②STAND PROUD
特訓の名を借りた虐待は、早朝四時に火蓋を切った。
〈
〈ロプノール〉から〈ホータン〉へ向かうには、一度、超空間の外に出る必要がある。砂漠の道路を使って北方の〈トルファン〉へ行き、ボロ船ごと超空間と超空間を結ぶ〈
砂の大海を貫く道は、通行しやすいように鋪装されている。また地下に併設された〈
分厚く道を包み込むトンネルは、強い日差しを
事実、ビニール袋のほっかむりで砂漠を
「砂漠の中の舗道」などと言ったら、目立ちレベル(?)は
そこで砂漠の道路には、〈
〈
「カミサマの信じた嘘は現実になる」と言う
何しろ信号機さえ見たことのない連中だ。陸上を走る船を目撃したとしても、暑さに頭がやられたとしか思わない。万が一
用心深い〈
代表例が五㍍程度の間隔で設置された、〈
ガラスを爪で引っ掻く音、ビルの屋上から地面を見下ろす、台所で黒い悪魔と遭遇etcetc――〈
余談だが、人間が心霊スポット扱いしている場所には、十中八九〈
メーちゃんの飼い主と約束した時間は午後一時――。
七時くらいまでは寝ていても大丈夫――。
綿密に計算し、枕とベロチューしていたタニアは、明け方も明け方、まだ新聞配達員も爆睡している時間に容赦なく叩き起こされた。記憶を
〈
出発前、マーシャは夢うつつのタニアを掴まえ、繰り返し言い聞かせた。
だが本音を言わせてもらえば、警戒すべきは噂でしか遭わない悪党などではない。そもそも近頃は度重なる事件を受け、
そう、真に警戒すべきは、何の疑いもなく一一歳の少女の腰に
Sさんのトレーニング観は、タイツとマフラーが全盛だった頃の特撮で止まっている。
両手両足に一〇㌔の
加えてSさんが厄介なのは、実力を兼ね備えている点だ。
タニアは何度か、Sさんの無茶ぶりにこう反撃したことがある。
お前がやってみせろ!
Sさんのお返事は、チャラ男のようにかる~い「は~い」。三〇〇回の腕立てを要求された際も、彼女は
無論、強がっているわけではない。実際に彼女は、軍隊も真っ青な超スピードで自らの
屁理屈しか取り柄のない現代っ子は、唯一の希望を、「自分に出来ないことを他人にさせるな!」を涙ながらに呑み込む。続いて八割方完成していたドヤ顔を引っ込め、泣く泣く両手を床に着いた。
やりきる以外、Sさんの拷問から逃れる
悲しいことにSさんは、他人の苦しみや痛みが判らない人だ。
実際、限度を超えた腕立て伏せにタニアの二の腕が
卒倒したところでマラソン大会が中止にならないのは、お花畑を見た時に証明済みだ。
タニアが一〇〇回倒れたなら、Sさんは一〇〇回水をぶっかける。そして現代社会的無関心を体現したアルハンブラが、特訓の名を借りた暴行を止めることはない。哀れなタニアは〈
せめて喉元に掛かった鎌がこれ以上喉に食い込まないように、
「砂漠」と耳にしたら、
ピンクの
タマリスクはギョリュウ科の
一方、最大二〇㍍近くまで成長する
また
灼熱地獄のトルファンは、一方でブドウの名産地としても知られている。年間降雨量が二〇㍉にも満たない風土が、乾燥を好むそれに適しているそうだ。
地表から棚引く
降雨に恵まれない土地へ水を引くのに使われているのが、「カレーズ」と呼ばれる地下水路だ。そしてトルファンのそれには、
そもそもトルファンはロプ
地下にあるカレーズで運べば、強烈な日差しに水を蒸発させられる心配がない。難点と言えば、何かと手間が掛かることだろうか。地下に水路を掘るのに時間を要するのは
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