重ねた手と手

「あなたの方が大きい」


 真面目な面持ちで彼女はそう言った。


「男の僕の方が大きいのは当然じゃないかな」


 僕らは今、手首の位置を合わせ、お互いの手の平を重ね合わせていた。


「むぅ、それはそうなのだけれども……。でもこうして見るとやっぱり大きいなって。指も細くて長いし」


「君の手も綺麗だよ。色白でほっそりしているし、爪の色も形もいい」


「なっ……。わ、私を褒めても何も出てこないわよ」


 僕が純粋に褒めると彼女は照れた。かなり動揺したことも重ね合わせている手の震えから直に伝わってきた。


「指、あなたは人差し指より薬指の方が長いのね。私は人差し指の方が薬指より長いから、ずっと他の人もそうだと思っていたわ」


「人差し指と薬指の長さは胎児の時に、男性ホルモンと女性ホルモン、どちらを多く浴びたかで変わるらしいよ。だから男性は人差し指より薬指が長くて、女性は逆に薬指より人差し指の方が長い人が多いみたいだよ。もっとも男性でも人差し指の方が長いって人もいるし、逆に女性でも薬指の方が長いって人もいるみたいだけど」


 少し前に話題になっていて偶然知った知識を僕はそのまま話した。


「へえ、そうなんだ」


 彼女はそう感心しつつ、ぐっと人差し指と薬指を押しつけ違いを楽しみ出す。


「あ、あとあなたの手って私と違ってとても温かい。私の手は冷たくなっちゃうことが多いから、つい握りたくなるわ」


 今度は重ね合わせていない方の手も出し、両手で僕の手を握り締めながら彼女は言った。


「心は冷たいからかな? 君と違って」


 手が冷たい人は心が優しいなんて通説が脳裏をよぎり、口にしてみる。


「またそんな捻くれたことを言う。けれどあなたは優しい人よ。私がそのことを一番よく知っています」


「……」


 動揺を悟られぬよう手を引っ込めたくなったが、彼女に両手でギュッと握られてしまい、離すことができなかった。

 












END.

      

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る