おでこコツン

その日は朝から怠かった。


 寝不足で思考がはっきりせず頭が重い感じが午後になってもしていて、彼女の話もまともに聞けず反応も鈍くなってしまっていた。それ程ぼーっとしてしまっていた。


 午後、彼女は友人達と買い物やお茶をしに出掛け、このままではいけないと思った僕は休日なのをいいことに、その間ずっと一人ベッドで眠っていた。


 夕方、外に干していた洗濯物を取り込み、けれどもどうしても畳む気にはなれず、ソファにテレビも付けずぼけっと座っているところに彼女は帰ってきた。


 そのことに僕は気づいておらず


「ただいま!」


そうワッと驚かすかのように肩を押され、初めて彼女が帰ってきたことを知った。


「普段のあなたなら驚かす前に気づくのに……。何か考え事?」


「別に……。少し怠くてぼけっとしていただけだよ」


「大丈夫?」


 彼女がソファの前へと回り、僕の顔を覗き込む。


「顔、普段より少し赤いわ」


 彼女はそう言うと腰を屈め、僕と視線を合わす。彼女のぱっちりとした大きな目と合ったと思った瞬間


「!」


コツンと彼女は僕のおでこと自身のおでこを当てた。キスできそうなくらいの至近距離に彼女の顔がある。


 普段ちょっとしたスキンシップを取ろうとするだけでいまだに動揺し照れる癖に、彼女は時々とても大胆だ。おそらくそれは純粋に僕の身を案じてのことで、そういう意識がないからなのだろうが。


「熱い。やだ、熱があるじゃない。今すぐ横にならないといけないわ」


 おでこを離すとすぐさま彼女はそう言った。


「……おでこを当てて熱を計られるのは初めてだな。君はいつも具合の悪い人がいたらそうやっているのかい?」


「お母さんはいつもこうやってくれていてくれたから、家族に対しては私もそうしているわ。友達とかだとびっくりさせてしまうから手で触れるようにしているけれど」


 駄目だったかしら? と言いたげに彼女は首を傾げた。


 誰彼構わずやっていたわけではなかったようで、僕はほっとする。


 しかし顔が熱い。どきどきして余計に熱が上がりそうで、彼女の測定方法は正確性に欠けてしまうのではないか。


「本当に大丈夫? 夕ご飯は私が作るし、服も畳んでおくわよ。他の家事も全部やる。だからあなたは寝ましょう」


 無反応な僕を心配してか彼女はそう言った。そして僕の腕を掴み引っ張る。僕は立ち上がり、彼女にされるがままに寝室へと連行された。








END.

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