涙を拭う手



 はらはらと、流れる涙は何を意味するのか。

 胸を押さえたくなる程の苦しさは、何を意味するのか。

 孤独か、それとも恋情か。

 ただ一人で流す涙の意味を知る人は、己以外にいない。


 人前で流さぬと決めてから、一体どのくらいの時が流れただろう。

 それをする事は、今では恐怖でしかない。


 涙が溢れそうな時、奥歯を噛み締める。爪が食い込む程に、拳を握る。


 心は悲鳴を上げる。きりきりと、壊れそうな音を立てる。

 けれども、堪えるんだ。


 最早それは意地。


 一人になり、溢れる雫は重力に従い、頬を濡らす。



 ──涙を拭うは、己の手のみ。




【涙を拭う手・完】

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