第5話 鳴り響くベル

「先生!避難訓練っていつ始まるんですか?」


「さあな。先生も詳しい時間は聞いてないからな」


 一人の生徒の質問に本を読んでいた先生が答える。

 今は数学の授業中であるのだが、今日は三限目の授業中に避難訓練が行われるらしく、数学の授業は自習になっていた。

 自習と言っても、ほとんどの生徒は隣の人と話していたり、本を読んでいたりしているだけなのだが。秋斗も本を読んでいる一人だった。隣の雨宮は後ろの席の女子と話している。




ファンファンファンファン……




 教室に設置されているスピーカーから、突然サイレンが鳴り出した。避難訓練の始まりだろう。




……ジリリリリリリ




 すると次は廊下の方から違う音が鳴り響いてきた。音からすると非常ベルの音だと思われる。


「ん?何だ?」


 サイレンの音に疑問を持つ先生。


 スピーカーからのサイレン音が鳴り終わると、


『地震です。落ち着いて身を守って下さい』


という放送が流れた。その間にも非常ベルは鳴り続けている。


「ほら、お前たち机の下に隠れろ」


 先生の指示で机の下に隠れる生徒達。


 そして地震の揺れの効果音がしばらく流れた後、


『訓練、訓練、訓練。ただ今地震が発生しました。現在、校舎内の安全確認をしています。引き続き身を守る行動をとりなさい』


と続き、またしばらく経った後、


『避難訓練の安全が確認できました。先生の指示に従って校庭に避難しなさい』


という放送が流れ、スピーカーが切られる音が聞こえた。どうやら、今のが最後の放送だったらしい。


「さあて、廊下に出て二列で並べ」


 先生の指示で生徒達は廊下に出て行き、出席順で二列で並び始めた。


 これから外で長い話を聞くと思うと面倒くさいな。教室にでも隠れていようか。


 そんなことを考えて教室を見ていると後ろの方(D組の教室がある方)から、大勢の笑い声が聞こえてきた。


 天晴のクラスか?何がそんなに可笑しいのか。


 何があったのか疑問に思っていると前のクラスが動き出したので、その疑問も教室に隠れていようかという考えも無くなってしまった。




ジリリリリリリ……




 生徒達が校庭に移動する中、非常ベルは止む事なく、ずっと鳴り響いたままだった。


 それから校庭に出た後、校長の長い話を聞き、避難訓練は幕を下ろした。




***




 そして放課後、いつも通りの写真部の部室で、


「そういえば、みんな中間テストの結果どうだった?」


と全員が揃うや否や天晴が聞いてきた。


「成績上位者のお前にそれを聞かれると、答えたくなくなるんだが」


「そんな事言わないで教えてよ。良かったか悪かっただけでもいいしさ。じゃないと勝手に調べちゃうよ?」


 その言葉に不快な顔をする秋斗。


「それをやったら、お前の妹に言い付けるからな」


 先程まで晴れやかだった天晴の顔がどんどん曇っていった。


「ごめん、ごめん。冗談だよ、冗談。あはははは……」


 その二人の遣り取りに疑問を持ち、顔を見合わせる雨宮と黒野。


「天海くんって妹がいるの?」


「ああ。兄と姉と妹がいるぞ」


 雨宮の質問に秋斗が答える。


「四兄妹」


「へー。でもなんで桐谷が知ってるの?」


 黒野が呟き、雨宮が秋斗に聞く。


「前に天晴の家に行った事があるんだ。その時に聞いた」


「聞いた?会ってはいないの?」


「妹には会ったが兄と姉はいなかったからな」


「そうなんだ。ねぇねぇ、天海くんの妹さんってどんな子だったの?」


 興味津々という顔を近づけて聞いてくる雨宮。


「天晴とは似ても似つかぬ良い子だよ。真面目で優しくて、他人の事をよく考えられる」


「ふーん。一度会って見たいな」


「あと一年も待てば嫌でも会えると思うぞ」


「え?それってどういう意味?」


「そろそろ話を戻さない。ね?」


