これから
これから
完璧な人生を歩む人などこの世にはいない。
特に終戦後、駆け足で発展をしてきた日本人は何かを置き去りにして生きてきたとはよく聞く話です。デジタルには追いつかない人の心は何処まで文明が進化しようとアナログである事には変わりはない。結局めまぐるしい進化で心に負荷がかかり、どんな人生でも大なり小なり問題を抱えて生きる人が増えてきたのではないか?特に機能しなくなった家庭に育った者が犯罪に走ってしまったり、被害者になったりといった事件も最近では特に目立つようになってしまいましたから。
もしかしたら、世の中で忌み嫌われる近親姦という特別な問題を抱えた私だけでなく、一般的な悩みだとしても、それぞれの人の悩みのキャパシティには個人差があり、どんな人も一生に一度くらいは人生半ばで立ち止まり、振り返り、心を整えると言う事は必要なのかもしれない。過去を置き去りにしたまま、それを忘れる為にがむしゃらに前を向こうとしてもくたびれるばかりか、一つの歯車の違いから狂気の世界で終末を迎える事もあるのかもしれない。人間というものはそれだけ愚かな生きものなのだと思います。憎しみを舐め尽くせ!と岐阜の教授が教えてくれたのは、憎しみを肯定するのではなく、心を整える為だったのだと身を持って感じました。
私は自分の心の闇を払拭する事は出来たのだろうか?と、自身にに問うてみると、それも又、完全ではありません。しかし、私はその振り払う事の出来なかった闇の一部を無視した訳ではない。最後の一つまで、一旦は拾い上げ、考えて、悩んで、自分の歴史と照らし合わせた時、私の意志で手放し、そこに意味を持たせた。決して楽な事ではなかったけれど、私は受容したのです。
母の遺言の本当の意味を考えてみました。IQが高く、本当なら何かの才能を発揮出来たかもしれない母が、自堕落に生き、DVに悩み、幼い娘に希望を託す事しか出来なくなり、不幸な出来事を招き入れ、この世を去らねばならなくなった。母が本当に言いたかったのは、「目的を持ちなさい。」と言う事だったのではないか?そんな気がしてきました。
この時、もうすぐ五十代半ばを迎える私に一体何が出来るのか?考えてみました。朝の介護施設の仕事に加えて午後からも介護施設で働き始めました。午後の職場のほうはかれこれ3軒目ですが、ようやく落ち着いて働ける場所に巡り合えましたが、いままで様々なご老人をみていて思うのは、この場所は関わる人によってのみならず、入所しているご老人の心模様にもよりますが、城にもなるし檻にもなる。勿論檻になるなどあってはならない事ですし、滅多にないことだと思いますが、どんな仕事でもそうですが、働く人の慣れみたいなもの。。こうしておけば良いといったような驕りから来るのでしょうが、さばくように働く人も居るにはいます。又、そうすることによって感情移入しないように自己防衛するのがこれまた人間らしい事なのかもしれません。食事提供の仕事からはじまって、介護職の資格を取ろうと思っていましたが、無資格での法律ギリギリの介助の仕事もしましたが、私は慣れたくないな~というのが本当の気持ちです。
入所されているご家族も様々で表敬訪問のような方も居れば、熱心な方もいます。ある時、外で石段に腰かけておられるご家族さんに出くわした。。。その方の表情を見ていて、父と重なる。。
母の最期の看病の合間にベンチに腰掛けていた時の父の表情。あの時の父も心身疲弊していた。。。エネルギーはとっくの昔に使い切っているのにそれでも看病出来ていたのは、きっと魂を削っていたのだなと私は過去の記憶に飛んだ。。。
歪んでしまったのは私だけではない。父も母も、皆悪気なく、まっすぐ生きようとしても歪みが摩擦を生じさせていただけだったのかもしれない。。。。
認知症は患者にとって神様からの贈り物なんて聞いたことがあるけれど、あれは、どうだか。。完全に忘れていると思える方だって、ある日突然瞬間的に正気に戻ろうとする時もある。正気と忘却の狭間で苦しんでいる姿。。そんな姿を見ていると私はたまらなくなる。他人だから感情移入しなくて済むのではない。身内に出来ないから、他人に感情移入してしまう事だってあるのだ。
法律は良いも悪いも親子関係を解消してはくれません。私は福祉課に父の後見人にはならないと伝えています。今はまだ父に人権があるようですが、強制的に後見人を立てねばならなくなった時に、父の持ち物で余るようであれば、区に寄付をする。余らなければ足りるように福祉課に動いてもらうようにお願いしています。区の方も事情が事情だからと了承してくれています。これで父の行き場が無くなるという事はなくなった訳です。しかし、医療にかかわる事の決定権、拘束にかかわる事等の決定権が私に残るそうです。
最近の父の様子は、やはりトラブルメーカーのようで、近隣の訪問ステーションもどんどん変えてきていますので、現在二人のヘルパーさんが根を上げるような事があった場合、愈々どこかの施設へ入るだろうと会議されたらしいです。健常な頃、外と家庭と性格を使い分けていた父が、今は外に向けても牙をむくようになったのだから仕方のないことです。
