第13話
匠の試合が終わり、次の55kg級の試合になる。55kg級は幸隆だ。相手の城間高校の選手も一年生のようだ。
「思ったより緊張しないもんだな」
初めての試合にも関わらずあまり緊張していない様子の幸隆。対して相手の城間高校の一年生はかなり緊張しているように見える。
そして開始のベルがなり、試合が始まった。
お互い腕を前に出し牽制しつつ、組み合おうとする。すると組み合おうとする瞬間に幸隆が動いた。
組み合う寸前にフェイントを入れ片足タックルに入り、そこからバックを取った。
相手選手も必死に抵抗を見せ、グラウンドで右へ左へと回転させられないように逆向きに力をふんばろうとするが、幸隆の動きについていけずローリングを許してしまう。
その後なんとか抜け出し、振り出しに戻る。そしてまた組み合おうとした瞬間。
幸隆は右足を一歩前に踏み出した。
「ドンピシャかな?」
次の瞬間、相手の選手は一本背負いを決められ、そのまま続けてポイントを取られた。
ちなみに投技などが決まると、ビックポイントという一気にポイントが多く入ったボーナスのようなものがつき、同じポイント差になった時でもこちらが有利になる。
その試合はテクニカルフォールで試合開始から1分30秒でラウンドを終えた。
「さすがだね幸隆」
インターバルの時間に幸隆に声をかける海生。今の試合を見て抱いた感想を素直に伝える。
「そうか? あんなの龍生先輩に比べればなんという事はないだろ」
さすがに三年生の全国ベスト16と比べるのは酷というものだとは思うが、それでも幸隆の頼もしさに頬が緩む。
「いい試合だったね幸隆。次のラウンドも同じように行くと良いよ」
それに続いて上地も声をかける。やはり幸隆は頭一つ抜きん出ている。
インターバルが終わり試合が始まると、2ラウンドも幸隆がポイントを取り優勢になり、ストレートで二試合目の試合を終了させた。
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三試合目は60kg級の試合で龍生の試合だ。もしこのまま龍生が勝てば、このまま団体戦での勝利が確定する。
「んー相手は二年生の涼介かー」
少し間の抜けた声で相手の確認をする龍生。特に緊張している様子はなく、絶対的な自信から来る余裕だろうか?
試合開始の合図で組み合う二人。何度かの駆け引きの後、タックルに入ろうとする相手選手。そこで龍生は綺麗な形で相手を上からつぶしにかかった。
バックステップと同時に組まれるクラッチ。顎と腕を取られ落とされてしまう相手選手。ここでそのまま横に回転しようとする龍生。そこで中途半端に耐えようとしてしまったことが相手の敗因になった。
「おっ? 頂きっ」
九十度ほど回転仕掛けていた相手選手の体。そこから一度クラッチの手をゆるめ、するりと相手選手の体を逆向きにしてクラッチを組み直す。相手選手が仰向けになってしまった形だ。龍生は次の瞬間、相手選手の体をマットに押さえつけフォールを奪っていた。
第三試合も通天高校が勝利し、事実上の通天高校の団体戦勝利が確定した。
だがそれでも団体戦は終わらない。
四試合目は66kg級の彰。彰の相手は一年生だったようで、ポイントで2ラウンドとも勝ち越し勝利した。
そして最後の五試合目。74kg級の安則と城間高校の瑞慶覧豊との試合だ。
「豊さん……団体戦の負けは決まっても、自分は負けるつもりはないようね」
相手の気迫を感じ取り、安則は気を引き締めているようだ。オネェ口調でさえなければ決まっていた場面だっただろう。
顔自体はあまり悪くなく、肩幅が広くガッチリしていて強そうな印象を受ける安則は、黙っていれば格好いいのだ。本当にもったいない存在だと感じた。
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