 雨宮の言葉を遮って天晴が話を戻した。


 さて、中間テストの結果だったか。


 天晴が初めに話を振った内容を思い出す秋斗。


「俺は良くもなく、悪くもなかった」


「つまり平均点!」


「私も」


「私も、普通だったよ。……普通」


 なぜか目を逸らして答える雨宮。

 その態度を不審に思い、全員の視線が集まる。


 これは平均点以下か赤点だったな。


「そ、それより、天海くんはどうだったの?」


 視線から逃れるために天晴に話を移す雨宮。


「俺?俺はーー」


「ーー全部九十点以上だったんだろう」


と天晴の言葉を先に取る。

 その言葉に「嘘!?」と言って驚く雨宮。黒野も反応は薄いが驚いている様子だった。


「先に言葉を取らないでよアッキー」


「お前に自信満々に言わせるのは癪だからな」


「でもどうやったら、そんな点数を取れるの?」


「それは、先生達に媚び売って売って売りまくった結果だよ」


「本当?!」


「嘘だよ」


とあっさり言う天晴に、「なーんだ」と言ってがっかりする雨宮。

 

 そんなのに期待するんじゃない。


と秋斗は心の中で思った。


「そういえば、今日の避難訓練での話なんだけどさ」


 すると天晴が話を変えてきた。


「避難訓練のサイレンが鳴った後に、非常ベルが鳴り出したよね」


「うん。でもあれって、避難訓練での使用だったんじゃないの?」


「それが違かったんだよ。今日の避難訓練は、あくまで地震が起こった場合を想定していただけで、火事までは想定していなかったんだって」


 だから先生も不審がっていたのか。


 非常ベルが鳴り出した時の事を思い出し、あの時の先生の態度に納得する秋斗。


「で、それがなんだって言うんだ?」


「それがさ、非常ベルが鳴ってたのって俺達の教室がある二階だけなんだけど。あれって何で鳴り出したのか分かってないらしいんだ」


「へー」


 天晴の話に興味が惹かれる雨宮。


 ……やばいな。


「そんなの、ただの誤作動かもしれないだろう」


 面倒な事が起こる前に、話を手短に終わらせようとする秋斗。しかし、

 

「確かに誤作動って可能性も無きにしも非ずだけど。その線は薄いと思うんだ」


と秋斗の出した答えを否定する天晴。


「何でだ?」


「実はこの学校の非常ベルは、最近点検されたばかりなんだ。だから非常ベルの誤作動はないと思う。それに、非常ベルを鳴らすボタンが凹んでいたしね」


「そんなのいつ確認したの?」


 雨宮が天晴に聞いてみる。


「トイレ前で盛大に転んだ時」


 その問いに何故か黒野が答えた。


「えっ!?もしかして見てたの?黒野さん?」


「バッチリ」


「それっていつの時だ?」


「避難訓練で廊下に出た時」


「もしかして、あの時聞こえてきた笑い声って……」


「天晴が盛大に転んで、それを見た周りが笑ってたのか」


 それに「あははは、お恥ずかしい」と言って、天晴はつくり笑いをしていた。


「あれは下が濡れてて、滑っちゃったんだよ。……それより話を戻すよ」


 滑った理由を説明して、脱線した話を戻しにかかる天晴。


 今ので二度目だから三度目があるかもしれないな。


とつまらない事を秋斗が考える。


「ボタンが凹んでたって事は、誰かが悪戯に押しただけだろう。なんの不思議もない」


「それがそうでもないんだ」


 ニヤリ顔で言ってくる天晴。


「非常ベルってC組とD組の中間、トイレの近くに設置されているよね。俺はD組だから聞こえてたんだけど。非常ベルが鳴り出した後、すぐに廊下から『誰かいるのか!?』って、でかい声が聞こえてきたんだ」

「それでこっそりドアを開けて廊下を見てみると、国語教師の眞鍋先生が男子トイレの中から出てきたんだよ。多分男子トイレに誰かいるのか確認していたんだね。誰もいなかったみたいだけど」

