⑨Revolution
「おやあ~? 今何かやったかい?」
大きく
「……〈ブランベルジュ〉の使い方は斬るだけじゃない」
肩ごと翼竜の
「フン!」
新弟子に胸でも貸す気なのか、コガネムシは
絶対の自信を物語る体勢が奏でたのは、
「こんな『なまくら』にやられるとはねえ。あいつらのヤワさにも困ったもんだ」
溜息交じりにおねんね中の〈
「さあ、時間一杯だよ!」
スタートキックで深々と足場を
手の平にキスでもするつもりか、迫り来る張り手を限界まで引き寄せ、引き寄せ、引き寄せ、シロは顔を右に傾ける。髑髏の鼻先を張り手が駆け抜け、風圧がシロの顔面を襲う。側頭部の穴から見える管が激しく
ガネェ! ガネェ! ガネェ!
執拗なコガネムシはすり足で獲物を追いながら、張り手を連射する。突っ張りの
戦場が
とん……。
張り手と仮面の追いかけっこが一分を超えようとした矢先、ついにシロの背中が壁とはち合わせる。逃げ場を失ったシロを見下ろすと、コガネムシはニヤリと口角を吊り上げた。真っ赤な眼球を凶暴に輝かせた巨体は、砲丸投げのように腕を振りかぶっていく。
「こいつが決まり手だ!」
猛々しく宣言し、コガネムシは一気に張り手を打ち下ろす。後退出来ないシロは
入道雲のように白煙が膨張し、盛大にシロを打ち上げる。動体視力の限界を超えたスピードは、鮮明に見えていた骸骨を書き殴りの上昇線に変えた。
息つく間もなく、直前までシロの立っていた場所を張り手が貫く。極太の直線がコンクリの壁に突っ込み、恐竜の足跡そっくりの手形を刻む。
亀裂が走るより早く壁が砕け散り、
「ちょこまかと!」
毒突いた途端、コガネムシの背中から機械的な駆動音が響きだす。
うぃぃぃん……。
コガネムシの
硬い
枝を
タニアの目に映るそれは、甲虫の前脚に他ならない。
ガネェ!
凶暴なおたけびが響き、高枝切りバサミのように前脚が伸びる。
今まで的確に攻防を展開してきたシロは、だがこれと言った手を打たずに前脚を待つ。冷静なシロをもってしても、予想外の変形に混乱してしまったのだろうか。
「ぐっ!」
無防備なシロにかぎ爪が炸裂し、直撃を受けた胸当てから凄惨に火花が散る。かぎ爪はそのまま肋骨型の胸当てを
ビュッ! と長ったらしい前脚が
シロが
墜落の衝撃によって、〈
「こいつで真っ二つにならないとはね! 大した防御力だ! 私ほどじゃあないがね!」
ほぼ自賛の賞賛を終えたコガネムシは、左右の前脚を腕立て伏せのように配置する。
ぐぐっ……! と地面に着いたかぎ爪が踏ん張り、巨体を押し上げていく。ぷるぷると震える
ガネェ!
かぎ爪が地面を蹴っ飛ばし、コガネムシがシロの頭上に飛ぶ。本体より一足お先に巨大な影が墜落し、シロの
「っ……!」
舌打ちとも
大地を転覆させんばかりに衝撃が走り、津波のような砂塵が室内を
空中で何回転かし、体勢を立て直したシロは、難なく壁に両足を着く。敏捷なシロは重力に働く暇を与えない。すかさず膝を縮め、水泳のキックターンさながら壁を蹴る。
滑空するツバメを思わせる鋭い
シロの算段通り切っ先が喉笛を貫き、コガネムシが崩れ落ちる――。
タニアの期待とは裏腹、目に入ったのは今まで見て来た中で最も明るくない火花だった。
苛烈に突っ込んだシロがそのままの勢いで跳ね返され、中程から折れたハサミが宙を舞う。くるくると回る刃が壁に刺さると、コガネムシの足下にシロが落ちた。
「万策尽きたのかい?」
高笑いを上げ、コガネムシはシロの頭をドリブルする。加えて左右の前脚が大縄のように
シロの頭が繰り返し地面を転がり、髑髏の仮面を砂
自分はこんなところで何をやっているのか……!?
木製のバイクの後ろで、タニアは唇を噛み締める。
こうして安全地帯でじっとしていることが、歯痒くて仕方ない。
心の中で「頑張って」を連呼するのも、手に汗を握るのも、もうウンザリだ。これ以上、
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