③愛をとりもどせ!!
「……あれ、何だろ?」
まばらな緑で気を紛らわせながら、五分くらい進んだだろうか。シロとボロ船、そして走馬燈しか見えなかった道路上に、第四、第五の物体が姿を現す。
手の平で隠せるくらいの場所に停まっているのは、二台の船。
二人乗りのオープンシップに、ド紫のヤン
「あれは……」
にわかに表情を険しくしたシロは、足を止め、そろそろと手を上げる。普通ではない雰囲気を感じ取ったのか、先行していたボロ船がヤルダンの
タニアは小走りでシロに駆け寄り、二台の船に目を凝らしていく。
「……事故かな?」
タニアの推察が正しいことを物語るように、動力炉のあるオープンシップの尻が細く黒煙を棚引かせている。船底に広がる水面は、
エアバッグを枕にした男性の横で、頭を抱えた女性が肩を震わせている。ひび割れたスピードメーターの横では、救難信号の発信を伝えるランプが赤い光を放っていた。
「へっへっへ……」
ヤン
ぎぎ……っと
身体を低くして!
慌ただしいジェスチャーで訴え掛け、シロはタニアをヤルダンの
一体、何を警戒しているのか?
自問している内にヤン
リベットだらけの革ジャンに、破れたジーパン――ガラがいいとは言えない服装もさることながら、金属バットにスコップ、鉄パイプと思い思いの凶器を
「ま、まさか、あれって……」
「……〈
男たちを凝視し、シロは小さく呟く。タニアに答えたと言うより、反射的に頭の中身を漏らしてしまったのかも知れない。
「ど、どうしよう!? ねえ、どうしよう!?」
タニアは闇雲に唾を吹き散らし、視線を右隣のシロ、ヤン
「シロっ! ねぇ、どうすればいいの!?」
一心不乱にシロの袖を引っ張っても、打開策は落ちない。ただただシロの肩が激しく揺れ、袖口がラッパのように広がっていく。
「よぉ、ねぇちゃん」
薄ら笑いを浮かべたモヒカンが、オープンシップの
乱暴に肩を掴まれた女性は、
女性が尻餅を着いた拍子にミニスカートの裾が乱れ、白い太ももを
「少し遊ぼうぜぇ……!」
女性を包囲した暴漢たちが、じわじわと獲物に迫っていく。獰猛な六つの影が女性を呑み込むと、シロの口から苦しげな息が漏れ始めた。呼吸音に混じって小さく聞こえるのは、押し殺した
早く、早く何とかしないと……!
焦りに駆られたタニアは、一層激しくシロを揺さ振る。
瞬間、シロの額から垂れたのは、大粒の汗。
砂漠を走っている最中には、うっすらとも浮かべていなかった代物だ。
〈
「ぅ……うぅ……!」
シロは杭のように動かなくなった両足を睨み付け、懸命に膝を揺する。
だが安全地帯に根を張った靴に、進み出す気配はない。
「ぅ……っ……!」
シロは右手を左手に
だが何度繰り返しても、目的の形は作れない。
拳の
顔面を蒼白にしたシロを
確かに荷下ろし中のシロは、軽々と米袋を持ち上げる。
ランニング中のシロは、翼の生えたような足取りで重い
でもシロは女の子で、〈
一番小柄なスキンヘッドでも、背伸びしたシロを見下ろす体格。
私が、私がしっかりしなきゃ!
自分を鼓舞し、タニアは情けなく歪む顔を
両頬に苛烈な熱さが広がり、ぐちゃぐちゃだった頭が少しだけ晴れていく。
「〈
考え
一息にステップの三段目に跳び乗り、砂に磨かれたノブを握る。途端、塗装の剥げたドアが内側に開き、今まで様子を
無言でタニアの横を通り過ぎたアルハンブラは、甲板に常備しているスコップを握り締め、〈
「な、何してんだよ、おっちゃん!?」
「……あの娘っこを助ける」
今聞いたのは、本当に六年間一緒に生活してきた人の声だったのか? 自分に問い掛けると、現在進行形の――そう、加工など不可能な現実に、第三者のアフレコを疑ってしまう。
「無茶だよ! 相手は犯罪者なんだよ!? 〈
「〈
緊張からか
「ターニャたちはこっから離れてえ、〈
「何で!? 何で見ず知らずの奴のために、おっちゃんが危ない目に遭わなきゃいけないの!? ここに隠れてようよお!」
オープンシップの二人が何をされたところで、ミューラー家に被害はない。でも食卓の箸が一膳減れば、空席に
相手は〈
ここで〈
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