「すると俺の教室にいた英語教師の鈴原先生が廊下に出て行ったんだ。そして眞鍋先生と何か話すと鈴原先生だけがが女子トイレに入って行ったんだよ。まあ、眞鍋先生が女子トイレに入れないからだと思うけど」

「しばらくして鈴原先生が女子トイレから出てくると眞鍋先生の方を見て首を振ったんだ。女子トイレにも誰もいなかったみたい。その後、眞鍋先生と鈴原先生が少し話し合った後に眞鍋先生はC組に鈴原先生は俺達の教室のD組に戻っていったんだ」

「これが、非常ベルが鳴ったすぐ後の事だよ」


 そして、天晴の長い話がやっと終わった。


「ねぇ、不思議だと思わない?」


 長話を終えた天晴が聞いてくる。

 それに対して秋斗は、

 

「別に」


と興味なさそうに言い、本を読み始めた。


「あらら、アッキーにはお気に召さなかったか。二人はどうだった?」


「うーん、でもそれって非常ベルを押した人が教室に戻ったって事はないの?」


 雨宮が天晴に聞く。


「それはないと思うよ」


「何で?」


「時間の問題かな。まず非常ベルを押して教室に戻った人がいたとして、その人はC組とD組ではないよね」


「……確かに、C組だったら眞鍋先生が気づいてるはずだし、D組だったら天海くんが気付くしね」


 少し考えた後に答えに行き着く雨宮。


「そう。そしてそれ以外の教室に戻るとしたら、C組かD組を絶対に通らないといけない。でも非常ベルを押した後、走って教室に戻ったとしても……」


「眞鍋先生に見つかっちゃう」


 天晴の言葉を黒野が続いて言う。


「そうそう。ばれないよう教室に戻るだけの時間がないんだよ。だから、非常ベルを押して教室に戻った人はいないって事」


と天晴は言いきった。


「それならどうして非常ベルが鳴ったんだろう?」


「それが今回の謎なんだよ」


 雨宮の呟きに嬉しそうに言う天晴。自分の話に興味を持った事がそんなに嬉しいのか。

 すると雨宮が椅子から立ち上がると秋斗の方まで来た。


「ねぇねぇ、桐谷も本なんて読んでないで考えようよ」


 そう言って、秋斗の肩を揺らしてくる。視界が揺れる揺れる。


 あー、やっぱり来た。


「めんどくさい」


と一言だけ発する秋斗。


「ねぇねぇねぇー」


「少しは自分で考えてみたらどうだ。何でもかんでも他人に頼ると頭が悪い女だと見られるぞ」


 その言葉に「うっ」という声を漏らして、肩を揺らすのを止める雨宮。


「冗句だ。仕様がないな」


とため息を吐いて、秋斗は本を閉じた。


「アッキーは雨宮さんに甘いんだね」


 雨宮が席に戻ると耳元で天晴が言ってきた。


「甘いんじゃない。ただ、雨宮の場合拒絶するより承諾した方が楽なんだよ」


「それなら、なんで初めから承諾しないんだい?」


「それは、……なんか癪だからだ」


「ふーん。まあ、いいけどね」


 いいなら聞いてくるな。


 天晴の言いように何故か腹が立つ秋斗だが、今はどうでもいいので流す事にした。


