第3話 先輩達から後輩達へ

 今日の天気予報は曇りのち雨、曇天の空は今にも雨が降ってきそうである。

 こんな天気の日はいつまでも学校に残ってないで、さっさと家に帰りたいものである。


「じゃあ、これ運んじゃうね!」


「そんなに一気に持っていけるのかよ」


「平気、平気!」


 天晴がそう言うと、ダンボールの箱を3つも持って部屋を出て行った。


「うああっ!」


バタバタバタ


 すると小さな悲鳴とともに盛大な物音が聞こえてきた。


「仕事を増やすなよ……」


 秋斗はため息をつきながら物音がした方に向かった。

 

 秋斗達は今、昔写真部の部室だった部屋、そしてこれからまた写真部の部室になる視聴覚準備室を整理していた。

 なぜ整理することになったかというと、雨宮が昼休みのうちに山本先生に会いに行き、写真部の人数が揃ったことを報告したところ、山本先生に放課後この部屋に集まるように言われたそうだ。

 そして、写真部の四人で来たところ……


「私が写真部の顧問を引き受けた山本さとみだ。科学部と掛け持ちになるがよろしくな。さて、お前達には写真部の部室になるこの視聴覚準備室の整理をしてもらう。ご覧の通り、この部屋は大量のダンボールで物置部屋になっている。そのため、この大量のダンボールを三階の社会科準備室まで運べ、分かったな」


 山本先生はそれだけ言うと最後に「私は科学部の方に顔を出してくる。頑張れよ」と言って、去っていった。

 

 こうして秋斗達は、写真部の部室である視聴覚準備室の整理を行っていた。


「まったく、なんで俺がこんなことを……」


「まあまあ、写真部に入ったんだからしょうがないよ」


「お前もなんで、こんな何もない廊下で転ぶんだよ。転ぶんなら、普通階段とかだろ」


「いやー、めんごめんご」


 落としたダンボールを秋斗が一つ持ち、社会科準備室まで天晴と二人で持って行った。




***




 それからも部室から社会科準備室へとダンボールを運んで行き、一時間かけてようやくほとんどのダンボールを運び終えた。

 椅子に座る秋斗と天晴。


「疲れたー」


「体育以外でこんなに体使うことないからね」


「そういうお前は全然疲れてなさそうだけど」


「そうでもないよ」


 すました顔で言う天晴。


 そんな顔で言われてもな。


 窓の外を見ると、まだ雨は降ってなさそうだ。

 

「山本先生に報告してきたよ」


 雨宮と黒野が部室に戻ってきた。

 二人は部室の整理が終わったことを山本先生に報告しに行っていた。

 

「おかえり。……あれ?黒野さん。何持ってるの?」


 黒野を見てみると黒い箱と赤と黄色の本を持っていた。

 山本先生のところに行く前は持っていなかったものだ。


「……先生から、もらった。写真部にとって、大切なものだって」


「なんであの先生がそんなの持ってるんだ?」


「先生、昔写真部だったんだって」


「そうなの!?」


「うん。僕もさっき聞かされてびっくりしたよ」


 だから科学部と掛け持ちしてまで、写真部の顧問をしてくれたのか。


 黒野が机に黒い箱と茶色の本のようなものを置いた。

 雨宮と黒野は、秋斗と天晴が座っている向かい側に座った。

 本だと思っていたものは、表紙に「album」という文字を見ると本ではなくアルバムのようだ。

 黒い箱は四桁のダイヤル錠で閉じられていて中を見ることはできなさそうだ。


「中には何が入ってるの?」


「分かんない。自分たちで確かめろだって」


「番号は?」


「それも自分たちで考えろだって」


「自分たちで考えろって言われても、ヒントとかないとな」


 雨宮が黒い箱を持ち上げて、側面や裏などを確かめるが特に何もないようだ。

 秋斗はアルバムを手に取り、開いてみた。

 すると見返しに、なぜか一枚だけの写真があった。

 

 この建物、確か教科書に載ってたような……。


 なんの建物かを思い出そうとするが、結局思い出せず次のページを開いた。

 ページをめくっていくと自然や建物、動物などの写真が多くあった。

 半分くらい見たところでアルバムを閉じて、裏表紙を見てみると何か文字が書かれていた。


「何だろう、この文字?」


 いつの間にか後ろにいた雨宮も、裏表紙に書かれている文字に気づいた。

 

「なになに?」


「アルバムの裏に何か文字があるの」


 天晴と黒野もアルバムに目を向ける。

 アルバムの裏表紙には、こんな文字が書かれていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




黒箱を開けたければこの謎を解き明かせ


1 木を隠すなら森の中

2 オナカスイタ

3 212215 ← /1221/

4 大きい順




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「これを解けば、ダイヤル錠の番号が分かるのかな?」


「そうだろうな。だから山本先生も、何のヒントもなしに自分たちで考えろって言ったんだろうし」


 気だるそうに答える秋斗。

 

 こんなことしないで、さっさと番号教えてくれればいいのに。


「アッキー。今、さっさと番号教えろよって思ったでしょ」


 天晴が秋斗の心の声を読んだように言う。実際読んでいるが。


「人の心を読むな」


「だってアッキー、分かりやすいんだもん」


 笑いながら答える天晴。

 

