第3話
主将の龍生との会話の途中でぞろぞろと部員が集まりはじめ、練習が始まった。
見学者も他に増え、見学者は海生も含めて合計四人になっていた。
部員の集まりが悪かったのは、新入部員の勧誘に行っていたからのようだった。
部員が戻ってくるのと同時にヤクザも戻って来た。正直ヤクザがいたままだと緊張してしまうので、いなかった方が良かったと思った。
部員は体型が大きい人から小さい人まで様々で、基本的にゴツい見た目の人が多い気がした。
アップが始まり軽く道場内を走り始める部員達。すると部員の一人が道場内に置いてあったラジカセを操作し、音楽をかけた。
「へぇーレスリング部の練習って音楽をかけながらやるのか。あれ? この曲……」
流れてきた曲は少し前にやっていた、スポーツアニメの主題歌になっていた曲で、海生の好きな曲だ。
練習はマット運動から始まり準備体操に、屈伸、ブリッジなどに移り、その中でもブリッジは手を使わず頭を地面につけ、首だけでささえながらストレッチを行うというものだった。
準備体操が終わると、技の練習が始まった。確かタックルという技だったと思うが、柔道の諸手刈りの様な技だ。
動きが早く、思っていたよりもスマートに見える。
姿勢を低くし、片腕を伸ばし距離を測り、自分の射程に入った途端に相手の懐に飛び込む。それを繰り返すのだ。
「どうかな? まだ少ししか見てないと思うけどレスリングって見るのはじめて?」
マネージャーの優香が声をかけてくる。もう一人のマネージャーの美優は、飲水が入ったキーパーのコップを用意した後に他の新入生の見学者に話しかけていた。
「あっいえ! 昔少しだけ見たことがあります。でも思ってたより早く動くんですね」
と言っても乳首のイメージしか残ってないが、昔見たビデオではもう少し動きが遅かったようなイメージがあった。
「まぁ軽量級の人がほとんどだからね。重量級の試合とかになるとちょっと動きが重くなるというか、力まかせの試合になったりするね」
なるほど自分が昔見たビデオは重量級の試合だったのかもしれない。
そしてレスリングの構え方を見て思ったことがあった。それは……バレーボールの構え方と似ているということだった。
どうしてこの部は自分の心をゆさぶってばかりなのだろう? 絶対に入らないと決めていたはずなのに。
「ちなみにあの子は海生君と同じ一年生だよ? 龍生先輩の後輩で、紹介されて二月から練習に来てるの。中学まではバスケットボールをしていたみたいなんだけど」
その動きを見て驚いた。素人目に見てもわかる動きのスムーズさ。龍生とタメを張るとまではいかないまでも、三年生の龍生の動きについていけているように見えるのだ。
「あの子の名前は
っていうんだけどさ。なんと言うかセンスの塊みたいな子なんだよね」
二月からということはおよそ二ヶ月、その短期間であれぐらいの動きが出来るというのは驚きだ。
「一応龍生先輩も全国大会に行ったときは、個人戦でベスト16位になったりする実力なんだけどね」
「全国大会!?」
その言葉を聞いて驚きのあまり声を出した。通天高校のレスリング部が強いとは聞いていたものの、全国大会に出場するレベルたということまで知らなかったのだ。そしてそこでベスト16という話。
優香を見るとどや顔をしていた。
「どやぁ」
口で言った。
「それにしても二ヶ月でついていける幸隆って人は……」
これからどこまで行けるのだろう。
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