「桐谷は天海くんの話聞いてた?」


「ああ、大体な」


「本を読むふりして、盗み聞きなんてよろしくないな。アッキー」


「どうして非常ベルが鳴ったかだったな」


 天晴をさらりと無視する秋斗。


「あら、無視された」


「うん。それが今回の謎なんだよ」


「違うだろ」


「違う?何が?」


「初めに天晴が言っただろう。非常ベルの押しボタンが凹んでいたって。ということは今回の謎は誰が非常ベルを鳴らしたかだろ」


「「あっ」」


 秋斗の言葉に雨宮と黒野は今頃気付いたようだ。


 なぜ話しを聞いてたお前らがそこに気付かん。


と秋斗は思った。


「それでそれで、アッキーは誰が犯人なのか分かったかい?」


「まだだ。そういうお前は、誰がやったのか見当を付けてるんじゃないのか」


「いやー、分かんないな。俺にはお手上げだよ」


と言って手を上げて首を振る天晴。こんな話を持ってきたのだから、天晴は天晴で何かには気付いていはいるだろうが深く追求しない事にした。


 追求しても適当に返してくるだろうしな。


「はい!」


 突然、手を上げて大きな声をだす雨宮。


「はい。雨宮さん」


 それに教師のような受け答えをする天晴。


「犯人は眞鍋先生だと思います」


「その心は?」


「眞鍋先生だったら誰にも見られずに非常ベルを押せたからです」


 確かに雨宮の言う通り眞鍋先生が犯人なら、誰にも見られずに非常ベルを押す事ができ、先生という立場から誰かに疑われるということもない。それに、非常ベルの近くに初めにいたというのも怪しい所だ。

 雨宮がここまで考えていたかは分からないが、意外に盲点を突いてるかもしれない。しかし、


「アッキーはどう思う?雨宮さんの考え」


「却下だな」


「何で?」


「逆に聞くが眞鍋先生は、何故非常ベルを鳴らしたんだ?」


「それは、……押してみたかったからとか」


「仮にも教師だぞ。そんな理由で押すわけがないだろ」


 雨宮の安直な答えに呆れる秋斗。


「生徒に緊迫感を持たせる為……とか」


 次は黒野が小さく手を上げて答えた。


「教師が非常ベルを鳴らす理由としては、そんな所だろうな。しかし、そうだとしてもおかしな所がある」


「おかしな所?」


「非常ベルが鳴ったタイミングだ」


「……タイミング」


「あの時、非常ベルが鳴ったのは避難訓練の放送が流れてすぐだった。もし、黒野が言った理由で眞鍋先生が非常ベルを押すとしたら、普通もっと後に鳴らすだろ。例えば生徒が避難する時とか」


「確かに。非常ベルが鳴った時、緊迫感よりも不自然さを感じたしね」


 秋斗の説明に納得する天晴。


 さあて誰がどんな理由で非常ベルを鳴らしたのか考えますか。



 腕を組み、椅子の背もたれに背中を預ける秋斗。



 鳴らしたのは誰なのか?


 鳴らした理由は何なのか?


 何故あのタイミングで鳴らしたのか?


 鳴らした人物はどこに行ったのか?



