第8話 湘

湘南モノレールが面白い。

湘南モノレールとは、大船駅から湘南江の島駅までを結ぶ懸垂式モノレールのことだが、私はこれに乗るのが大好きである。

まずそもそも、江の島が目的地なのであれば、鎌倉駅から江ノ電に乗るよりも湘南モノレールに乗る方が速い。大船駅から湘南江の島駅まで14分で行ける。

大船駅から乗車して、転寝する間もなく到着してしまう速さだ。

私は、以前書いたように、一時期は頻繁に江の島に行っており、今も気に入っている舟善さんとSE1さんに行くために時々江の島に向かう。

江の島だけに行って帰りたいので鎌倉を経由する理由がなく、そういったときは湘南モノレールが便利なのだ。

江ノ電に乗って行くとなると、鎌倉駅まで行き、江ノ電に乗り換え、江ノ電で24分かかる。逆に、藤沢から江ノ電で江の島に、というコースにしたとしても、藤沢から江の島駅まで11分かかり、これに大船駅から藤沢駅までの移動、JRの駅から江ノ電の駅までの徒歩移動(藤沢駅は、JRの駅と江ノ電の駅が少し離れている)を考えると、大船駅から湘南モノレールを使うのが一番早く楽に到着できる。

しかも、湘南モノレールの良いところは、江の島まで早く行けるだけではない。

湘南モノレールは、少しゆっくりとしたジェットコースターのようなのだ。

これが、私が湘南モノレールを大好きだと言う最大の理由である。

ここから落ちたら無事では済まないだろうという高さを走っていたかと思えば、自動車と並走するくらいの場所を走っていたり、少し身体が引っ張られるようなカーブ、山の中のトンネルと、目まぐるしく変わる景色は飽きることがない。

江ノ電に乗っていると、住宅地を抜け、海のすぐ傍を走り、ごく普通の道路で自動車と並走していくのが見られて、その景色ももちろん楽しい。

だが、湘南モノレールのアップダウンの激しい景色の移り変わりも、一度は楽しんでみてほしいと思っている。

個人的なおすすめのポイントもいくつかある。

まず、大船駅から富士見町駅に行くときに見られる、正面からの大船観音。JRの電車から見るときは大船観音を見上げる形になるので、本当に真正面に近い位置の大船観音はモノレールに乗った人だけが見られるのだ。

次に、富士見町駅から湘南町屋駅までの、特に晴れた冬であれば必ず見られる富士山。これは、夏場はほとんど見られず(夕方は光の方向の関係でシルエットが浮かび上がる時間帯もあるが)、春はまれに見られるが霞がかりやすいので、はっきり見るには冬が一番良い。私は、富士山がはっきり見えると「ああ、冬だ」と感じるようになった。霞がかって見えにくいと感じると春になったなと思い、見えやすくなってくるともうすぐ冬だと思うくらいに、変化が分かりやすくて面白い。

そして、西鎌倉駅手前の下り。湘南深沢駅からどんどん上がって、西鎌倉駅に向けて下っていくので、ふと気が付くとものすごく高い場所にいて、いつの間にか自動車が並走しているという不思議な感覚を味わうことができる。

それから、片瀬山駅から目白山下駅の途中で、海が見える。曇っていたり雨が降っていると分かりにくいが、晴れている日ははっきりと分かる。山や住宅の合間からきらきらとした海が見えるのは、まるで砂浜でシーグラスを見付けたときのような高揚感がある。江ノ電に乗っているときに突然現れる広大な太平洋も素晴らしいが、高い場所から小さな海を眺めるのも良いものだ。

そして最後に、湘南江の島駅。最近建て直されて、とても綺麗になった。昔は薄暗くて、よく言えばレトロだがはっきり言って古惚けた駅舎だったのが、今は明るくて、エレベーターまでついている。この駅舎から外を見ると遠くまで見渡せて、本当にこの地域は高い建物が無いとしみじみと驚く。私の生まれ故郷の方が、よほど高い建物があった。しかし、空が広くて気分が良くなるので、景観条例はこのまま良い仕事を続けてほしいと祈っている。

そうして湘南江の島駅で降り、しばらく江の島の、海の近くの空気を楽しんだ後、逆の順番でおすすめポイントを堪能して帰るのである。


なお、湘南モノレールの起伏のあるコースをどう表現しようかな、と考えたとき、ジェットコースターしかないと思ったのだが、駅名を確認するために湘南モノレール株式会社のサイトを見たところ、そちらで既にジェットコースターと言われていた。

自分の独創性の無さに少々落胆した。だが、それでもやはりジェットコースター以外の表現が見当たらないくらいに湘南モノレールはアトラクションじみているので、ジェットコースターのままにしておいた。

江の島に連れて行ってくれるジェットコースター、何だかイイ感じではないか。


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