第4話 怪談!雹の降る日の訪問者
北欧の春は、寒くて底冷えがする・・・
空は鉛色にどんよりとしている。
冷たい雨まじりの雹がふってくる。
顔にあたって、
頬を突き刺すように痛い・・・
2月の冷たい雹(ひょう)が降りしきる寒い日だった・・
前の会社の同僚A子とランチの約束をした。
オランダのビジネス街
ワールドトレードセンタービルのそばの
イタリアンレストラン・グスタビーノだ。
イタリア人からも評判のいいレストランだ。
パスタはもちろん、
ここのトリュフリゾットは
様々なマッシュルームの
微妙で複雑な味だ・・
ややもすると
支離滅裂な味の一歩手前で、
みごとに調和している。
鼻からぬけるような
パルメザンチーズの
熟成した香り・・
ハウスワインの白ワインは、
はちみつの香りが芳醇にただよい
濃厚ながらも
後口のキレがいい。
フルーティーな香り
口いっぱいにひろがる。
「本日は、仕事とは別に、
個人的なご相談で参ったのですが・・・」
A子は私をみるなり、ギョッとして、
目に恐怖の色が浮かべた。
が、すぐに頬をひきつらせながら、
必死の形相で、
ようやく微笑んだ。
俺は、このA子が大きらいだ・・・・
仕事でなければ
こんな女と話すことはなかっただろう・・・
人を刺すような目をしている。
全てを見透かされているようだった。
A子の目を、ジッと覗き込むと、
金縛りにあってしまう。
催眠術のようだ。
こういうのを
魔の目というのだろうか・・・
「今日はバレンタインですね。
すっかり忘れていました」
A子は時計に目をやり
そわそわしている。
左の薬指には、
ダイヤモンドが3個
はめられた
ゴールドリングが
上品に光る。
「実はB子のことです。
あなたもよくご存知のB子です」
いつものように、唐突に話しし始める女だ。
「あ、すみません。生ビール一つ」
高級イタリアンで、生ビールの注文か?
この女は、イタリアンキュイジーヌの
常識を知らないのか・・・?
所詮、田舎者の女だ。
「先日、彼氏と旅行するといって、
メール送ってきました。
初めてののヨーロッパの旅行だそうです。
私は、ヨーロッパ滞在経験が長いので、
いくつか、観光名所を紹介しました。
そして、彼女は自殺しました」
自殺ですか・・?
「そうです・・自殺です・・」
A子はリゾットを
ガツガツ食べ始めた・・
よほど、腹が減っていたのだろうか・・
「不思議でしょう?
心の底から愛している男との
ヨーロッパ旅行中、
女が自殺するでしょうか。
すごく、不思議に思っていたんです。
すると、B子が自殺してから、
彼女が夜な夜な、
私の枕元に現れるようになりました」
それって・・ゆ、幽霊か?
「もちろん、幽霊ですよ。
とっくに、死んでいるんですよ。
当たり前じゃないですか。
最初は、とっても怖かったですよ。」
この女は、本当に正気なんだろうか・・・
幽霊の話しをしに、
高級イタリアンレストランで、俺とランチに誘ったのか・・?
A子は、ワイングラスと一口飲んで
ニュースを読み上げるように、
ペラペラと早口でしゃべりまくった。
「この白ワインおいしいですね・・・」
生ビールの次は
白ワインか・・・・
よく飲む女だ・・・
で、どうした・・・
「なんで、私の前に現われるのか、
とても、不思議だった・・。
早く成仏してくれっ・・・!
久しぶりにお経を唱えました」
そういえば、A子の実家は
もともと寺だといってたな・・・
「でも、B子の話を聞くうちに、
本当に不憫に思うようになりました。
彼女を殺した犯人を捜すように懇願され、
探しはじめたんです」
じ、自殺じゃ、なかったのか・・
「今の携帯って、
すごい機能がありますよね。
スマホですよ。
写真や録音、ビデオや
GPSで現在位置がわかる。
彼女、犯人に殺される直前に、
予感がしたのか、
友人に携帯をかけたんです。
友人が冗談だろうと思って、
会話を全て録音したんですね。
それが実は、
リアルタイムの殺人現場だった」
「もう一杯グラスワイン。
今度は、赤ワインを・・・」
ウエイターにグラスワインを注文した。
「この赤ワインもおいしい・・・・!
濃厚で成熟したパルメザンチーズが
赤い血の色にかわったみたいですね・・
でも、香りは摘み立てのフレッシュな葡萄。
う~ん、おいしい・・・!」
A子は、どうでもいいワインの話しの
薀蓄をたれている。
相変わらず、変な女だ・・・
気味が悪い・・・
「男は、彼女の携帯さえ、
処分すれば大丈夫だと思ったんでしょうね。
警察は今、他殺として、
容疑者逮捕にむかっています」
そうですか・・・・
それじゃあ、一件落着じゃないですか。
じゃ、もうB子の幽霊はあらわれなくなったとか・・・
「ところが、まだB子の幽霊は枕元にあらわれるんですよ。
まだ、人探しを頼まれて・・・」
殺した男をさがしてほしいと?
「いえ、婚約者を探してほしいといわれました。
その殺した男というのは、
彼女と結婚を約束していて、
死んでも、結婚すると約束したとか」
A子はぐびっと、白ワインを飲み干した。
そして、ワイングラスをカチャンと乱暴に置いた。
「そして・・・今あなたの後ろにいます」
彼女は、突き刺すような目で、ジッと見つめた。
その瞬間、全身の血が凍りついた。
仄暗い間接照明の
店内の空気は氷のように冷たく、
冷気が漂う・・・
心臓が氷の手で
絞られるようなギュッとした痛みだ・・・
女が、私の背後にいる・・・
金縛りのせいか、指一つ動かせない。
化け物か・・・
左の肩に、女の白い腕がだらりとたれた。
左手の薬指には、
赤黒く、
指輪を無理やり抜き取った後がある。
そんなバカな・・・!
あの女は確かに死んだはずだ。
絶対に死んでしまったはずだ・・・!
生きているはずがない・・・
その女は・・・
その女は・・・
私が結婚すると騙して、
殺した女だった・・・
遠くに聞こえていたパトカーのサイレンが
だんだん近くなって
頭にひびいてきた・・・
そして、店の前でとまった・・・
<完>
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