 そんなに分かりやすいのか俺。


 自分の顔を確かめてみたいと思った秋斗であった。


 とにかく四人でアルバムに書かれている謎を解くことになった。


「この1の『木を隠すなら森の中』って、たしか……ある物を隠したいなら、同じ物がたくさんあるところに隠せばいいって意味だよね」


「そうだな」


「だったら隠したものがダイヤル錠の番号で、隠したところがこのアルバムでいいよね」


「だろうね。他にはなさそうだし」


「じゃあ、2の『オナカスイタ』って何だろう……。食べ物の写真をアルバムから探せってことかな」


 雨宮がアルバムを開いて、食べ物の写真を探し始めた。

 しかし、探しても探しても食べ物の写真は見つからない様だ。


「写真……あった?」


 黒野が聞くと、雨宮は首を振った。


「食べ物の写真なんて一枚もないや。『オナカスイタ』って、食べ物のことじゃないのかな~」


 「う~ん……」と悩みながら、アルバムをパラパラとめくっていく雨宮。

 そしてアルバムの見返しで止めると、何かを見つけたようだ。


「あれ?何でこの写真だけここにあるんだろう?」


 雨宮が見つけた写真は、先ほど秋斗も見つけたものだ。


「これって、何の建物だっけ?なんか見たことがあるような気がするんだけどな~」


「ちょっと見せて」


 雨宮からアルバムを受け取る天晴。


「これはスペインにある世界遺産のサグラダファミリアだよ。そういえば、このアルバムの色もスペインの国旗と同じ……」


 天晴はそこまで言って言葉を途切れさせると、アルバムを閉じて表紙を凝視した。


「あ~、そういうことか!」


「どういうことだよ」


「いや~、『オナカスイタ』って意味がわかってさ!」


「本当!」


「うん。この『オナカスイタ』は、多分『小さな家』という意味だと思うんだ」


「なんで『オナカスイタ』が『小さな家』になるの?」


「俺も、前に兄さんから教えてもらったことなんだけど。『小さな家』は、スペイン語で『una casita(ウナ カシータ)』って言うんだ。それでスペイン人の人には、日本人の『オナカスイタ』って言葉が、その『小さな家』の言葉に聞こえるんだって」


「へ~、そうなんだ~」


「よく写真とアルバムの色だけで分かったな。」


 感心するように言う秋斗。

 

「いや、たまたまだよ。たまたま」


「それじゃあ、小さい家の写真を探せばいいよね」


 そして、雨宮と黒野がアルバムから小さい家の写真を探し始めた。


「これで全部かな」


 小さい家の写真を探し終えて、机に並べてみた。

 写真の数は全部で二八枚もあった。

 

「結構多いな……」


「たしかに」


「次は3だけど……これって、なんの数字だろう?」


「多分、この二八枚から写真を選別させるための数字だと思うけど」


「う~ん……」


 天晴と雨宮が数字の意味を考えている中、黒野は並べられた写真を手にとって、じっくり見ていた。

 しばらくして何かに気づいたのか、雨宮の服の袖をくいくいと引っ張った。


「ん?どうしたの?」


「この写真……色分けできる」


 と言って、写真を家の色で分けていく黒野。

 分け終わると、写真は赤・青・黒・白・茶・緑・黄とそれぞれ四枚ずつわけることができた。


「本当だ!しかも、しっかり四枚ずつ」


「あと……全ての写真の裏に数字と記号が書かれてる」


 黒野は何枚かの写真を裏返して、秋斗達にも見えるようにした。

 それぞれの写真の裏にはダイヤル錠の番号であろう数字が一つと性別記号の♂・♀のどちらかが書かれていた。


「この裏に書かれていることも、3の数字と関係あるのかな?」


「この裏の数字と記号は、まだ関係ないんじゃないか。それより、写真を四枚一組の色で分けれたんだろ。だったら3の数字は、分けられた赤・青・黒・白・茶・緑・黄の七種類の色から一つの色を選ぶための謎なんじゃないか」


「あ~、なるほど~」


 秋斗の考えに納得し、みんなで3の謎『212215 ← /1221/」』からどうやったら、七種類の色から一つの色を選ぶことができる答えになるのか考え始めた。


「この矢印って、右の『1221』の数字を何かすると左の『212215』になる……とかかな?」


「『212215』に『1221』を入れると答えになるよっていう意味かもよ」


「左の……『212215』から、考えるようにって……意味にもなる…と思う」


 矢印はどういう意味になるのか考える三人。

 しかし、三人のどの考えが正しいのかは分からないでいた。

 ちなみに秋斗は、そんな三人のことを見ているだけで、3の謎を考えようともしてなかった。


「ねえ、桐谷も考えてる!」


 すると雨宮がふくれっ面で聞いてくる。


「えっ、……あぁ、考えてるよ」


 目を逸らして嘘をつく秋斗。


「ならいいけど。そういえば、この『1221』の両端にある線ってなんだと思う?」


 雨宮は『1221』の両端にある『/』を指をさしながら、秋人に聞いた。


「見た感じ、スラッシュに見えるが……」


「スラッシュって、パソコンのキーボードにあるやつだよね。あれって、どういう時に使うものなの?」


「WebページのURLとかに使われてたりするけど、たしか文や語を区切るために使うものだったはずだよ」

 

