波乱の小暮芽衣子・3
渋谷恭平は教室内に倒れ込んだ。あくまで不意を突く為の衛士の飛び蹴りだったのでダメージは大きく無いが、それでも蹴りで受けた衝撃の所為で直ぐには体が言う事を聞かなかった。
「てめぇ、ふざけた真似しやがって!」
起き上がろうと踏ん張りつつ悪態を吐いてくる恭平。しかし彼は、衛士が芽衣子に手を貸して起こしてやっている所を目の当たりにしてしまう。
「あ、ありがとう」
遠慮がちでありながらも衛士の手を素直に握っている芽衣子の姿に、恭平はそれこそ怒り心頭だ。
「芽衣子、そんな奴と手ぇ握ってんじゃねぇ!」
「うっせーな」
衛士は芽衣子を助け起こしながら、ただその一言で済ませようとする。蹴るだけ蹴ったら、もう気は晴れたとばかりに。
「あぁん!?」
衛士はそこでようやく恭平に目線を寄こす。
「分かんねーのかよ。お前がうるさくしてるから、こいつが中々立てずにいるんだろーが。尻が冷えて可哀そうだって風にはならないのかよ」
こいつと言われたからだろうか、尻という単語が出たからだろうか、芽衣子は居心地が悪そうにしていた。
しかし恭平は彼女の顔に思う所が有ったらしい。
「芽衣子、お前何嬉しそうにしてんだっ!」
「もう、いい加減にして!」
芽衣子は急に、一際強い語気で恭平に対し言い放つ。
「こんな風に変に目立つの本当に耐えられない。もう私に構わないで!」
芽衣子の突き放すかのような言葉に恭平は唖然としていた。
「お、おい……」
やっとそれだけ言ったのも無視して、芽衣子はここから早く立ち去りたいとさえ思っていたのである。しかし――
「ん?」
衛士は芽衣子が自分をじっと見てきている事に気が付く。
「怪我は無いって言ったろ。俺ももう帰るから――」
「そうね、じゃあ行きましょっ」
そう言われて芽衣子に手を取られてしまった。
「ちょっと、何だよ」
事態が飲み込めない様子の衛士を芽衣子は強引気味に連れ出す。
「お礼、ちゃんとしたいから」
返事は要らないとばかりにガンガン歩いていく芽衣子に、衛士は困惑していたが、彼女の手を振り払おうとは思わなかった。
衛士には今の芽衣子の気持ちを、少し分かる気がしていたからである。
そりゃ俺だって、たまには全部投げ出して軽い気持ちで歩きたいって時も有るけど――
そう思ったら、ここで彼女を残念がらせるのは可哀そうだと感じてしまったのだ。
二人の様子を見守りながら賢吾が後から付いていく。
「あちゃあ、これは面倒臭い事になりそうだぞ」
そう言いながら、もう恭平の事は知らんとばかりに捨て置くのであった。
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