第11話 怪談!鬼母塚の曼珠沙華
「不吉じゃ。鬼の花じゃ。摘んだら、祟られる・・・」
紅葉の季節になると、田舎の溜池の淵に、
曼珠沙華(マンジュシャゲ)が、
血が滲んだように真っ赤に染まり、
一斉に咲き乱れて美しい。
曼珠沙華は、彼岸花ともいう。
しかし、皆、祟りを恐れて、
村のものは誰一人として近づかない。
私の田舎に伝わる、
悲しい「鬼母塚(きぼづか)」伝説。
鬼母は、その昔、優しい女であった。
貧しくも、働き者で、
幼い娘を一生懸命、育てていた。
ただ、鬼と交わり、
鬼道に通じているという噂だった。
この村で、溜池の淵が決壊し、
洪水に悩まされた。
そこで、人柱を立てることにし、
庄屋の娘に、白羽の矢があたった。
しかし、鬼母が留守をしている間に、
村人は、鬼母の幼い一人娘を人柱にしてしまったのだ。
鬼母が帰ってきたときは、すでに遅く、
娘は溜池に沈められしまった。
この世のものとは思えぬ、
恐ろしい声で鬼母は、
叫びつつけ、血の涙を流し、
溜池に小屋を立て、
呪詛を行い、
村人を次々と呪い殺していった。
恐れた殿様が、
有名なお坊さんを都からよんできた。
鬼母は、長い白髪を垂らし、
恐ろしい鬼の形相をして、
自分を騙し、娘を殺した村人を、
一人残らず殺すまで呪い続けるという。
そのお坊さんは、まだ幼い少年のようなあどけない顔で、
お経を唱えながら、
鬼母に呪詛を止めるように説得した。
鬼母は、お坊さんを殺そうとするが、
お坊さんの不思議な力のせいか、殺すことができない。
徳の高いお経をきいて、
村の子供達が溜池に、
ぞくぞくと集まった。
そして、鬼母に呪いを止めるよう、
村人を呪い殺すのをやめるよう
泣きながら懇願し始めた。
哀れな子供達を見て、
人間の心が戻ったのか、
亡くした娘を思い出したのか、
鬼母は、はらはらと泣き崩れた。
「娘を殺されて、
悲しくて、
寂しくて、
憎くて、
我を失い
鬼になってしもうた。
私はどうすればいいのでしょうか・・」
鬼母がお坊さんにきくと、
「悲しいとき、
寂しいとき、
憎いと思うとき、こ
の石を抱いて我慢するのです」
お坊さんは、
子供がうずくまったような形の石を杖でつき、
鬼母を慰め
鎮め
戒めた。
鬼母は、
自分の犯した罪の深さに恐れおののき、
溜池に自分の身を投げ、
安らかに沈んでいった。
鬼母は死んでしまったが、
鬼母の怨念は深く残っている。
そこで、お坊さんは、
溜池の淵に曼珠沙華を植え、
けっして近づかないように村人を諭した。
そして、その石に縄を締め封印をし、
鬼母の怨念を、この石に閉じ込めた。
新しい祠を建て、紅葉の季節になると、
祭りをして、鬼母の怨念を鎮めた。
いつしか村人は、この石を「鬼母塚」とよぶようになった。
今でも、「鬼母塚」を触ると、
その人を必ず祟るという。
<おしまい>
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