第11話 オークション5 終幕

リズがいない・・・

リズが・・・ 

リズ・・・


「リズをどうしたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


激情のままに咆哮を放つ。

人間の一人が、薄い魔力の膜を形成しその轟音に耐えて見せた。


癇に障る行動。

おとなしく私の質問を聞いていれば良いものを・・・

そんな風に考えるエリス。

自身の仕出かした事も忘れ、人間達を敵とみなす。


しかし、聞かねばならぬ事がある。

リズの行方。

生き残りのあいつ等ならば、知っている。


殺しては不味い。

ならば、一撃をお見舞いしてビビらせる。

人間は生命の危機を悟れば容易く話す。 筈。


よし、これだ!!

綺麗にまとまった思考に、怒りの感情が薄れ満足気な表情を浮かべるエリス。


ここはブレス?

ドラゴンわたしと言えばブレス的なところはあるけど・・・

あれはだめだ。 下品。 その言葉に尽きる。

下呂を吐いて勝ち誇るとか・・・ 女子としてどうなの? ナイナイ。


ならばこう。

腕を突き出だし人間に向けた。(少し上方にずらす。直撃回避の為。

純粋な魔力をぶつける。

小細工無しの無慈悲な一撃を。


エリスは黙って魔力を貯める。

有無を言わさぬ一撃の準備を始めた。



一方、人間達は慌てふためく。

表情豊かな化物にどう対応するべきか、判断できずにいた。


先程放たれた咆哮。

直撃を受ければ鼓膜をやられていた。

魔力の壁でどうにか防いだものの・・・

化物はその事に、顔を赤くしてご立腹中である。


咆哮の内容を彼らは聞き届けていた。

リズとやらの所在。

男二人組には心当たりがあった。

もう一人の化物しょうじょ

あの子が生きているであろう事を告げればいいのかもしれない。


が、分らない・・・

間違っていれば殺される。

そんな確信が彼らにはあった。

ただ、話す機会は必要。

向こうもそれを望んでいる、、、 筈だ。

チャンスは必ず訪れ・・・


再び高まる魔力の波動に気付いた時、彼らは一時思考を停止させた。

目前に迫るは確実な死。

逃げ場など何処にもない状況に置かれている事に、彼らは気付く。


もし、彼らが一介の兵士や雑兵であれば、その場で膝をついたであろう。

だが彼らも人の世では一流。

歯を食いしばり、守りの体勢に入った。



残念。

あわよくば、一撃放つ前に終わるかと考えたのだが・・・

そう美味くはいかないものだな。


後は放って脅す。 それだけだ!

死んでくれるなよ。



そう考え・・・ 


今に相応しい決めポーズをイメージする。

だって、腕を突き出して魔力の球を打ち出すだけじゃ・・・ カッコ悪いだろ?


なんかこう・・・ ある筈。

心に響くような、誰もが真似したくなるような。 凄いの!

今にして思えば、魔力の溜め方からしてなっていない。

見ている者がいるのだ。

カッコいいのを一つ決めねば!!


例えば・・・ こう。

空いた腕を突き出した手に優しく添えて・・・

腰は低く落とし、余剰魔力で無駄にスパークなんか出したりして・・・


いいんじゃないだろうか?


例えばこう!

突き出した腕と魔力玉を一度胸のあたりの展開して、魔力を収縮。

勿論、甲高い音とスパークはセット。

収縮が完了した魔力玉を手で勢いよく握りつぶして、最後に投擲ポーズ。


後は・・・



は! し、、 しまった。


手に集う魔力を前にエリスは固まる。


何も・・・ 考えてなかった。


カッコいい技名にオシャレな詠唱・・・

そして何より・・・ 手向けの言葉。


投擲ポーズのまま冷や汗を足れ流すエリス。


まずい・・・

でも・・・ ただの魔力玉だし・・・

リズの事だって気になるし・・・

最終兵器だって探さなきゃ、なのに!


でも、だめ!

これは、、 アイデンティティの問題。

これを放棄するなんて・・・ 絶対に無理!!


こんな時に・・・ 何たる事。

痛恨の極みだ!!!



顔は青く染まり、思考が停止していく。

回らぬ頭で、突拍子もない事に思い至る。


もしかすると、これは人間共による心理攻撃?

いやそんな筈ない。

彼奴ら守りに入って、攻めてこないし。


考えれば考える程、思考停止は加速する。


どうする・・・

どうすれば・・・


つまらぬ意地を捨てれば、簡単に終わる問題。

しかし、エリスはその事に気付けない。


これは生き方の問題だからだ。

つまらぬ意地、されど貫き通して数千年。

生きた時が長すぎた。

意地を捨てる思考など・・・ 当然、生まれて来る筈も無い。


もう、、 訳が分からない。

考えるの・・・ 疲れちゃった。


そう思い至るまでに、時間は掛からない。


思考の放棄と魔力制御。

共存出来る訳もなく、彼女の意識を完全に刈り取ってしまった。




純粋な魔力が解き放ったれる。

人間に向かて放つつもりが、意識の喪失により行き場を失う魔力。


暴走魔法。

エリスを中心に全てを飲み込む魔力の渦が閃光と共に炸裂した。


言い換えるなら、、 ただの自爆。

秘めた魔力も全て誘爆し、エリスを飲み込んだのだ。



呆気にとられたのは人間達。

守りの体勢に入っていなければ、爆発に巻き込まれていたであろう。

しかし、それを好機と逃げに転ずる。

敵対関係やエリスの事を全て投げ出し、逃げる事に全力を尽くす。

勿論、追いかけて来る者などいなかったのだが、彼らは安全が確保されるまで逃げる事を辞めなかった。




その日、世界から一つの町がなくなった日。

エリスは懸賞金付きの指名手配を受ける事になる。

その額、10億マルクス。

死を問わないその初手配は、世界中の人間を驚かせた。


しかし、エリスがその事を知るのはもう少し先の話。

何故なら、この時のエリスは、傷つき目を醒ませないでいたからだ。

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