⑧ウィーアー!
守らなきゃ!
突発的にこみ上げてきた使命感が、タニアの身体を押し出す。素早く目の前の毛玉を抱えると、タニアはカメのように伏せ、メーちゃんをお腹の下に隠した。
フン! と鼻息を噴き出し、三段腹は勢いよく足を振り下ろす。踏み潰す相手が小動物でもヒトの頭でも、彼にとっては同じことらしい。
三段腹の足裏がタニアの頭上を埋め尽くし、靴底から
殺される!
死の恐怖は
まともに考えるなら、タニアが次に聞くのは頭蓋骨の砕ける音だったのだろう。だが二〇〇㌫
「おい、アレ……」
ヘルメットが呟いた直後、頭上の気配が、頭蓋骨陥没まで後一歩まで迫っていた靴底が止まる。どうやら三段腹はいつでも始末出来る小娘より、指摘された内容を確かめることを優先したらしい。
一体何があった……!?
タニアは勇気を振り絞り、隙あらばカメの体勢に戻ろうとする顔を上げていく。物騒に青筋を浮かべていたはずの三段腹が、怯えた表情で地平線を眺めていた。
凶悪な〈
天を
いや、三段腹が凝視するのは、盛大に噴き上がる砂煙。
そして、砂漠の奥から道路に突っ込んでくる船影だ。
オレンジのボディに白いストライプの入った警備船が、爆炎のように白煙を噴き出している。
「ヤベぇ! サツだ!」
よほど慌てたのか、三段腹とヘルメットは声をハモらせ、そそくさとタニアの前から走り去る。頻繁に警備船の現在位置を
「畜生! いつもいつも邪魔しやがって!」
思い思いに捨て台詞を吐き、腰の引けた〈
「今さらサツが何だってんだ! 俺たちにはこの力があるじゃねぇか!」
逃げ腰の仲間を叱咤し、唯一路上に残ったモグラが警備船を睨む。両腕を振り上げた戦闘態勢は、バタフライに瓜二つだ。
「バカ野郎! サツなんか
ヤン
警告を受けたモグラは苦々しげに舌を打ち、道路の外に飛び込んだ。高々と描かれた曲線が砂の海に潜り込み、象牙色の
巨体が地中を掘り進んでいるのか、
ヤン
激しく巻き上げられた砂塵が白煙と絡み合い、周囲一帯を煙幕のように曇らせていく。元通り視界が晴れると、ヤン船の姿はすっかり消え去っていた。
標的を失った警備船は道路の中央に急停止し、船底の水面から
「大丈夫ですか!?」
けたたましく呼び掛け、隊員たちはタニアとオープンシップに駆け寄る。
「わ、私はいい! いいですから、あっちを……!」
指差しながら懸命に訴え掛け、タニアはモグラに打ちのめされたシロを見る。
直後、タニアは叫んだ時以上に口を開き、声と共に出た舌をしまうのを忘れた。細かく震える手を顔に運び、自然と見開いた目を何度も擦る。恐怖のせいで狂ったとしか思えない。
肘鉄を
入院どころか集中治療室に直行してもおかしくない。
そのはずなのに、シロは倒れるどころかふらつくこともなく、しっかりと自分の足で立っている。まっすぐに空を
座り込む女性や大の字のアルハンブラには、〈
後回しにされて当然だ。
こと表情だけに焦点を絞るなら、今のシロより秒殺劇を披露したボクサーのほうがまだ消耗して見える。他に目立つ被害者がいたせいで、胸や口元の血も見逃されてしまったのだろう。
見た目通りさして痛みを感じていないのか、シロは傷の手当てを訴えるでもなく、路肩に向かう。ゆっくりしゃがむと、シロは砂まみれになった
シロの手元から薄い砂煙が流れ去り、軽蔑と悲しみを同居させた眼差しが髑髏の装飾と見つめ合う。夏にしては肌寒い風が吹くと、薄く砂を
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