第30話
「いやーでも海生先輩がレスリングやるとか意外でしたねー」
「うん俺もそう思う!」
海生と百合菜の二人は祭り会場に着くと屋台を回っていた。思った以上に人が多く、はぐれそうになることもあった。そのたびに百合菜は海生の袖を掴んだ。
「ちょっと恥ずかしいっすね」
照れながら言う百合菜に、
「うん! でも悪くないね! いっそ手でも繋ぐ?」
と軽いノリで返す海生。
さすがにまだちょっと無理ですと顔を赤くする百合菜。
金魚すくいの屋台の前に通りがかった時、声をかけてきた者がいた。
「百合菜と海生じゃん」
それは通天高校のバレーボール部の部員で、中学の時の同級生。
一度幸隆に撃退された、海生に突っかかってきた奴ら二人だった。
「なにお前らそういう関係なの?」
今回も絡んで来る二人、百合菜は険悪なムードに戸惑っている。
「べ、べつにうちらはそういう関係じゃ……」
「そうだったらどうだって言うんだ?」
「へっ?」
海生の予想外の返答にさらに戸惑う百合菜。だが二言目の戸惑いは少し嬉しさをともなていた。
「中学の頃の部活での態度で何か気に障ることがあって、それで何か言いたいことがあるなら謝るけど、百合菜ちゃんには関係ないし、ここで突っかかってくるのはやめて欲しいな」
堂々とした物言いにたじろぐバレーボール部の二人。ちっと言いながら去っていく。
「ごめんね百合菜ちゃん。なんかこの前も同じようなことあったんだけど、中学の頃の俺の態度気にいらなかったみたいで」
「い、いえ……何か……海生先輩って変わったっすね」
そう?と言う海生に百合菜はそのまま言葉を続ける。
「何か中学の時より堂々としてるっていうか、前はもっと自信なさげだったっていうか」
そう言われる海生は自覚がなく、正直自分がどう変わったかどうかなんてわからない。もしかするとレスリングを始めたことがきっかけなのかもしれないが、それを言うのはなんだか恥ずかしかった。
「んー女の子の前だからちょっと見栄を張っただけかな」
照れ隠しで返すとじゃあ行こうかとまた祭りの屋台周りに戻ろうとする海生。自然に百合菜の手を引く。
自然な流れでつい手を繋いでしまった百合菜は赤面した。
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「くっそイライラするなー」
少し前に別れたバレーボール部員二人。祭り会場から離れるように歩いていた。
そのうちの一人、背が少し高い方が口を開く。
「海生って中学の頃からあんな感じだったっけ?」
「いや? 高校に入ってから調子乗ってる気がする」
不貞腐れたように坊主頭のもう一人が言う。
「あいつ多分最初から本気でやってりやレギュラーとか入れたんじゃないかと思う」
坊主頭の発言に背の高い方が意外そうな顔をした。
「へぇそうか? あいつ元々やる気なさそうだったしそんな上手くもなかったと思うけど」
背の高い方が同意しかねて答えると坊主頭が話し出した。
「あいつ練習中にボールが急に飛んできた時とかにきれいにレシーブしてたりしてたんだよ」
それがどうしたんだというような顔をする背の高い部員。
「レシーブって一朝一夕で上手くならないじゃん。でもあいつ普段は真面目にやってなかったからまず取ろうとも思ってなかったっぽい。だからとっさにやった時とかだけ見れたんだと思う」
へぇーと声を上げる背の高い部員。
「あと二軍と一軍に分かれて試合形式の練習した時とか、急にセッターする予定だった奴が怪我して海生が変わりやった時あったんだ。スゲー打ちやすいトスあげんの」
「お前海生のこと良く見過ぎじゃね?」
「うるさい。とりあえず俺はやろうと思えば出来るのに、やろうとしなかった奴にムカついてたんだよ」
背の高い方が思い出すように少し考えて話し出す。
「でも確か三年になってからはちょっと頑張ってなかったか? まぁ三年で頑張ってもスタメンとかほぼ確定してたからアレだったけど」
「あぁ。遅すぎるんだっつの。でも高校からは良い感じになると思ってたのに……」
背の高い方が坊主頭を横目でみながら呟く。
「お前もしかして高校で海生と一緒にバレーしたかったの?」
「うるせぇそんなんじゃねぇ!」
坊主頭は激高しその話はお開きになった。
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