 雨宮の疑問に天晴が答えた。


「区切る……。そっか~!」


 何かに気づいたのか、手を合わせて声を上げる雨宮。


「これって、左の数字を『1221』で区切れってことじゃないかな」


 そう言うと雨宮は、鞄の中からノートとペンを取り出して『212215』を『1221』で区切り始めた。


『2/12/21/5』


 数字を区切って見たのはいいが、肝心の答えがまだわからない。

 ここからまたどん詰まりかと思えたが、秋斗が指で何かを数えていると、七種類の内の一つの色を呟いた。


「……青」


「えっ、何?」


「答えは、青だ」


「なんで青なの?」


「この区切った数字を一つずつ、アルファベット順にしてみると分かる。まず初めの2は、アルファベット順でBだろ」


「次の12は、Lだね」


「えっと次の21が、ABCD……、Uだね」


「……最後はE」


「それを合わせると……」


 雨宮のノートに、先ほど四人で言ったアルファベットを書いていく秋斗。

 そして書いたものをみんなに見せるようにした。

 そこには『BLUE』と書かれていた。


 机の上に青色の家の写真を四枚並べた。

 

「ここからが写真の裏の数字と記号が関係してくるだろ」


 そう言って秋斗は、四枚の写真を全て裏返した。



写真の裏


1枚目 ♀1

2枚目 ♀1

3枚目 ♀3

4枚目 ♂0



「最後は『大きい順』だね」


「さすがに数の『大きい順』とかじゃないよね~」


 冗談でいいながら、一応試してみる天晴。

 

「3110と……」


ーー予想通り鍵は開かなかった。


「だよね~」


「だったら、写真にある家の『大きい順』とか?」


「それだったら、この記号はいらないだろう。それに、家の大きさなんてほとんど変わらないし」


「そっか~」


「この記号って、性別を意味する記号だよね。この記号でどうやって『大きい順』にするのかな?」


「さあな。まず、この記号が性別を意味するものかもわからないぞ。最初の『オナカスイタ』みたいに、外国だと違う意味になるとか」


「……違う…意味」


 黒野が記号を見ながら呟いた。


「どうしたの?」


「……昔、お姉ちゃんに…この記号について、何か教えてもらったことがあるような気がするんだけど……」


 必死に思い出そうとする黒野。

 

 そういえば、黒野のお姉さんは写真部だったんだよな。てことは、この最後の謎はお姉さんが考えたのかもな。


 秋斗はそんなことを考えながら、机に並べてある写真を一枚手に取った。

 秋斗が手に取った写真は、♀1と裏に書かれている写真である。

 初めは写真の裏にある記号と数字を見てから、裏返して表の家の写真を見る秋斗。

 

「あっ!」


 すると黒野が秋斗の方を見て、声を上げた。

 その声にビックリする一同。

 

「……それ」


と秋斗の持っている写真を黒野は指差した。


「これ?」


「……貸して」


 手を出してくる黒野に写真を渡す秋斗。


「この記号……1と書かれてる写真だけ…反対」


 そう言って♀1と書かれている二枚の写真を反対にした。

 

「それでこの記号を反対にしたら、どんな意味になるの?」


 天晴が♀の反対になった記号を指差しながら聞いた。


「この記号(♀の反対)は、惑星記号で地球の意味になる。そして、こっち(♀)が金星で、こっち(♂)が火星の意味になる……って、昔お姉ちゃんが言ってた」


「じゃあ、その三つの惑星を『大きい順』に並べれば……」


「ダイヤル錠の番号が分かるってことだな」


 それから、天晴が地球(♀の反対)・金星(♀)・火星(♂)を大きい順に並べたら、地球→火星→金星という順番になることを伝え、その順に番号を並べてみると1130という番号になった。

 そして、雨宮が番号入れてみると…カチャというか音ともに鍵が開いた。

 黒い箱の中には、一つのカメラと何冊かのアルバムがあった。

 カメラは多分、昔の写真部の人達が使っていたものだろう。

 アルバムを一つ手に取り、机に広げてみんなで見てみた。

 そのアルバムの中の写真は、写真部であろう人達が笑顔で写っていた。


「これって、昔の写真部の人達かな?」


「そうだろうな」


 雨宮の問いに答える秋斗。

 そして、箱の中から違うアルバムを手に取ってみる秋斗。適当なページを開いてみると、このアルバムにも写真部の人達が笑顔で写っていた。

 写真を見ていくと、ふと一枚の写真に目が止まった。その写真には、昔の写真部であろう女子三人が写っていた。


 その中の一人を見て、秋斗は何故かとても懐かしいような、悲しような気持ちになった。

 秋斗は何故こんな気持ちになるのだろうと思いながら、窓の外を見ると、いつの間にか雨が降り始めていた。

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