第16話 グレムントの憂鬱1
「グレムント君、君は・・・ アレだ。 今回の件、どう収めるつもりだ?」
重苦しい空気が漂う室内。
普段は軍議を行うこの場所で、円卓を挟んで二人の男がにらみあっていた。
グレムントに対して行われる査問・・・ という名目の懐柔工作。
降って湧いたこの事態に、グレムントは嘆息を漏らしていた。
対面に居る相手は大貴族・・・ の右腕。
いわば金魚の糞のような男。
名前は何と言ったか・・・ 忘れた。
とにかく、この国を牛耳る派閥の一つが、グレムントへの接近を図ったのだ。
「収める? ご冗談を。
被害を増やすおつもりですか?」
真顔で答えるグレムント。
相手に対して弱みを見せる訳にはいかなかった。
「ハハハ、君らしくもない意見だな。
我が国の民が不当に殺されている。 君は何とも思わないのか?」
「おっしゃる通り。 私も心を痛めています。
しかし、軍は動かせません。
姫殿下とフィドルの件はお耳にされていますか?」
「聞き及んでいる」
「では、ご理解ください。
陛下より預かりし兵を無駄にはできません」
しばしの沈黙。
陛下を理由に持ち出すのは心苦しいが、効果はてきめんの様だ。
だが、相手はほくそ笑んだ。
「陛下は今回の件で心を痛めておられる。
あの街で起こった惨劇。 我が国が受けた被害は多大なものだ。
だが、君が言う通り、これ以上被害を増やす訳にはいかない。
そこでだ。
我々は準備を始めた。
軍を用立てた。
そして、君にその指揮を執ってもらいたい」
軍を用立てた・・・ だと。
我が国において軍は陛下が持つ物。
それ以外は許されていない。
「君も知ってるいとは思うが、我々貴族には兵を持つ権利がある。
騒乱や暴動の鎮圧、与えられた領地の守り、
用途はそれぞれだが、私兵を持てるのだ」
コイツ・・・ 言っている事を分かっているのか?
「知っている。
ただその権利は・・・ 」
「そうとも、軍を持つ権利ではない。
ごく少数の部隊に限られている。
しかし、貴族が一丸となれば話は別だ。 違うか?」
言い聞かせるようにグレムントに語る。
そして、
「我が派閥には既に用意がある。
君にもそれに参加してもらいたい!」
どうだ? とばかりに囁きかける金魚の糞。
グレムントは固唾をのんだ。
「君もアレか?
フィドル同様、逃げるのか?
先に言っておくが、逃げた後、お前達に生きる道は無いぞ。
我々が許さないからな。
分るか? 退路は無い。
もう一度言う、我々が許さない!!
民草は報復を求めているのだ。
怨嗟の声が・・・ 聞こえないか? グレムント君」
冷や汗が流れる。
彼が言う『我々』の意味を噛みしめる。
グレムントは動揺していた。
貴族が兵を集めたら、報告が上がって来る筈なのだ。
陛下の耳に入れておかなければ騒乱罪を疑われる為である。
しかし、そんな報告は上がっていない。
陛下が許したのか、貴族達の暴走か、それとも民の望んだ事か?
尋ねなければ・・・
「グレムント君。
今回の件、内密にお願いする。
君も、陛下の心労を増やしたくはないだろ?」
悪びれもせず、確信的な言葉を述べる相手。
「お前達は・・・」
「兵は今も増え続けている。
先ほども言ったが、民草は報復を求めているのだ!」
グレムントの言葉は流され、査問は終了した。
最後に「いい返事を期待している」と言い残し、大貴族の右腕は帰っていった。
◆
まずい事になった。
まさか貴族達が軍をつくるとは・・・
それに明らかな脅しをかけてきている。
兵は今も増え続けている、か。
民の怨嗟を利用するとは許せん。
陛下に直接報告出来れば開ける道もあるだろうが、貴族達がそれを許す筈が無い。
どうしたものか、 軍を動かす?
いや、それは無い。
陛下がそれを望んでいないのだ。 命令さえあれば・・・
これ以上はダメだ。 考えるな。
要は根本を絶てば良いのだ。
根本を絶てば、軍など必要なくなる。
それに私だって裏で計画を進めている。
はぁ・・・。
ため息を一つつき、気を取り直す。
頼んでおいた約束の刻限はとうに過ぎている。
指定しておいてこの体たらく、仲間集めも前途多難である。
一応、足を運ぼう。
優秀な人材が待っているかもしれないのだから。
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