父には暫く浮世を楽しんだら、早く忘れなさい。何もかも忘れて楽になりなさい。と願っています。父が完全に枯れて忘却の人となった時、どこかの施設で尊厳ある死を迎えられるようどんな扱いを受けているか?どんな薬を飲まされているか?私は身内の監視の目という形で最低限は父を見捨てはしないと心に決めています。そのように思えるようになったのは、過去との対峙をしてみて、父や母に対して感謝しなくてはならない事が無い訳ではないと言う事に気づいたからです。
一生に抱えきれないほどの憎しみや悲しみ恨み等負の感情を背負いましたが、今はその大きな荷物の大半を降ろす事が出来た。
そもそも、何も考えなくても、色んな人からの情けのおすそ分けを貰っていたとはいえ、脳天気に五十歳まで生きられたのは母の性格のおかげもあります。そしてこの五年程の間、ストイックに自分を追い込み、考え、立ち直る事が出来たのは、父の性格のおかげもあります。私はまぎれもなく、あの二人の子供であり、あの二人の子供だから生きてこられたと知ったのだから。。
私の仕事は相変わらず介護施設での食事提供のパートでした。ある意味、底辺に近い仕事ですが、それでもこの仕事にやりがいを感じておりました。朝は元気な方が多い高級老人ホーム。午後からは介助が必要な方のホーム。
特に朝は比較的裕福な環境にあるご老人たちが、終の棲家として覚悟を持って入所されているのです。みなさんそれなりの立場をお持ちだった事でしょう。しかし、お客様風を吹かせる事等無く、私たちに接してくださいます。働いてみて、どこか、ステージと似ているような気がした。食事の準備の時間は役作り、お客様がホールに来られる時が幕開け、スタートのセリフは、「おはようございます。お待たせいたしました。」ここからお客様が帰られる一時間半はステージに居るのと同じ。見られていると言う事を意識して、笑顔で元気に接するのです。仕事仲間同士の問題もあるにはあっても、お客様に接する時間は大切にしなければならない。且て恩師から教わった事、明るさや元気、これを食事と共に提供しているのだという意識が、私にとっての喜びとなっていったのです。私は介護について学んでおくことは大事かもしれない。。資格だけは取っておこうかと思い始めました。。。
平成二十八年9月、資格取得に向けてデイサービスの施設でフルタイムの仕事にシフトしました。10月からその施設のトライアルで仕事をしながら二か月学校にも通います。まだ、下っ端ですが、毎日いろんな発見があり、やりがいのようなものをもっと感じられるようになりました。向上心を持って生きるという事。。
年齢的に考えてみて、環境が大きく変化することはないかもしれない。しかし、私の心の中ではドラスティックな変化が始まりだしている。
この仕事に導きだしてくれたのは私の父です。
いつの日か父に「ありがとう。」と言える事がもう一つ増えるようにこれからを生き抜きます。
たやすく言えば、「親に感謝しなくてはならないという事。。」この概念には長きにわたり閉口し、反発し、憎み、恨み、途方もない遠回りをして、結局はも戻るところへ戻ってきてみると少しは生きやすくなったという事でしょうか。。
先日正彦さんから言われた。
僕はこれから歳をとるだけだ。君は僕より十五も若い。もし、誰かいい人が居たら嫁いでいいんだよ。。なんて。。。
私にとって男性としてパートナーになってくれる人はこの地球上の何処を探しても居ない事を私は知っている。私が男として見れるのは、幻しか居なかったのだし、それも、もう手放している。。。
私は言った。。「私に太刀打ちできる男なんて、この世にはいないわよ。」って。。
心の中で思った。。こんなに。。親のように。。私を守ってくれた人は正彦さんだけだった。親孝行は正彦さんにこそしないといけない。
今私は人間にとって何が幸せなのかを学び始めている。あれだけ苦しんだ悪夢や、金縛り、頭痛とも無縁だ。。犬たちはシニア世代に入ったが、健康で私の手元に居て、私がこの子たちを幸せにしたという自負もある。時々、渋谷の昭和の香りがただよう横丁で飲んで、ばか騒ぎをして、猥談だってへっちゃらだ。。
恩師とは良くそこで酒を飲み、八十歳になった恩師から私はまだパワーを貰っている。あの恩師のエネルギーは何処からくるものなのか?もしかしたら恩師は地球の底のマグマからエネルギーを吸い出している大魔王さまなのかもしれない。。
「麻衣子は綺麗だった。」「どうしちゃったんだよ。デカイじゃないか~こんなに太っちゃって」。。。と恩師。。
「放っといてくれ!好きで太ってるんだ」と私は言う。。そうしてケラケラ笑える私の人生はやっと幸せに辿りついたのかもしれない。。。。
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