「そういえば、前から疑問に思ってたんだけど。何で天海くんの髪は金髪なの?」


と突然天晴の髪について問いかける雨宮。


 人が真面目に考えてるのに他の話をするな。


「高校デビューをしたかったからさ」


「親は反対しなかったの?」


「家は基本自由な家庭だからね。でも、姉貴がそこらへんうるさくて。今は家にいないんだけど、髪を染めた日は隠すのが大変だったよ」


「へー。……って、そんな話をしてる場合じゃないね。それで桐谷は何か分かった?」


 秋斗の方を見て聞く雨宮。

 しかし、秋斗には雨宮の言葉は届いていなかった。何故なら、


 そういうことか。


 今回起こった出来事の謎が解けたからである。



「桐谷。桐谷~」


「おっ、何だ?」


 雨宮の呼びかけにようやく答える秋斗。


「だから、桐谷は何か分かったか聞いたんだけど」


「ああ、それなら……」


「アッキーは何かに気付いたみたいだよ雨宮さん」


「本当に!」


 天晴の言葉を聞き、秋斗の方を見る雨宮。

 一方秋斗は、天晴に言葉を取られ不快な思いをしていた。


 仕返しか?まあいい。


「まあな」


「聞かせて、聞かせて」


と雨宮が話を急かしてくる。


「そう急かすな。そんなに急かすと二倍速で話を聞くことになるぞ」


「えっ、うーん……、でも桐谷が二倍速で話し出そうとしても、二倍速にならなさそう」


「なっ」


 その雨宮の言葉に絶句する秋斗。隣では、天晴がこちらに背を向けて笑いを堪えていた。


「冗句だ。ったく」


 隣を見てみると天晴はまだ笑いを堪えていた。


「笑いすぎだ」


といつまでも笑いを堪えている天晴の頭を秋斗は本の背表紙で殴りつけた。


「痛たたた……。それでアッキー教えてくれよ。事の真相を」


 秋斗に殴られた頭を押さえながら言う天晴。


「まず非常ベルを鳴らしたのは生徒だ。そして鳴らした理由は、悪戯や衝動ではなくただの偶然だ」


「偶然って?どんな偶然があったの?そもそも何で生徒はそこにいたの?」


「その生徒はトイレに行っていたからそこにいたんだろう。そしてトイレに出た瞬間、避難訓練のサイレンが鳴り出した。それに驚いた生徒は、拍子に濡れていた床に足を滑らせ、非常ベルのボタンを押してしまったんだ」


「でもその生徒は何処に行ったんだい?さっきも話した通り、教室に戻る時間はなかったんだよ?」


 先程までのあっけからんな態度とは裏腹に真剣に話を聞いてくる天晴。頭を殴ったのが効いたかな。


「トイレに隠れたんだろう。そこしかない」


「でもトイレは先生が確かめたはずじゃあ」


「ああ、眞鍋先生と鈴原先生が確かめたんだったな。だが、どちらかが生徒を隠していたら。トイレには誰もいなかったと嘘をついていたら。……眞鍋先生は『誰かいるのか!?』と声を上げていたって事は、生徒を見つけようとしていたって事だ。生徒を隠しているようには見えない。ってことはだ」


「生徒を隠したのは……」


「鈴原先生」


 天晴の言葉に雨宮が続けて言った。


「そうだ。鈴原先生はトイレで生徒を見つけて、訳を聞いたんだ。そしてそれを聞き、その生徒を隠すことにして嘘を付いたんだ」


 秋斗の説明が終わり沈黙が流れた。


 何で話し終わった後はいつもこうなんだ。


「そんな事があったんだね」


「本当びっくり!天晴れだよアッキー」


「その上から目線な言い方何とかならないのか?」


「俺のお気に入りの言葉だからね。無理な相談だよ」


 何がお気に入りの言葉だよ。


と秋斗は溜め息をついたのだった。


「そういえば黒野にも天晴と同じで姉がいるんだったな」


 ふとその事を思い出して口に出す秋斗。


「うん」


「音夢のお姉さんも写真部だったんだよね。ならアルバムに写真が残ってるんじゃないの?」


 黒い箱から写真部のアルバムを取り出す雨宮。

 

「ねぇ誰?誰?」


 雨宮は黒野に聞きながら、開いたアルバムを渡した。

 黒野はしばらくページを捲っていき、お姉さんの写真部を探し出した。そして、あるページで手を止めると一枚の写真に写る一人の女子を指差した。


 なっ!?


 秋斗は驚いた。なんと黒野が指差した一人の女子は、前に秋斗がアルバムを見たときに変な気持ちになった女子だ。今でもその女子を見ると懐かしい様な悲しい様な気持ちになる。


 一体なんなんだこの感情は?


「へー、この人が音夢のお姉さんなんだ」


「お姉さんは今何してるの?」


「……もういない」


「いない?海外にでも行っているの?」


 天晴の言葉に黒野は首を振った。


「私が小学生の時に他界したから」


 黒野の言葉に天晴はバツの悪そうな顔をすると、


「ごめん」


と黒野に謝った。


「気にしなくていい。もう慣れたから」


 周りの空気が重くなってしまった。黒野が悪いという訳ではない。誰が悪いという訳ではない。どうせ、いつかは聞くことになった。それが今だっただけの話である。


「そろそろ下校時間になるし、帰ろうか?」


「そうだね」


 鞄を持って立ち上がる天晴と雨宮に続いて、黒野も立ち上がる。


「桐谷帰るよ?」


「あ、ああ」


 雨宮に言われ、遅れて秋斗も立ち上がり部室を後にした。




























 秋斗は疑問に思っていた。


 何故俺は、黒野の姉さんが死んでいるという事を知っていたのだろう。


 謎は深まるばかりであった。

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