歪んだ座標軸~近親姦サバイバー~

紫ぐれ 麻衣

第一章 プロローグ

この被害のイメージ



皆さんは「近親姦」と言えばどんなイメージを持つのだろうか?厭らしい。気持ち悪い。そういった想像をする人も多いのかもしれない。試しに「近親姦」とキーワードを入れてくぐってみると、「近親相姦」と書かれているのが目立ってくる。被害的な情報の中にアダルトサイト的な情報もある。今度は「近親相姦」でくぐってみるとアダルトサイトばかりが目立つ。

「近親姦」世間の人はこの実態を知らない。


本来、近親相姦だろうが、近親姦だろうが私はこだわらなかったが私と同じ被害者達に出会ってからこだわる様になった。いつの間にか私は「相」の字は入れないようになったのだ。苦しかった過去を思い出し、仲間たちの悲鳴を聞いているうちに「お互いに」と言う事、「相」の字はあり得ないと思ったのだから。

大人と子供。。。人格形成が出来ていない子供に対して、性虐待するという事は、どれだけ卑劣なのか?親と子供と言う関係性だけで考えた場合、本来、家庭というものは檻ではなく、子供にとって安心できる場所でなければならない。それなのに親が加害する訳です。子供に何か被害が及んだ場合、子供は訴える権利を持っていません。その代り保護者が訴える事が出来るのです。しかし、保護者が自分を訴える訳は無い。子供が訴えられるのは二十歳過ぎてからです。時効だけが進んでいく。そして二十歳になる頃、子供の心はボロボロになってしまいます。訴えるどころではない。息吸ってそこに存在している事だけで精一杯。中には脱落する者も居る。そして傷つく心のうちに時効を迎え、気づけば、紆余曲折な感情の中、自分を守ってくれる理想の親という幻を追い続けます。そして漆黒の闇の中で懊悩するばかりなのです。要するに、狂った親側から見た時、性的な犯罪の中で一番完全犯罪が成立する訳です。


(近年、「監護者わいせつ罪」と「監護者性交等罪」なるものが制定されましたが、誰が監護者の代わりに訴えるのか?という問題は以前の状態とあまりかわりはありません。何故なら父親が加害者の場合、母親が夫に娘を差し出したり見て見ぬふりをする場合も事例としては結構あります。又、差し出すと言うところまで行かずとも、母親に経済力が無い場合、生きていくために娘を犠牲にする場合もあります。家庭という密室で起こる外傷も無い犯罪をどうやって他人が見抜くか?又、心閉ざした子供が自分が声を出す事でそれまでの経済、環境が大幅に変わって来ることに対してのケアはどうなるのか?又、ようやく保護されたとして、数か月で事例が出て移動になる職員、そして規律が厳しい養護施設での団体生活で本当の愛情に飢えて傷つききっている子供の心をどのように回復させるのか?様々なソフト面での改革はまだまだといったところではないでしょうか?刑罰が出来てもまだまだそれで終わりとはいかないようでもあります。)


さて。。昨今、子供に対して体罰による虐待が目立ち、虐待を問題視する傾向になってきましたが、近親姦被害はその虐待の中の一番底の闇に葬られている事を世間はあまりにも知らないのではないかと思う。

この被害と言うものは外傷が無い。見つけにくい被害でもあります。アメリカでは、体罰に寄る幼児虐待が増えれば親族による近親姦被害も比例して増えるという統計がとれているようです。日本では親が子供を殺したり、子供が親及び親族を殺したりという事件が増えてきている中で近親姦被害が増えない訳がないのです。勿論総人口と比べたら少数派である事は否めませんが、この被害は世間の無理解、無知識から二次的被害も受けやすく、又、人格形成する大事な子供時代に心に傷を受けるという事で被害者は生涯に渡って生きにくい十字架を背負う事になるのです。

「近親姦」はアダルトサイトだけのものではない。事の善悪の判断のつかぬ子供が洗脳される事はあっても望んでする訳がないのです。明らかな児童虐待の被害なのです。

近親姦にも色々ある。父親が優しく、母親がサディスティックな場合、子供は父親に懐きます。その父親が幼児趣味で娘に手を付ける場合、事の善悪を理解できない幼児はお母さんは怖い人、お父さんは優しくて気持ちの良い事をする人。と言う関係性になります。

父親が幼児趣味及びDVで支配し、母親が経済面から子供を差し出す場合もあります。父親は幼児趣味ではないが、DVで先に子供に精神的檻を作らせ加害におよぶ場合もあります。

両親が性的異常者で夫婦の性生活に参加させる場合もある。

「父娘」「父息子」「母息子」「母娘」兄妹や伯父、祖父等様々な被害ケースがあり、被害に至るプロセスの違いにより、子供がどうやって心を回復させるか?その回復法も決して同じではありません。そして、完全にスッキリ心が回復したという被害者には私は未だお目にかかっていない。そして私も完全ではない。私と同世代の被害者は殆ど自助ミーティングにはやってきません。精神病院に入りっぱなしか?生きるのを断念した人も多いと聞きます。おそらく、私と同世代の人が被害を受けていた当時、今より以上に情報が少なかったからだと思います。中には頑張って生きていても、子供が。孫が。いじめられたらと考えると中々カミングアウトも出来ない様です。しかし、比較的元気に、しかも、五十歳まで治療もせずにある意味世の中に紛れてに生きてこられた私は奇跡でもあり、又、私に子供や孫はいません。五十歳で初めてくぐった心療内科の医師には、あんたは強い。とまで言われ、フラッシュバックしてPTSDと言われただけで、診断名も付かぬ特殊なケースかもしれませんが、心の回復目的で自分に起きた事を文章化しているうちに、まずは、知って貰う事から始めないと、私たちのような被害者はいつまで経っても社会の闇に葬られたままだと思い、ここに私の半世紀を書き記すことにしました。


私達の心の回復法を世間は知らない。

それは運よく生き延びられた場合にのみ、サバイバーになれるという事。。

そして苦しみながら、過去に起きた事。。全部を拾い上げ、

意味づけを変えていく事。。。

そうしないと傷ついた人格は変わらない。

放置すればした分、自分に跳ね返ってくる。。


「近親姦」。。たった三文字だけれど、

子供にとって、それは地獄絵図なのです。


トラウマは消えても何かで蘇る。

生涯追いかけてきます。

何故なら、加害者が「親」(親族)だからです。


もしかしたらあなたの街で今夜安心して眠る事の出来ない平成の被害者が息を潜めて苦しんでいるのかもしれない。多くの人にこの問題を考えるキッカケになってほしいと切に願います。


尚、この物語は、法律・法令に違反する行為を容認・推奨するものではありません。又、自殺を誘発、助長、ほう助するものでもありません。内容上どうしても描写せねばならず、R15指定とさせていただきます。


ただ、皮肉ですね。社会は健全な生活を送る子供たちには目に触れさせないように書籍などには指定を指示し、子供を守っている。しかし、目に触れさせられないような陰惨な実体験をしてきた子供たちの事はどう守ってくれたのでしょうか?

そしてこれからの社会は、実体験でもがき苦しむ子供たちをどう守ってくれるのでしょうか?

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