第13話 とある討伐願の上申書
執務室の椅子に深く腰を下ろし、ため息をつく男が一人。
向かう机の上には、書類の山が放置されていた。
男は別に職務を放棄している訳ではない。
書類には一度目を通し、即決できる案件には判をつていた。
しかし、男の善戦空しく仕事の手が止まる。
理由は簡単。
残された書類の山が、手におえる代物ではないのだ。
書類はすべて同じ案件に付随する打診や報告、上申といった内容の物ばかり。
男はその事に頭を痛めていた。
今、国の上層部では、腹の探り合いが行われている。
誰もがその案件に対して命令を下そうとしない。
そんな異常事態が、ここしばらくの間続いていた。
全ての始まりは3日前。
我が国の姫。
リーネシア殿下と御付のフィドルが持ち帰った情報から始まる。
その情報は宮廷内を震撼させた。
情報源が姫殿下とフィドルでなければ誰も信じなかったであろう。
内容は『大破壊を起こした少女について』である。
・街を金で埋め尽くし壊滅させた。
言っている事が分からないが、
大量の金を出現させ街を一つ呑み込み、押し潰したそうだ。
生存者は僅か数名と聞く。
金を生み出すロストギアを使用したと推定するが、謎が多い。
何故、それを攻撃に用いたのか? 不明である。
影響規模や威力からSクラス以上のロストギアと推定する。
・壊滅させた後、魔力を暴走させ大規模な破壊を近隣に撒き散らした。
これが今、問題となっている。
意図は不明だが、魔力の規模が桁外れだったとフィドルが語っている。
暴走していた為、爆発規模はそれ程でもなかったが、
伝わってくる潜在魔力が今まで感じた事がないものだったそうだ。
フィドルは討伐の任に就つく事を拒んでいると聞く。
我が国随一の戦力を誇るフィドルが、今は使い物にならない状態にある。
情報の伝達と共に箝口令を敷く話もあった。
が、生存者に他国の間者がいた為、あえなく公表する事にした。
事の重大さを理解した陛下が、
その日の内に、討伐対象として10億の懸賞金を掛ける事にしたのだが、誰一人として異を唱える者はいなかった。
情報及び情報提供者を鑑みて、少女が持つ残虐性、凶暴性、規格外の戦力を否定できなかった為である。
今、調査隊を派遣してはいるのだが、
確認も行わず懸賞金を提示したのは、異例の事だ。
はーーーーーー。
大きなため息が零れる。
金を生み出すロストギア。
そんな物が存在するのか?
したとして、、 不味くない??
そんな物が明るみに出れば戦争の火種になるぞ・・・
この案件に対して、心労が尽きる事は無い。
はーーーーーー。 更なるため息が男から零れた。
男の名はグレムント。
この国で軍事を任される言わば将軍の地位にいる人物である。
とは言っても、名ばかりの地位。
国の上層部は有力貴族で固められており、グレムントはその下働きといった感じだ。
今も心労を続けているのは、貴族達に仕事を押し付けられたからに他ならない。
だが、上層部も今は睨み合いで忙しい。
急に浮かび上がった大型案件。
手柄を立てるチャンスがそこに転がっているのだ。
姫殿下の件もある。
あの日より、姫殿下は人が変わった様に暗くなってしまった。
思いつめた顔をし、急に震えだす事もあるらしい。
問題を解決すればムフフなご褒美が、と若い貴族達の鼻息は荒い。
しかし、誰もチャンスを拾おうとはしない。
それは、フィドルの件が尾を引いている為だ。
誰もフィドルの代わりを見繕えていない。
その為、水面下での探り合いだけが激しく行われていた。
ふと、グレムントの目が上申書の言葉に留まる。
『手配書の少女を発見しました』
それは人相書きに似た少女の目撃報告。 と共に綴られた討伐願。
上申書には短くこう綴られていた。
『子供の仇を討って下さい』
痛ましい事だった。
生存者数名。内、我が国の生き残り2名。
ああ、痛ましい・・・。
痛ましい・・・。
・・・
「糞がーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
グレムントが吠える。
頭を真っ白にして叫んだ。
やってられるか!!
上層部の意向や思惑など、糞食らえである。
元より私は武官! 文官ではないのだ!
グレムントにも熱い思いがあった。
この国の民を守る。
その思いだけで、将軍の地位まで駆け上がった熱い人物である。
民が蔑ろにされている現状を、グレムントが許せる筈は無かった。
しかし、軍を動かす事は出来ない。
貴族共がかぎつけ、手柄欲しさに指揮を乱す恐れがあるからだ。
それに大所帯で行った所で・・・ 金に押し潰される。
少数精鋭。
先ずは、力ある者を集める必要がある。
この時より、グレムントは密かに動き出す。
民の為、国の為、そんな暑苦しい熱意を胸に秘めて、
彼はポンコツに挑もうとしていた。
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