第5話 イデア論なのです
まずイデアとは、ある哲学者が言及した、簡単に説明すると物の見方のことである。
「この紙に、テルオが思う綺麗な女性の絵を描いてみるのです!」
「え? いや、絵なんて俺、まともに描いたことなんか……」
「良いから描くのです!」
渋々、テルオは女性と思わしき絵を描き、サナエルに見せる。
「ぶっはっは! テルオの絵、下手っぴ過ぎるのです! きゃははははは!」
「おいガキ……殴られてぇか?」
画力の問題もあったかもしれないが、自分の思い描く美という物を完璧に表現出来る者は、そうそういない。
この世の物理的な作用で、どこかしらに歪みが生じてしまうのだ。
「ちょっと、難しかったかもなのです! テルオ! 次はこの紙に完璧な線を描いてみるのです! これなら簡単なのです!」
テルオは、言われた通り定規とペンを用いて一辺の線を描いた。
書き終えた後、サナエルは虫眼鏡で彼が描いた線の角をのぞき込む。
「フフン! 分かってたけどテルオ、これはダメなのです! 線の端っこの部分が角張っているのです! これは線じゃなくて長方形なのです!」
「はあ!? いや、ペンはどうやったって角張るんだからしょうがないだろが!」
そう、今ある物ではサナエルの言う完璧な線は描けない。
「じゃあ、最後に点を作ってみるのです!」
テルオはペンを用意された紙を机ごと思い切り突き刺し、紙に一つの穴を開けた。
「何をやってるのですか! 紙と机に穴が開いちゃったのです! 紙と机さんが可愛そうなのです!」
「ほら、ちゃんと点を作ってやったぞ! それとも俺とやり合かサナエルちゃん? 今の俺なら幼い幼女に容赦しない心の野獣を解き放てるぜ……」
「? なんでテルオは怒ってるのですか?」
幼女にメンチを切る少々大人げない大人はさておき……点は作れたが、これは果たして点を作ったことになるのだろうか?
点という概念ではあるが、穴の点であって純粋な点という物ではない。
パソコンのビットマップ画像に一つの点を打ち込んだとしても、それは小さな四角の点であって、純粋な点ではない。
なら角を削って丸くすればいいのかと言ったら、それは丸い点であって、これもまた純粋な点ではない。
線も点も、実は概念だけの存在であって、この世に存在していないのである。
なら、どうして人間達はそれを知っているのか?
どうして、見たこともないそれらを描こうとすることが出来るのだろうか?
ある哲学者は、そのことに対して、ある物の存在を唱えたのだ。
「覚えているのですよ……
サナエルは、天に祈りを捧げるように目を閉じる。
「
「……」
テルオは漠然と話を聞き続ける。
気にせずサナエルも話しを続ける。
「地獄は時が経つに連れて発展し、昔よりも住みやすくなったと大天使様から教えてもらったのです。でも、地獄から
「まあ、天国だからな……」
ふーんと、テルオは乾いた返事をする。
しかし、テルオは話の中で少し引っかかった所をピックアップすることにした。
「そんな素晴らしい天国でも、悪いことをする奴がいるんだな」
揚げ足を取ったとばかりに、呆れるような溜め息を吐く。それに対してサナエルは頬を膨らませる。
「まったくなのです! こんなにも美しい
誇らしげに彼女は語った。
へーと、テルオは乾いた返事をするも、一つの疑問が浮かぶ。
「つまり、終着点はサナエルちゃんの住む天国にこの世の生物が、全てたどり着けば終わりと言うことか?」
「そうなのです! それがこの世の正しき姿なのです!」
「それじゃあ、仮に皆が天国に行けたとする。そしたら
「元々、ここは生物なんていなかった歪みの世界なのです。
つまり、悪意があり続ける限り、
「いつになったら、その悪意って奴は根絶されて、皆が天国に行けるようになるんだ?」
「それは、まだ授業で習っていなので分からないのです……」
「……そうか。ってか、天使は、そんなことも授業で取り扱っているのか?」
と、言うことでこの話はここまでである。
「サナエルちゃんよ、とりあえず前振りはここまでにして、そろそろ本題に入ろうか」
ドタバタしたが、二人はちゃぶ台を挟み、向かい合わせで座る。
「今知りたいのは、どうやったら俺が君の言う天国に行けるのかだ。そして、何を注意したら良いのかだ」
ここまで
それに対して、サナエルは勢いよく例の通信簿をテルオの眼前に突きつける。
「その細かいルールは、全部この
「あっ、はい」
今までの力のこもった前振りはなんだったのかと、何か腑に落ちない気持ちに駆られるが、彼等は
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