第33話

 俺、中里帆億は中学三年生の時に彼女が出来た。同じテニス部で、同級生の女の子に告白された。


 正直、見た目とか体つきで、彼女なんて絶望的だと思っていたので驚いた。こんな俺を好きになってくれる人がいるなんてビックリだった。


 いわゆるデブ専というやつだ。まぁ彼女が言うにはデブだっただけではなく、テニスをしている姿が格好良かったからだそうだ。


 何度も話をすることはあったし、話も合った。気の合う友達みたいなものだと思っていて、正直男としては見られていないんだろうなと思っていた。だから想いを伝えられた時は意外だった。


 スポーツ自体は得意だった。体の大きさから運動は出来ないと見られがちだったが、体力に自信があった。


 高校に入ってからテニスを続けなかったのは、ぶっちゃけ彼女との時間を大事にしたかったからだ。


 受験勉強は励ましあって一緒に乗り越えたし、高校生活はもっと一緒に彼女と過ごしたかった。


 ただ五月になって一緒に過ごしていた彼女が一言ぽつんと呟いた。


「やっぱりスポーツしてる帆億が好きだなぁ」


 そんな事を言われたらまたスポーツをしたくなってしまうだろう。


 そんな時に鏡也にレスリングを見に行ってみようと誘われた。

 最初はただの付き合いで行ってみただけだった。


 試合を見て驚いた。自分と同じような体形の高校生が、あんなに力強く、一心不乱に戦っていた。


 もしかすると、テニスよりこっちの方が自分に向いているのではないかとさえ思った。そして、自分もあんな風に戦いたいと思った。


 鏡也から誘いが来たときは、二つ返事でOKした。

 競技は変わるけれど、彼女に格好良いところをまた見せられるのではないだろうか。


 まだ彼女にはレスリング部に入ったことは言っていない。言うのはもう少しレスリングを覚えて様になってからだ。


 このことを告げた時、彼女はどんな顔をするだろう? どういう事を言うだろう? また格好良いと言ってくれるだろうか。


 どんな姿を見せても、多分彼女は受け入れてくれるだろう。でも、出来るだけ格好良い自分を見せたい。出来る限り格好良い自分になっていたい。


 レスリングを始めたきっかけとしては不純だろうか? でもそれでも構わない。俺はレスリングをする理由は、また彼女に格好いいと言ってもらうためだ。

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