第10話 オークション4 生存者
金の砂漠から思い出の品を取り上げる頃には、エリスは正気を取り戻していた。
周りの状況から判断するに・・・ やってしまったようだ。
いやな汗が頬を伝う。
やってしまった事は仕方ない。 が、、、
エリスは顔をみるみる青くさせた。
「リズーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
忘れていた。
出来立てほやほやの新しき友の存在を忘れてしまった。
あれほど暑苦しく鬱陶しい存在を失念していた。
生き埋めにしてしまった・・・ いや、もしかしたら挽肉かもしれない。
人間とは脆弱な生き物だ。
もし、、 もしかしたら・・・ 死んでいるのか?
最悪の事態が脳裏を過る。
あわわわわ・・・・。
どうしよう・・・ こんな事になるなんて・・・
は! 思い付きで上空から状況を確認。
改めて、すべき事を模索する。
目の前には金の砂漠。
厳密に言うと金の豪雨が全てを破砕し、金の重みで全てを押し潰した後の
そこにリズの姿を確認する事はできない。
金を消し去り、町の残骸からリズを探す?
いや、駄目だ。
今、金を消せば不安定な地盤が崩れ、全てが土に埋もれるかもしれない・・・
いや、このままにしておく方が不味いか?
思考を巡らせるエリス。
しかし、時は待ってくれない。
ボン!!
鈍く地に響くその音は、金の下で地盤が崩壊した音を思わせた。
躊躇う時間などない。
そう判断し、膨大な量の金を一瞬のもとに消し去る。
残ったのは町の残骸と大きなクレータ。
そして、クレータ中央部に寄り添う数名の人間のみ。
そこにリズの姿は無かった。
◆
人間達は化物を見上げていた。
化物が見ている。
その圧迫感は、先ほどまで受けていた金の圧力よりも強い。
金の地獄を耐えた人間達。
男女のカップルが一組と男二人組の計4人。
降り注ぐ金を退け、圧力を掛ける金を押し戻し、崩れかけた地盤を繋ぎ止めて耐え抜いた。
本来、彼らは敵同士なのだが、そんな事を言っている場合ではない。
命を掛けた共闘をする事に異存がある者は無かった。
「フィドル! どうだ? やれそうか?」
「いえ、しかし足止めはしてみせます。 姫様は今のうちに退却を、、、」
「えらく弱気だな、フィドル?」
カップルのやり取りに口を挟む男。
「黙れ、お前と話す事など無い!」
「やれやれ、嫌われたものだな・・・ して、クラウス?
お前のロストギアは壊れているのか?
何故、あの化物の力を見抜けなかった?」
「分かりません・・・
ですが、、あの時、あの化物からは力を感じませんでした!」
「・・・」
フィドルにあしらわれた男が、連れに確認した事。
それは警戒対象を間違えた事によるもの。
ロストギアが警鐘を鳴らしたのは、エリスに対してではなかったのだ。
男は思う。
故障しているなら助かる、だが、そうじゃないなら・・・
最悪の場合、Sクラスを二人相手取る事になる。
本当に最悪の事態だ。
猫の手だって借りたい。
「フィドル? いつも得物は持ってきているのか?」
「あれは国宝! やすやすとは持出せん!」
「やれやれ、手持ちの武装では勝てそうにない訳だが・・・ どうする?」
本当に手詰まりだった。
◆
町から少し離れた場所にて、親子が語らっていた。
「ねー、パパ」
「なんだい? リズ」
「見て見て、腕が潰れちゃった、キャハハ」
肘より先が無くなった腕を父に見せつけ喜びの声を上げる少女。
その顔は喜びのあまりひどく歪んでいた。
「ハハハ、すごいじゃないか新しいリズのお友達は!」
「うん、すごいの!!
首をねじ切るつもりで抱きしめてたのに壊れなかったの!! フフフ」
「そうだ! 頑丈さは友達の必須条件さ。 いつもは簡単に壊れたから・・・ 仕方がない」
父親がしんみりとした顔をする。
今までリズに友達が出来なかったのは、自分の責任だと言いたげである。
「ごめんね、パパ。 心配かけて・・・ でも、お友達が出来ちゃったみたい!!」
「いいんだ、リズ!! 君が幸せならパパはいつだって幸せだから!!」
幸せそうに語らう親子。
語らった後、暫しの抱擁が続いた。
そして、
「ところで、リズ! 腕は治さないのかい?」
「これはエリス様とのキヅナ。 治すもんですか!!」
「ごめんリズ! 不便かなと思って・・・ つい」
「いいの、でも義手は欲しいかな」
「パパに任せろ!! 何だって買ってやる!!」
「そう? ならロストギア『銀の手』が欲しいわ!!」
「ああ、あれな。 たしか西方の国の国宝じゃなかったか?」
「無理、かな?」
「時間は掛かるが、お前とならやれるさ!」
「パパ、大好きーーーーーー!!」
腕のない娘を抱きとめる父親。
その姿が闇の中へと消えていく。
「ねえ、エリス様。
服も汚れちゃったし、また今度、遊びましょ! フフフ」
そんな言葉を最後に残し、親子の姿は完全に消失していた。
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