちらつくことに、目眩を覚えないでもないが、ここは堪えてスパッと格好良く決めよう。


「ファイヤーボ~~~ル!」


 キャストゲージが満たされたところで左手を突き出し、発動キーを声にする。

 すると、見事に炎の玉が打ち出され、トレントを粉砕した挙句、その破片を燃やしている。


 決まったぜ~~~!


 心中で歓喜の声をあげつつも、油断なく右手のもっくんを両手で握りしめ、何時でも戦えるように準備して、エルザのエアーアタックの発動を待つ。

 ところが、全く発動する気配がない。


「ん? どうしたんだ?」


 左後方のエルザに視線を向けると、あんぐりと口を開けた状態で呆けている姿が視界に入る。


「お、おい! ま、魔法を撃てよ!」


「あっ、エ、エアーアタック!」


 ハッとしたエルザが、慌ててエアーアタックを発動させる。

 おそらく、詠唱自体は終わっていたのだろう。


「うりゃ!」


 エルザの魔法がもう一匹のトレントを微塵に砕くのを確認して、右から二番目にいるビックマウスを切り倒し、油断なく後退する。

 少し遅れて、ミレアが一番右のトレントをザクザクと突き始めた。これであと二匹だ。

 俺が左のビッグマウス、ミレアが右のビッグマウスを倒して、戦闘を終了した。

 なんとも簡単な戦い方だ。思わず拍子抜けしてしまいそうだが、そんな感想を抱いたのは、どうやら俺だけだったようだ。


「ちょ、ちょっと、貴方、魔法使えたの?」


「あ、ああ」


 驚きで一オクターブ上がったエルザ声に、ドヤ顔で返す。


「なんで黙ってたのよ」


「使う機会がなかったからな」


 ぶっちゃけ、憶えたばっかなんだけどな。ここではシラを切る。


「ユウスケ様、カッコイイです」


 ボクサーパンツを握りしめているミレアなんて見てない。見なかったからな。

 危うい女を思考から消しながら、エルザには韜晦とうかいで対応した。


「怪しいわ、詠唱もしてなかったでしょ?」


「ん? そもそも、詠唱なんていらんだろ?」


「え? 何を言ってるの? 要るに決まってるじゃない」


 どうやらエルザの認識は、ヘルプ情報と違いがあるようだ。

 少しくらいなら教えても良いのかな? というか、教えないと収まりがつかない気がする。

 まあ、どちらにしても、この場で話すことではない。


「わかった、わかった。詠唱については教えてやる。ただ、帰ってからな。今は狩に専念しようぜ」


「そうね、絶対よ。帰ったら絶対に教えてもらうわよ」


「了解、了解」


 こうして、エルザに魔法詠唱について説明することを約束して、地下二階の攻略を進め、俺達はダンジョン初日にして地下二階を制覇した。


 この日は、基本レベルを五つ上げることが出来たので満足だった。

 というか、簡単にレベルが上がり過ぎて、少しばかりドン引きする。これでいいのか、異世界!


 ●=新規/▲=上昇

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 名前:ユウスケ

 種族:人間族

 年齢:十五歳

 階級:冒険者

 -------------------

 Lv:8▲

 HP:240▲

 MP:480▲

 SP:50▲

 -------------------

 <固有能力>

 空間制御:G [アイテムボックス]

 伝達制御:- 

 状況把握:G [マップ]

 取得経験値増加:G

 補助機能:MAX [ヘルプ機能]

 言語習得:MAX

 

 <スキル>

 生活魔法

 火属性魔法Lv1

  [ファイアーボール]


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 名前:エルザ=マルブラン

 種族:人間族

 年齢:十三歳

 階級:マルブラン伯爵家三女

 -------------------

 Lv:8▲

 HP:130▲

 MP:220▲

 SP:50▲

 -------------------

 <スキル>

 生活魔法

 風属性魔法Lv1

  [エアーアタック]


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 名前:ミレア

 種族:人間族

 年齢:二十歳

 階級:マルブラン伯爵家メイド

 -------------------

 Lv:9▲

 HP:150▲

 MP:260▲

 SP:60▲

 -------------------

 <スキル>

 生活魔法

 神聖魔法Lv1

  [スモールヒール]


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 朝からバタバタした一日だったが、結局は何事も無くダンジョンの戦闘を終え、いつもよりもご機嫌で帰路に就いた。

 ただ、この時、エルザとの約束をすっかり忘れてたことで、宿に戻ってから物理的に踏んだり蹴ったりとなることなど、知る由もなかった。

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