第7話 長
時々、大した用事もなく長谷駅に降りる。
降りてから、どうしようかな、と考える。
私のマイフェイバリット仏像は極楽寺にあるのだが、好きな寺と言われたら長谷寺を挙げるくらいには、長谷寺に通っている。
そのままふらりと長谷寺に向かうのも良い。
長谷寺の入山料は、何とSuicaで払えるので、江ノ電を乗るのに使ったSuicaでそのまま入山できる。
長谷寺には四季の花が植えられており、目でも楽しい。
階段を上がり、本堂で大きな観音様にお参りをして、本堂に隣接する小さな博物館をじっくりと見学するのも楽しい。
長谷寺のかわいらしいお守りを選んでも良い。
長谷寺のレストランで、食事や甘味を楽しんでも良い。
私は長谷寺の「カレーうどん」が大好きである。
甘く煮た高野豆腐が不思議とカレーに合う。
腰の強くないうどんも、優しい味の出汁にぴったりだと思う。
長谷寺からは海が見える。
長谷寺に続く道にある、土産物屋を冷やかすのもいい。
オルゴールを眺めて、たまに自分の好きな歌手の曲のオルゴールを買い求めるのも楽しい。
十字路の所にあるお好み焼き屋も、和菓子屋も、よい。
長谷寺に行くのに逆の道を行くと鎌倉駅まで歩いて行けるようだが、まだそれは挑戦したことが無い。
鎌倉駅近くに小さな支店を構えていた菓子屋の本店があり、そこの菓子が大好きだったので本店まで足を延ばしたことがあるが、今もあるのだろうか。支店は、近頃いつ行っても開いていないので、もしかして、とおもっているのだが。
逆に、長谷駅を出て海側に向かって歩いてみても楽しい。
海側に向かって歩いて行くと、飲食店やカフェが案外多いことに気付く。
住宅地をのたのたと歩いていたはずなのに、ふっと現れるカフェ。
古民家を改装したのであろうレストラン。
朝早くから開店しているパン屋、御霊神社の石碑に遠慮するようにある和菓子屋、老舗のレストランに焼肉屋。
そうして道なりに進むと、そのうち海に出る。
おお、と声に出してしまうのは、生まれ育ちが内陸だからだろうか。
日本海の海は晴れた日でも何となくのっぺりと緑がかった印象なのだが、太平洋は晴れると碧く、きらめかしい。
かつて、大津波が来たせいで鎌倉大仏の本殿が流され、それ以来再建されなかったという話は真実だろうかとぼんやりと思うが、広い海を見ているとそういうこともあるだろうかという気にもなってくる。
湿った風を感じて、海を眺め、何となくそこをゴール地点として、またのたくたと引き返す。
のたくたである。
早足で駅に向かうのは勿体ないのだ。
観光と、生活と、信仰と、美味しい物、海、細くて車も入れないような道、「断捨離をしているので欲しければお持ちください」と道路に置かれた箱、潮風。
せっかく大した用事もない駅で降りたのに、急いで目的地に行き、急いで戻るなんてつまらない。
よく分からないもの、よく分からない店、よく分からない路地、そんなところに入り込んでぶらぶらとしなければ甲斐がない。
そうして長谷駅に戻る。
そして藤沢駅まで行くか、鎌倉駅に戻るかは、その日の気分次第なのである。
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