第15話 ラスト

面接の刻限が迫り、足早に散歩を切り上げる。

行き交う人々を観察するのは楽しく、あっという間に時が過ぎていた。


人々の語らい。人々の動向。

それらを見ていると心が安らぐ。

それは最終兵器が自覚する趣味の一つだ。

出来る事なら会話に、出来る事なら遊びに、参加を表明したいのだが・・・

長い間エリスと共に居たツケなのか、他人に第一声を掛ける事が出来ずにいた。

声をかけてくれれば、チャンスはある!!と、ねばった結果が、遅刻間際のこの現状である。

心証を損ねるのも不味い為、最終兵器は足を速めた。


面接会場は酒場の地下にあった。

入り口が分かりにくく、

発見するのに少し歩き回る事になったのだが、前もって場所を確認していない自分の責任である。


扉の前に着くも、心の準備が出来ていない。

時間が押している為、息だけ整え扉を叩いた。


少しの期待と、少しの緊張。

そんな気持ちを抱えながら会場の扉を開く。


ぎぃぃぃぃ。



・・・。

一人の男がこちらを見ている。

会場で一人、手持無沙汰にしていたのか、とても嬉しそうな表情をしていた。


・・・その表情が酷く美しい。


「あらやだ、可愛い子!! 突っ立てないでこっちに来て!!

 ここ! ここよ!! ここに座りなさい!!」


隣の席を強く勧めてくる男。

何から突っ込むべきか・・・

そもそも彼は人間なのだろうか・・・ 最終兵器は疑問を覚えた。


彼はオネエだ。

仕草が可愛らしく、少女のそれである。

体格もスレンダーで長身。

先ほど語ったが、顔は酷く美しい。


そう、酷く美しかった。

美しい・・・ 美しく飾られていた。


首より上がケースに入れられ彼の体に抱きかかえられている。

大切そうに首を抱える男には・・・ 首から上が無かった。

ケース内では今も嬉しそうに笑う男。


「どうしたの? 面接までお話しましょうよ!!」


存在が奇妙である事以外、フレンドリーな男だった。



最終兵器は思う。

場所を間違えたかもしれない! と。

一度扉を閉めてメモを確認。


・・・場所は間違っていなかった。

もう一度扉を開く。


目前にはケースを抱えた男。

ご丁寧な事に最終兵器の視線にケースの高さを合わせてくれている。


「いいのよ、初対面ではみんな同じ反応をするし。 慣れてるわ。

 でも貴方、破壊の少女討伐目的でしょ? 場所、間違ってないわよ。

 さあ、入って」


優しい声で迎えてくれる。

しかし、ケース内の顔はどこか寂し気な表情を浮かべていた。



可愛そうな事をした。

そんな罪悪感が最終兵器の心に広がる。

少し前に、似た気持ちを感じていた筈だ。


声を掛けられず待つ事しかできなかった私。

それはとても悲しい事。

彼は私より勇気がある。

だって、話しかける事が出来たのだから。

そんな彼に興味が湧く。

それに、彼からは人間の匂いがするのだ。



「話」

「!?」


最終兵器の言葉にケースを抱えた男の表情が変わる。


「話をしましょう」


思い切った言葉に、返事が返ってこない。

アプローチを間違えただろうか?


言葉を聞いた男は固まっていた。

信じられないと顔に出ている。


仕方がないので行動にでた。

彼が勧めた席に腰を下ろす。


彼も恐る恐る隣に座った。

そして、照れくさそうに口を開く。


「私、私・・・ グリード。 よろしく」

「私は最終兵器」


目に見えて不思議そうな顔をするグリード。

躊躇った後、再び口を開いた。


「・・・。 変わった名前ね」

「あなたも変わってる」


お互い様であると主張する。

それにグリードは笑って答えた。


「その通りね! でもそのゴツゴツした名前。私は嫌いよ!!

 そうね・・・ ラスト!

 これから貴方をラストって呼ぶわ!! どう?」


急な展開。

だが、不思議と嫌な気持ちにならなかった。

エリスと接するのとは違う、とても穏やかな感覚。

求めていた物の一つがここに在る気がした。


返答の遅い最終兵器にグリードは戸惑う。

やらかしたとばかりに、涙目になった。



「ラスト・・・



 悪くない」


噛みしめる様に口にする最終兵器。

千年間得る事のなかった感覚。



「グリード。 有難う」


お礼の言葉と笑みは自然に漏れ出していた。


これに戸惑ったのはグリードである。

顔を真っ赤にして黙り込む。


その後、面接が始まるまでお互いに話す事は無かった。

話しかけられる様な雰囲気ではなかった為だ。

しかし、それはラストにとって悪い気がしない幸福な時間だった。

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