⑪FULL FORCE
〝
カウントダウン的な
〝
〝
二連続の
〝P・E・R・I・O・D〟
一つずつ読み上げる電子音声に合わせて、タイピンの目盛りに記された六文字が
〝
「トォ!」
新体操選手のようにバク転し、シロはコガネムシの顎を蹴り上げる。流動路の光を使い、流麗な円を描いた一撃は、岩壁のような巨体を高々と打ち上げた。
間髪入れず足首の
尚もシロは天空へと突き進み、逃げ馬のようにコガネムシを突き放していく。程なく満月のど真ん中に辿り着くと、流動路の光によって描かれた縦線が、シームレスだった天球を真っ二つに断った。
輪郭の
「何だ、何だ、お前は何なんだあっ!?」
大空に
瞬時に首を
ガネェ!
この機を逃すまいと思ったのか、コガネムシは慌ただしく右の前脚を振り下ろす。髑髏の仮面に食い込んだかぎ爪は、シロの脳天から顎までを一文字に切り裂いた。
ぎちぎち……!
錆びた
素顔のシロが視界に入り、窮屈な空間に押し込められていた金髪が大きく広がる。途端、汗ばんだ額から細く血が垂れ、涙のようにシロの頬を伝った。
寝食を共にした二ヶ月間、徹底的に星を避けていたシロが一度も見せてくれなかった光――。
だが初対面ではない。
そう、タニアは前にも一度、
そんな、まさか、あり得ない……。
ありったけの否定を使い果たすタニアを尻目に、約束を交わした瞬間が脳裏に甦る。記憶の中から目の前に溢れ出た金髪は、止める間もなく上空のシロに歩み寄っていった。
かたや空の果てよりもずっと遠い場所にある薔薇の芳香。
かたやブン殴るのが日課だったラーメンと定食の匂い。
白と黒ほども開きがある二つの色は、鏡像と実像のように重なった。
「あ……ああ……!」
上空の金髪から降り注ぐ光が、記憶の中の〈
「何で、何でこんなとこにいるの……!?」
理解不能な状況が全身を震わせ、タニアの腰から力を奪う。
「ハッ!」
月を背負ったシロが金髪を振り乱し、高々と右足を振り上げる。再び下方のコガネムシを
普段通り、六時の方向を指す左足、
綱渡りのように伸ばした両腕、
そして頭の上に突き出た右足――。
今にも振り下ろされそうな
シロの延髄から伸びる布状の光が、しなやかにはためき、月面を撫でる。感心するやら呆れるやら、タニアは思わず苦笑いを漏らしてしまった。
命懸けの戦いにまで趣味を持ち込むとは、あの人はどれだけ特撮を愛しているのだろう。
二股に分かれ、はためく?
ヒーローのマフラーそのものじゃないか。
「……おやすみなさい」
神妙に目を閉じ、シロは高々と
垂直に伸びていた腿が一気に倒れ、ふくらはぎが進路上の空気を断つ。つま先の描く残像が
釣り鐘まがいの重低音が
コガネムシの眼球が白く濁るのを見届けると、シロは背中の
ロケットとは逆向きに噴射した推力は、空中の二人を墜落への一方通行に叩き込んだ。
脳天にかかとをめり込ませたコガネムシが、ほぼ垂直に夜空を切り分けていく。空に向け、圧縮空気を噴き出すシロが、巨体の裂いた空気を白く埋め立てていく。白煙と絡まり合い、地表へと突っ込む落下物――事情を知らなければ、隕石にしか見えないだろう。
刻一刻と嵐に等しい風切り音が迫り、月の真ん前から伸びた白煙が倉庫の真上に肉薄する。
白煙が地表に達した瞬間、地球が
世界中が激しく跳ね回り、ゴルフ場のバンカーを砂場に思わせる規模のクレーターが広がる。
一帯に闇が降り、クレーターの中央に桜色の光が浮かび上がる。目の前の砂煙を
シロの背後から消しカスの霧が舞い、爆炎がそそり立つ。真っ黒なキノコ雲が膨れ上がると、突風が
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